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    @2152n

    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。ブ誕。寿司を握るアの話。

    ##ブラアキ

    1分前に抱きしめた「寿司? お前が?」
     そう驚いたのはブラッドだった。イーストセクターにある日本料理を扱った馴染みの店は、店主にも顔を覚えられているほどの常連だ。ニューミリオンには他に独自のアイデアで創作された寿司屋もあるが、唯一の正統派はこの店のみだった。
     ブラッドの反応がお気に召したのか、アキラは歯を見せて笑った。
    「ああ、今日はオレがお前の寿司を握ってやる」
     向う鉢巻を頭に巻いて、板前法被を着たアキラは、いつもの定位置――ブラッドの横ではなく、カウンターの向こう側にいる。彼の隣で腕を組む店主を一瞥すれば、どこか楽しそうにしていた。なるほど、共犯者か。
     寿司を食わせてやる。誕生日パーティーを追え、皆お開きとなった頃、アキラはそう言ってブラッドをタワーの外へ連れ出した。あと二時間足らずで日付も変わる。店が開いていないと言ったが、アキラはいいから、と半ば無理矢理イーストセクターに向かうリニアにブラッドを押し込んだ。
     そしてブラッドのよく知る馴染みの店に来たアキラは、シャッターが半分閉まった入り口にブラッドを手招き、カウンター席に座らせ、現在に至る。
    「今日はずっと様子がおかしいと思っていたが……そういうことか」
    「だってお前、ずっと祝ってもらってばっかで全然空く気配ねーからよ、マジで日付変わるんじゃないかって思ったぜ」
     言いながらブレスレットを外したアキラは打ち水をする。そして布巾でよく手を拭ったあと、背筋を伸ばしてシャリ玉を握り始めた。無駄のない動作、客を意識した動き。なるほど、かなり練習を積んできたようだ。感心していると、店主がブラッドに向かって肩をすくめ苦笑した。
    「ニか月前に『寿司の握り方教えてくれー!』って一人で来た時は転職でもするのかと思ったよ。最初は全部おにぎりにしちまうからどうなることかと思ったが……」
    「言ーうーなー! 駄目にしたやつは全部食ったからいーだろ!」
    「馬鹿言うんじゃねえ、あの酢飯だって用意した奴がいるんだぞ。これがブラッドさん相手じゃなきゃ、板場に立たせるなんざ有り得ねえんだからな!」
    「分かってる、分かってるって、うるせぇな」
     最初に連れてきた頃は、マナーのなっていないアキラに顔をしかめていた店主とも、今では随分打ち解けたようだ。板場で言い争いをしながらもアキラは次々と寿司を握り、準備していく。そして完成したのか「よし」という声と共に、テーブルの上へ寿司下駄が置かれた。数種類の鮪、勘八、穴子、イクラ。他にも並ぶネタはどれも高級食材で、少し困惑する。普通、盛り合わせというものは、脂の乗ったものとあっさりしたものでランクをバランスよく用意したものだ。その反応を見て店主は言った。
    「俺はやめろって言ったんだけどな」
    「誕生日なんだから高いやつの方がいいに決まってんだろ。あと赤いネタの方が格好いいし」
    「アキラらしい。だが、そうだな……折角握ってくれたのなら、有難く頂こう」
     呆れながらも、そう言ってブラッドは箸を手に取ると口に運んだ。ネタは当然ながら、シャリの握り方も丁度良く、口の中でほろほろと崩れた酢飯がネタと絡み合って心地よい食管と味だった。
    「短い期間で覚えたにしては、よくできている」
    「だろ!?」
     褒めればアキラが身を乗り出してくる。すぐに店主にゲンコツを落とされていたが。既にパーティーのご馳走で胃は膨らんでいたが、いつもより小ぶりなシャリのおかげで完食できたブラッドは、湯飲みに口をつけながら言った。
    「ご馳走様。美味しかった」
     時計を見れば誕生日が終わるまで残り十五分。夜遅くまで付き合ってくれた店主にも礼を言って、アキラにタワーへ戻ろうと言いかけた時だった。
    「あー……あと、ついでにこれ」
     アキラが板場から手を伸ばし、ブラッドの前に木箱を置いた。ブラッドは首を傾げた。
    「お前からのプレゼントはもう貰っているが。……肩叩き券十二回分を」
     普通なら十回のところが二回もおまけがついてるんだぜ!
     そう言って薄っぺらい紙一枚を渡してきた数時間前のアキラを思い出していると、アキラは「ちげーよ」と眉をしかめた。
    「あれは上司用。これは……その、アレだよ、アレ」
    「アレとはどれだ」
    「だから、アレだって」
    「……分からない」
    「~~~~っ、だから! 恋人用……!」
     傾げた首を更に落としたブラッドに焦れたのか、アキラはそう言い切って木箱を指さした。
    「お前、この前マイ箸折れたって言ってただろ! だから!新しいやつ買ってやったんだよ!」
     相変わらず不遜な物言いだ。ブラッドは思いつつも、少し遅れて訪れた驚きに目を瞬かせた。期待をしていなかった分、余計にだ。
    「……てっきり寿司がプレゼントかと」
    「これは余興みてーなもんだよ」
     貴様は余興のために二ヶ月も準備するのか。言いたかったが、拗ねさせるだけだろうと胸の内に仕舞った。彼を不機嫌にさせたいわけではない。こみ上げる喜びに、口角が緩む。
    「丁度欲しいと思っていた。……感謝する、大事に使うと約束しよう」
    「そりゃどーも」
     照れたアキラが目線を反らしながら鉢巻を外す。その様子を見ながら、ブラッドは少し離れた場所で満足げに頷く店主に声をかけた。
    「すまないが、あと十五分だけ滞在しても構わないだろうか」
    「十五分と言わず、もっとのんびりしてくれて構わないさ。どうせ厨房で仕込みしてるから、満足したら好きな時に帰ってくれ」
     邪魔者は退散っと。そう言って店主は軽い足取りで厨房へと消えていった。その後ろ姿へアキラはジト目を向ける。
    「ぐぬぬ……あのおっさん、オレが練習に来てた時は『用が終わったらさっさと帰れ』って蹴ってきたくせに」
    「アキラ」
     ブラッドは悔しそうに厨房を睨みつけるアキラを呼んだ。振り返ってこちらを見る彼に、隣の席へ座るよう促す。
    「時間がない、早くこちらへ」
    「?」
     今度はアキラが首を傾げた。ブラッドは苦笑を浮かべて言った。
    「俺は、まだ『恋人のアキラ』から祝いの言葉を聞いていない」
    「っ!」
     びくりと揺れる肩、徐々に赤くなっていく耳。ブラッドはもう一度言った。
    「俺は、今のお前から、祝いの言葉が欲しい」
     ハグが付いてくると、もっと嬉しいのだが。
     そう言うと同時に法被を脱いで、客席に回りこんだアキラが祝いの言葉を口にしながら飛びついてきたのは、誕生日が終わる一分前のことだった。
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