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    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。ワンライお題4回:雨の日(@brak_60min)雨の日は古傷が痛むアの話。
    35×25捏造幻覚強め。やや痛々しい描写あり。若干暗め。

    ##ブアワンライ

    レイニー・ブルー 遠くから聞こえる耳鳴りのような雨音に、ブラッドは意識を窓の方へと向けた。曇天に走る疎らな線。予報と違う天候に、そのような日もあるだろうと視線を読みかけの本へ戻す。今日は互いにオフだからと、昨夜ブラッドのマンションに押しかけたアキラは、久しぶりの逢瀬を楽しんで満足したのか今も夢の中を泳いでいる。自由な男だ。
     AAA〈トリプルエー〉になってようやく大言壮語に実力が伴った彼は、最近その傲慢ぶりに拍車がかかっているようで、よく同室のメンターと衝突していると聞く。調子に乗るところは七年前と変わらない。あまり口煩く言う気はないが、そろそろ一度お灸を据える必要があるか。そんなことを思いながら頁をめくれば、新たに現れた登場人物が「アキラ」という名前で思わず笑った。主人公のガールフレンドが飼っている犬の名前だったからだ。

    「……遅い」
     二時間後、本を読み終えたブラッドは、まだ寝室から現れないアキラに眉をしかめた。いつもならオフであろうと、逢瀬の翌日だろうと、早朝に起きて行動している男だ。今日はそういう日もあるだろうとゆっくりさせてやったが、時計は既に正午を回っている。
     何かあったのか。ブラッドはソファーから立ち上がると、寝室に近付いた。
    「アキラ、入るぞ」
     ノックをしても返事はない。扉を開けば、うつ伏せでぐったりしているアキラがベッドに寝そべっていた。窓のない部屋は雨音一つなく、静かで寂寂とした匂いがする。ブラッドは近付き、不安げな様子で顔を窺った。目は開いていたが、いつもの快活な表情はなく、シーツに潜ってどこかぼんやりとしている。
    「……風邪か?」
    「んー……ちげぇ」
     そう言って枕にしがみつく。薄い唇からは億劫なため息が溢れた。白い布の中で足がもぞもぞと動く。
    「……いてぇ」
     ブラッドは、その言葉で彼の不調の原因に思い当たった。いつもより血色のない肌。なるほど、もうそんな季節か。
    「……」
     少しの躊躇いのあと、ブラッドはアキラを覆うシーツをずらした。背中、右側の肩甲骨、その少し下にある、やや白みのかかった場所。猿の手のひらほどの大きさの傷痕に、寄りそうになる眉根をグッと堪える。
    「いま、雨降ってんのか?」
    「ああ、二時間ほど前に降り出した」
    「どーりで。……チッ、ブラッドとボルダリング行きたかったのに」
    「舌打ちはやめろと言ってるだろう」
    「分かってるって。外ではやってねーよ」
     アキラは不機嫌そうに顔を顰めて、けれどやはり痛むのか、それ以上は何も言わなかった。職場での態度について話をする気でいたが、次の機会になりそうだ。
     ブラッドは黙って背中に指を這わせる。水溜りのように浮かぶそこは、少しザラザラとしていた。――火事に巻き込まれた時に出来た、火傷跡だ。サブスタンスを投与する前にできたものだから、消えることなく、ずっと残り続けている。
     痛々しく目立ったそれは、二年前から疼き始めた。秋雨続く季節に始まったイクリプスとの大規模な抗争、その最中、トリニティとの戦闘で起こしたオーバーフロウ。訓練で制御を身につけたとはいえ、限界の先を超えた力の放出。
     仲間と共に掴み取った勝利と引き換えに、アキラの全身は雨の中、一週間燃え続けた。サブスタンスの治癒能力で戻る肌を、肉を、何度も何度も焦がし続けた。断末魔を上げる姿を見て、一層この手でその苦しみから解放させてやるべきかと、炎が消える日まで絶望に毎晩怯えていた自分の烏滸がましさは、今思い出しても滑稽だ。そうなった原因は、実動部隊を指揮する立場にあった自分だというのに。
     完治したあとも、当然ながらヒーローになる前の火傷痕は消えることがなかった。むしろ、まるでまだその場所に炎が燻っているかのように、以来この時期に雨が降ると痛むようになっていた。そういう時は仕事も休んで、今日のようにシーツに潜っている。それがまた無力のようで腹立たしいと、AAAになれたのが実力ではなく情けのように感じられて悔しいと、以前愚痴を溢していたことがある。
     彼の傲慢さは、きっと虚勢も混じっているだろうことは、薄々気付いている。
    (せめて俺が、火傷を負う前に救い出していれば)
     けれど、そうだとしても、あの炎に焼かれ続けた未来は変わらないだろう。ならば、一層助けなければ良かったのか。考え始めると、どうにも思考が陰鬱になっていく。歳をとって、益々自分の選択に自信がなくなっていく。これが弱くなるということか。元妻との再婚を機に引退したジェイの言葉を思い出した。表情に翳りを作っていると、頬に手が伸びてくる。アキラの手だ。
    「ブラッドのせいじゃねーよ」
     アキラは気怠さを残したまま、ブラッドに挑発的な笑みを送る。けれど歪で、どこか泣いているようにも見える。彼にしては珍しい、自嘲気味の、弱々しい挑発だった。
    「お前はちゃんと、助けてくれただろ?」
    「……何の話だ」
     高鳴る胸を顔には出さず、ブラッドは答える。アキラの顔は、少しずつ赤みを取り戻していた。雨はもう止んでるのかどうか、この部屋では分からない。窓のない部屋を寝室にしたのは失敗だったか。
    「……あー、そう。まだ言わねーんだな」
     アキラはブラッドにジト目を向けると、そう言ってため息をついた。この茶番は、実のところ二年前から続いている。けれど、ブラッドはまだ真実を告げる覚悟がない。怯えているわけではない。その言葉を肯定してしまうと、彼を手放せなくなりそうだから、言えないだけだ。
     アキラは痛むのか、またぼんやりと視線を彷徨わせた。物憂げな仕草は、昨夜の行為もあってか成長と共に滲み出た色気を孕んで、いけないと分かっていながら俗気を煽られる。そんなブラッドの胸中を読んだのか、背中に添えた指に手が乗せられた。掴まれ、ややかさついた指先が、誘われるように薄い唇を押し当てる。
    「でもオレは、オレをヒーローにしてくれた、オレを助けてくれたヒーローに今でも感謝してるんだぜ」
     アキラは挑発的に笑った。今度は口端が綺麗な弧を描いていた。
    「別に、見つからなくてもいいけどさ、見つけたら礼を言わせてくれ。アンタのおかげでオレがあるってな」
     そう言って指にリップ音を残すと、アキラは「あ~腹が減ったな」といつもの調子を取り戻した。
     雨はきっと、止んでいるのだろう。
    「……そうだな。いつか、見つけたら言ってやれ」
     ブラッドは、憂色晴れた心地が広がるのを感じながら、そう答えた。お前はそうやって、何も知らない癖に核心をついた言葉を与えてくる。
     救われたのは自分も同じだ。その言葉も、いつか言える日がくることを願う。
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