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    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。ワンライお題3回:バックハグ/手繋ぎ(@brak_60min)ブが化粧品のCMに出た話。

    ##ブアワンライ

    B&S『お前を守る――全ての敵から』
    「お、おぉ……!?」
     驚嘆をあげたと同時に、アキラは思わずテレビの画面を消してしまった。暗い画面に映る、ソファーで転げた間抜けな自分。呆然と見つめていると、ようやく落ち着きが戻り、恐る恐るテレビをつける。画面では新作ドリンクのコマーシャルが流れていた。若手のアイドルが眩しい笑顔を見せている。良かった。どうやらあのコマーシャルはもう終わっているようだ。
     今日はオフだったので、早朝からロードバイクを走らせ朝食を摂り、そのままグリーンイーストのスポーツ店に寄っていた。そのまま午後はボルダリングに行くかバスケットボールの試合に行くか悩んでいたところだ。ビルに掲げられた巨大な広告を、ふと見上げたのが悪かった。
     目元が見切れた女性を後ろから抱きしめ、カメラ目線でこちらに透き通ったマゼンタを向ける美丈夫。その色気を纏った姿に呆然としたアキラは、気付けば研修チームの部屋へと戻っていた。
     自身のメンター、ブラッドが女性用化粧品――肌を守る、所謂ファンデーションの広告オファーを受けた話を聞いたのは数ヶ月前だ。
     ヒーローは芸能人ではない。街を盛り上げ活性化させる業務の一環としてタイアップは行っても、個人的なオファーを受ける理由はない。ブラッドはそう言って断っていたのだが、企業の必死なアプローチに根負けしたようだ。司令が乗り気だったのも理由の一つらしい。その時のアキラは、男が化粧品のコマーシャルなんて絶対に間抜けな結果となるだろう、ブラッドを笑ってやるチャンスだと、内心ほくそ笑んでいた記憶がある。
     ――その結果がこれか。アキラは脳裏に焼き付いたブラッドの姿を思い出し頭をふる。紫外線を女性の敵として、その敵から守るファンデーションをヒーローとして表現したコンセプト。上手く考えられていると思う。シックなスーツを身に纏い、女性を守るように背後から抱きしめたブラッドの姿は間抜けとは程遠く、自身もファンデーションを使ったのか、マットな肌触りの中に見せる男性らしい彫りの深さと影を落とした鼻筋、そして長い睫毛に囲まれながらこちらへ熱い視線を向ける赤紫の瞳は、無量の色香を纏って見る者を魅了していた。
    「くっそ……」
     これでは笑ってやることなど出来ない。
     早く忘れてしまおう。頭を乱暴にかきながらゲームを始めようとリモコンを手に取った時だ。また低く掠れた甘い声がアキラの鼓膜を刺激する。
    『お前を守る――全ての敵から』
    「ぎゃー!! なんでまた流れんだよ……!」
     女性を背後から抱きしめ囁くテノール。その光景に重ねられた「お前を守る――全ての紫外線から」と書かれた文字。
     悲鳴をあげたアキラは咄嗟にリモコンを画面に向け、電源ボタンを押そうとする。しかし、その直前に現れた指がリモコンを掠め取っていき、残ったのは女性の首筋に口元を寄せたブラッドの姿。
    『紫外線を肌から守る、貴女だけの新しいヒーロー』
     透き通ったナレーションの声が響く。アキラは画面を見つめながら、隣に立つ男へと手を伸ばした。リモコンを取り返そうとするが、手の届く範囲にはないらしい。その間にも映像は流れ続ける。女性の手とブラッドの手が艶かしく重なり、繋がれる。
    『決して離れはしない』
     こちらに視線を向けて言ったブラッドの声と、商品の映像でコマーシャルは終わった。画面が切り替わり、次のコマーシャルが始まる。先程の艶やかさとは一転、子供たちが楽しそうに野原を駆け回っていた。
     体を押しやられ、ソファーが沈む。アキラは諦めて隣に視線を向けた。
    「感想があるなら聞こう」
     そう言って制服を着た男――ブラッドはテレビを見つめたまま腕を組む。用があって部屋に立ち寄ったのだろう。タイミング最悪だろ、とアキラは映像とは真逆の厳格な姿に呆けたまま口を開く。
    「……エ、エロすぎね?」
     言えた感想はそれだけだった。ブラッドの左眉がピクリと揺れる。
    「それだけか」
    「いや、やべーだろ。あれはやべーだろ。あぁ、うん……でもよ……えぇ……?」
     言いながらアキラは頭を抱える。訪れた感情が言語化出来ない。そうして暫くの間「やべーやべー」と口にするアキラだったが、流石に焦れたのかブラッドがその腕を取って覗き込んでくる。
    「少しは嫉妬すると思ったが」
    「はぁ? なんで嫉妬するんだよ。意味分かんねーよ」
     たかがコマーシャルの映像に何を言い出すのか。アキラが眉を吊り上げて不可解そうな表情を見せていると、ブラッドは考えるような仕草を見せて頷いた。アキラの腰を引き寄せ、背後に回った顔が耳元で囁く。
    「お前を守る――全ての敵から」
    「ギャーーー!!」
     ぞわり、と背筋が粟だった。二の腕に鳥肌が立つ。思わず飛び跳ねてソファーから逃げるように立ち上がると、また腰を抱かれ、ブラッドの膝の間へと座らされた。そして逃さぬよう背後から強く抱きしめたあと、首筋に口付けが落とされる。
    「ちょ、やめろって……!」
     アキラは暴れるが、ブラッドは止まらない。今度は腕を掴まれ、伸びてきた手がゆっくりと手首から指先を這う。艶かしい動きを見せる指が、重ねられ、繋がれていく。
    「決して離れはしない」
     そう言って抱き寄せる手に力をこめるブラッドに、アキラはついに降参した。くたりと脱力していると背後から楽しそうな声が聞こえて来る。
    「……成る程、お前にはこちらの方が効果は大きいらしい」
    「マジでヤメロ……テメェのせいでチンコ勃ったじゃねぇか、どうしてくれんだ」
     ブラッドはまだ職務中だ。このままセックスに持ち込むことも出来ない。
     よくも人の性欲を弄んだな。胸中でぼやきつつ恨みがまし気な視線を送れば、触れるだけの口付けが寄せられる。
    「そうだな……次のオフに然るべき場所でちゃんと再現してやる」
    「いらねーよ、いい加減にしろ」
     どうやら次のオフの予定はここで決まったようだ。
     アキラの反応が余程お気に召したのか。表情こそ変わらないものの、新しい玩具を見つけたようにアメジストを輝かせるブラッドに、アキラは「冗談……だよな?」と唇の端を引き攣らせることしか出来なかった。
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