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    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。ワンライお題5回:勝負(@brak_60min
    クライミングデートしてる話。

    ##ブアワンライ

     目線が合う。もうここまで登ってきたのか。込み上げる焦りを必死に押し殺して、アキラは頭上を見据えた。パッドまでもう少し。ホールドの数は四――大丈夫だ。
     息を詰め、力を溜め込む。呼吸をするな。そのまま一気に駆け上がれ。真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに。
     次のホールドへロケットのように飛び移っていくアキラ。その横では、静かに、けれど無駄なく冷静に駆け上がるブラッドの姿があった。彼も呼吸が速度に邪魔であることを知っているのだろう。汗で額に貼り付く髪もそのままに、新たなホールドへ手をかけている。
     たった十五秒程度の、長いようで短い時間。それに終わりを告げたのは、パッドを叩く乾いた音だった。
    「~~~~っ、くっそぉ~~!!」
     悔しさを隠しもしない雄叫びが辺り一体に響き渡る。ルートを蹴り、宙を浮きながら顔を覆ったアキラは奥歯を噛み締めた。
    「これで三勝一敗だ」
    「うるっせぇな! 分かってるよッ。……トモアスキップなんか覚えやがって」
     ゆっくりとアキラの高さまで降りてきたブラッドを睨みつけながら、アキラは吠える。
     ブラッドとスポーツクライミングに通うようになってから三ヶ月。最初はボルダリング勝負だと、自分の土俵で戦っては珍しく負けるブラッドの姿に鼻高々なアキラだったが、スポーツクライミングがボルダリングだけではないことを知ったブラッドからスピードを提案されてからはこの様だ。勿論アキラはスピードも経験しているが、どうも相性が悪い。ブラッド曰く「お前は無駄な動きが多すぎる」とのことらしいが。
    「次はボルダリングで勝負しろ!」
    「断る。ルートに詳しいお前の方が明らかに有利だ」
    「ぐぬぬ……そんなこと言って、この前ちゃんとオブザベして勝ったじゃねぇか」
    「あれはマグレだ。するなら、せめて俺が慣れてからにしろ」
    「慣れたら勝てねーだろ!」
    「……なんだ、負けることは分かっているのか」
    「ぐ……クソッ」
     言い返すことが出来ず、アキラは舌打ちしながら地上へ降りるとハーネスを外し座り込む。同じく身を軽くさせたブラッドは、水分を補給すると「それで」と続けた。
    「どうする。もう一勝負するか」
    「いいよ。やらねぇ。……あんまり体力使い過ぎると……寝ちまいそうだし」
     最後の言葉は余計だったか。次第に小さくなる言葉。その意味を理解したのだろうブラッドは、口元を緩めると「そうか」と答える。
    「なら、少し早いが着替えて食事にするか」
    「っ! ホットドッグか!?」
     ブラッドの提案に、先程の不貞腐れた顔はどこへ行ったのか、アキラは期待に満ちた笑みで顔を上げる。ブラッドは首を横に振った。
    「既に店は予約してある」
    「ンだよ。汗かいて体動かした後のホットドッグが一番うめぇのに」
     勝負には負け、好物のホットドッグは食べられない。どうやら今日は良い日で終わることが出来ないようだ。
     目に見えて落ち込むアキラに、ブラッドは喉をくつくつと鳴らした。渋々見上げれば、笑みを堪えている。なんなのだ。片眉を吊り上げるアキラに、ブラッドは言った。
    「ホットドッグを食べ過ぎて満腹だからと眠られては困る」
    「な……っ」
     先ほどの言葉に対するジョークのつもりか。否定したいところだが、先日彼が言った通りの行動を起こした過ちがあるため反論出来ない。
     この男には何をしても勝てない。悔しい。悔しいが、決して届かないわけではない。なら、いつか乗り越えて、自分の背中を見せてやる。
     ――とはいえ、それがすぐに叶うわけではない。アキラはせめてもの意地で「ドレスコードがあるところは嫌だからな」とぼやきながら手を伸ばす。それを取り、彼を起こしたブラッドは「安心しろ。サウスセクターのレストランだ」と穏やかに目を細めた。
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