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    @2152n

    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ未満。誕生日スーツの話。

    ##ブラアキ

    オーダーシート「なぁブラッド、もっと明るい色がいい」
     言いながら、自室から出てきたアキラは唇を尖らせた。臙脂色のスーツは、どうやら派手好きの彼には物足りないようだ。胸元を指さしながら不満そうな目を向けてくる。ブラッドは頭の天辺から足の爪先までアキラの姿を眺めて頷くと、ソファーから立ち上がった。近付けば、説教が始まると思ったのか警戒した眼を見せるので、首を横に振って襟に手を伸ばす。
    「ネクタイが曲がっている」
    「お、おぉ、サンキュ。……結ぶの久々だから、すげー苦労したぜ」
    「メジャーヒーローを目指すのなら、正装する機会は今後増えることになる。練習を習慣化しておくといい」
    「げ。マジかよ」
     ブラッドの言葉にアキラは頬を引きつらせた。
     チームワークを意識し始めた十年前に広報部が発案した、ヒーローのバースデー企画。正装に身を包み、ポートレート撮影を済ませたあと、インタビューでこれまで達成したことや印象に残った出来事、反省と課題、そして新たな一年への目標などを答えていく。ヒーローとしての意識を主役に根付かせ、同時に市民への認知度も上げることが目的だ。
     元々、アキラはスーツのデザインや色味に対して「格好良くて、キラキラしてて、燃えるような赤がいい」と希望を出していた。それを知ってデザイン部への申請書を取り上げたのが先月のこと。
    「コメディアンにでもなる気か」そう眉を顰めれば不思議そうに首を傾げられたので、覚えた眩暈にふらつきながらブラッドは「スーツはこちらで手配する」とデザイン部に伝え、数か月ぶりにアキラを馴染みのテーラーへと連行した。無茶な納期に応えてくれた店には感謝しかない。
    「セレモニーの時と違って今回はオレのお祝いだろ? 主役だったら派手でもいいじゃねーか」
    「希望の色は使っている。文句を垂れるな」
    「ぐぬぬ……」
     ブラッドは一歩下がると、納得出来ないのか悔しそうに唸るアキラのスーツをもう一度観察した。
     シンプルだが伸縮性のあるシャツに濃藍色のネクタイ。葡萄染のベストとメリハリが生まれるよう、臙脂色のスーツはノッチドラぺルにバーガンディーを採用した。ポケットはスッキリとした印象を持たせるためにノーフラップポケットだ。全体的に落ち着いた、やや渋めのコーディネートとなっているが、活発的な習性とのバランスを崩すことなく、大人びた印象を与えている。全てブラッドが希望したオーダーだ。
    「悪くない」
    「……あのな、オレの誕生日なのに、なんでテメェの好みを着なくちゃなんねーんだ」
     満足げな表情を見せるブラッドに、アキラがジト目を向けてくる。
     そんなつもりはない。――と、言いたいところだが、実際ブラッドの欲目は少なからず入っている。愛しい弟子がヒーローとして迎える初めての誕生日だ。少しでも市民に良い印象を与えたいという親心は否定できない。勿論、親心だけではない感情と思惑も含まれているのだが。
     どうやら自分は、想像以上に独占欲が強いらしい。ブラッドは苦笑しながら言った。
    「これでも、お前の魅力を最大限引き出そうと悩んだ上でオーダーしたつもりだ。……似合っていると思うが、どうしても不満があるのなら既製品の中から見繕っても構わん」
    「別に不満があるわけじゃねーよ。……たしかに、格好いいとは思うし。ま、まぁ、天才だからどんな服でも似合って当然だけどな!」
     ただ難癖をつけたかっただけのようだ。照れ臭さを隠すようにアキラは鼻を鳴らして腕組みをする。どうやら彼は、そのスーツに込められた意図に気付いていないらしい。
     スーツと共にテーラーから受け取ったオーダーシート。これを渡すのは、夜でもいいだろう。ブラッドは、襟を正して気合を入れ直しているアキラを見ながら、慈しむように目を細めた。
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