テルテル坊主 一つ、二つ。丸い紙屑を作って、それをティッシュペーパーで包み込む。根元を紐で縛れば、お化けのようなものが出来上がった。マジックペンで顔を描いてやれば、テルテル坊主の完成だ。
なかなか可愛い人形になったんじゃねーの? イースターの時もそうだったけど、もしかしてオレって絵を描く才能があるのかも。
そんなことを思いながらにっこり笑った人形を掲げていると、ブラッドがアキラの心を読んだかのように
「ほう。初めてにしては上手く作れている。イースターの時もそうだったが……意外と絵のセンスはあるのだな」
なんて言うものだから
「意外と、は余計だっつーの!」
と、持っていたテルテル坊主をブラッドに投げつけた。おい、と柳眉の間に皺が作られたが、お前が悪いんだとアキラは舌を出した。
ブラッドはムッとしたが、何も言わなかった。
「それで?」
ブラッドの質問に、アキラは話の途中だったことを思い出す。
「えーと……あぁ、そうそう。オレとディノがそんな感じで落ち込んでたら、キースが『それって鳴き声だったのか?』とか言いだして」
「…………」
「あっ、いま笑っただろ!」
「……笑ってない」
「いーや、笑ったね、オレ見たからな!」
「笑ってない」
「……お前、本当そういうトコ頑固だよな」
思わずジト目を向けるアキラに、ブラッドは「ちゃんと手も動かせ」と誤魔化した。二人で作ったからか、気付けば顔のないテルテル坊主は足元にたくさん転がっている。
「なぁ、これ何個作ればいいんだ?」
「数に決まりはない。好きな数を作ればいい」
「百個でも?」
「……吊るすことの出来る範囲を考えろ」
「冗談だよ」
肩をすくめれば、ため息をついたブラッドが床に転がるテルテル坊主へ視線を落とした。白い人形を見て、細められるマゼンタ。
懐かしそうに優しい色を紡ぐそれを見て、アキラはふと、浮かんだ言葉を口にした。
「フェイスとも作ってたのか?」
「……」
上げられた顔。驚きに固まる表情。
しまった、と思ったが口に出してしまったものは仕方ない。
「あー……いや、なんとなく、思っただけ」
言いながら、アキラは真っ白なお化けたちに顔を描いていく。
二人の関係が良好ではないことは知っていた。けど、今までは二人の関係にこれっぽっちも興味はなかった。
こうしてテルテル坊主を一緒に作るような関係になって、彼の表情の機微に気付くようになって、変わったことは、他にもたくさんある。
やはり失言だったか。黙るブラッドに気まずさを感じていると、一つのテルテル坊主が転がってきた。
見れば、マジックペンで描かれた顔は歪で、お世辞にも可愛いとは言えない。
「……?」
不細工なそれを手に取ってブラッドに視線を移せば、手にはマジックペン。
「昔、頼まれて作ったことがあったが……その顔を見て、フェイスは怖いと泣いていた」
むすりと難しい顔で言うブラッド。アキラはたまらず笑った。ブラッドはムッとしたが、何も言わなかった。
「悪りィ、悪りィ……で、どこまで話したっけ」
「鳴き声のところだ」
「ああ、そうだった。それでさ、ディノがテルテル坊主のこと教えてくれて――」
アキラは話した。キースと話したこと、ディノと話したこと、ついでに今日食べたホットドッグの美味しさと、パトロール中に見つけた面白いもの。サブスタンスの話、空き缶を踏んで転びかけた話、ダイナーで言い争いしてたカップルの話。
ほとんどがどうでもいい話で、ありふれた日常で。
けれどブラッドは、同期の話以外にも耳を傾けて聞いていた。時折相槌を打ちながら、手はずっとテルテル坊主を作っていた。
顔は相変わらずのポーカーフェイスだが、その空気はどこか柔らかかった。
こんな彼を見るなんて、一年前の自分に言えばどんな顔をするのだろう。ブラッドの中で、今の自分はどう変わっているのだろう。そんなことを考えていたせいか、描いたテルテル坊主の顔はムッとしてて。
「なぁ、コレ。ブラッドに似てねーか?」
アキラがそう言って見せれば、ブラッドはムッとした。でも口元は緩んでいて、少し可笑しかった。