mutual resemblance 今年のハロウィン活動はルーキーに案を任せよう。そう決まったサウスセクター研修チームでは、ウィルがパンプキンパイを作って配りたいと提案した。それならオレはミニランタンでも作って配るかな、と去年見かけたランタンを思い出しながら言ったのはアキラだ。決してウィルのパンプキンパイから逃げたわけではない。
そうして内容が決まり、オスカーはウィルを、ブラッドはアキラを手伝うことになったのだが。
「なあ、見ろよこれ。ブラッドに似てねえ?」
そう言って完成したランタンを掲げれば、ブラッドが視線を上げて半眼を向けてくる。
「似ていない」
「そうか? この怒ってそうな感じ、似てると思うんだけどな」
何個目になるか分からないほど床に転がったランタンたち。ペンで顔を描き、スプーンでワタを取り、ナイフでくりぬいていく。意外と地味で難しい作業だが、大抵のことは何でもこなせるブラッドはともかく、アキラも存外器用に作っている。本人曰く、絵は得意とのことだ。
色んな表情を作っては楽しんでいるアキラは「自信作だってのに」とブラッド似のランタンを見ながら唇を尖らせてぼやいている。その姿を見て、ブラッドは思わず頬が緩んだ。顔を逸らしたが、目敏く気付いたアキラがジト目を向けてくる。
「なんだよ」
「……わざわざ俺の顔を描くほどとはな。随分好かれたものだと思っただけだ」
「はぁっ!?」
どうやら自覚がなかったようだ。ブラッドの言葉に目を丸くさせたアキラは、次いで顔を真っ赤にさせながらランタンを振り回す。
「ふ、ふふふ、ふざけんじゃねーぞ! ンなこと誰も言ってねー……って、なんだよ」
噛みつかんばかりの勢いでブラッドに突っかかるアキラの目の前に突如差し出されたのは、ブラッドの作ったランタンだった。最初こそ同じ表情ばかり模造するように作業していたが、アキラの同じ表情が一つもないランタンを見て感化されたらしい。少し歪で、間抜けな顔をしている。
ぽかんとしながらランタンを見るアキラに、ブラッドは静かに言った。
「アキラだ」
「は?」
「これは、アキラによく似ている」
「どこがだよ。全然似てねぇ」
「そうか。この馬鹿そうな表情はよく似ていると思ったのだが」
「っ! ……ぐ、ぬぬ」
意趣返しだと気付いたのだろう。アキラが悔しそうな唸り声をあげた。
これ以上からかうと拗ねて一人で作業しかねない。折角の楽しい時間が終わるのは困る。ブラッドは肩をすくめると、差し出したランタンをアキラの膝に乗せた。
「冗談だ。これはお前にやろう」
仲直りの印だと言葉を足せば、アキラはブラッドの作った膝のランタンと自分の作った手の中のランタンを交互に見つめた。そしてようやく折れたのか、ブラッドにジト目を送りながらも渋々手に持つランタンを差し出してくる。
「……じゃあオレもこれやるよ」
ブラッドは返事の代わりにそれを受け取った。手の中のランタンは、確かに怒ったような仏頂面を見せている。
「似てねーな」
「ああ、似ていない」
ブラッドの作ったランタンを手に持ったアキラが隣で呟くように言った。ブラッドも同意した。
しかし、そのランタンはハロウィン当日お互いの部屋で飾られている。似た者同士、考えることは同じらしい。