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    二人が一緒に寝るだけの雷飛

    #雷飛
    leiFei

     トールの手が、ゆったりと呂布の脇腹をくすぐる。当の呂布はむずむずするだけである。何が楽しいのだろうか、と思えど、代替手段であるので止めるわけにはいかなかった。
     連日のことで流石に疲れてきた呂布は苦言を呈した。少しはこちらのことも考えてくれ、と。その言葉にハッとしたトールである。神と人間とでは体のつくりからして違うことを考慮していなかったようだ。呂布は神代から離れた時分の身の上である。トールが直に知っている人間より――呂布がいくらその時代の人間からしたら強靭とはいえ――やや脆いのは事実であった。しかしだからと言ってトールは呂布と触れ合うことを諦めたりしなかった。譲歩という形で提示したのは、共寝である。なにもしないから一緒に寝よう、と言ってきたのだ。大の男二人が、同じ寝台で寝る、というのは最悪である。むさくるしいので呂布は当然拒否したかったのだが、ダメだろうかと呂布を見つめるトールの、その視線に、呂布は折れざるを得なかった。共寝を許したのである。
     そして二人で同じ寝台に横たわる。早々に寝てしまえば気にしなくて済むだろう、と呂布はトールに背を向けて寝ることにしたのだが、トールが背中にぴったりとくっついてきた。
    「おい」
     呂布は寝返りを打とうとしたがあまりにもトールが近くにいたのでそれは叶わなかった。取り敢えず今日はしない、ということを念押しして牽制する。
    「やらんぞ」
     トールの長い腕が、呂布に絡み、大きな手が、肌に触れる。
    「わかっている。だから、触れるだけだ」
     ぎゅっと抱きしめられ、息が詰まる心地がしたが、それ以上は何もしてこないような気がする。
    「……触れるだけ、だからな」
    「ああ、誓おう」
     呂布の耳の間近でトールが話すので、いつもよりも深く声が響いた。神が誓うと言ったのだから、それは守られるだろう。とにかく、今日はしないことがわかり安堵する呂布は目を瞑った。寝れば気にならなくなる、と思ったからだったが、その間にも、トールの手は呂布の体を這い回った。鎖骨を撫で、胸筋に触れ、脇腹をくすぐり、へその上を横切り、内腿をなぞる。
     すん、とにおいを嗅がれたのがわかると呂布は我慢ができず、後ろの存在に肘打ちを食らわせた。どすっと、いいものが刺さったトールは「ぐっ」と呻いた。巻きついていたトールの腕が外れ、呂布は自由になる。
    「呂布よ、なにをする」
    「それはこっちの台詞だ! 物事には限度というものがあるに決まっているだろう!」
     寝かけていた呂布は体を起こし、寝台に座り込んだ。それにつられて、トールも体を起こす。
    「お前は我を寝かす気があるのか!?」
    「あるから、こうして触れるだけにしていただろう」
    「その触れ方に問題がある!」
    「そうなのか? どんな問題だ?」
     こと、と首を傾げたトールに、呂布はぐぬっと言葉を詰まらせた。
    「触り方が、こう……なんというか……むずむずするのだ」
    「むずむず、とは具体的にどうなんだ?」
     突っ込んできたトールに呂布は苛立ったが尋ねられたのなら答えなければならなかった。
    「お前の! 触り方が! いやらしいんだ! 寝ようとしても寝付けん! だから、やめろ!」
     呂布は叫んだ。トールはぽかんとした様子でそれを聞いて、なんと言われたかを咀嚼し、理解したらしく「ああ」と言った。
    「つまり、貴様の官能を刺激する触り方だったということか?」
     直球なトールの物言いに、呂布は近くにあった枕を殴り、低く唸った。
    「……そういうことだ」
    「なるほど」
     トールは頷いた。ようやく自分のしたことを理解したらしい。
    「私が悪かった。謝ろう。このとおりだ。だから、ともに寝ることだけは許してくれないか」
     頭を下げるトールに、呂布は少し歯噛みしたが「許す」と返した。
     二人は再び寝台に横になる。次は向かい合わせてである。呂布はもうトールがなにもしないかを監視する意図があったが、トールは単純に呂布の顔が見れて嬉しかった。
    「もうなにもしないな?」
    「しない」
     疑る呂布にトールは即座に答える。別の部屋で寝る、などと言われなくてよかった、と思っていた。布団を手繰り寄せ、被せると、連日のことで疲れている呂布はすぐにうとうととし始めた。トールは静かにして、呂布が寝入るのを見守った。
     寝息がたったのを確認して、トールは静かに、呂布の額に唇を落とした。
    「おやすみ、私の呂布」
     そうしてトールもまた眠りに就いた。

     実は寝相が悪かった呂布に蹴り飛ばされてトールが目覚めたのは、夜更けのこと。そんなところも愛しいトールは、布団をかけ直して、寝台の端で再び眠ったのだった。
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    amei_ns

    DOODLEキスが好きなトールとキスをされる呂布の雷飛 トールはくちづけをするのが好きらしい、と呂布は気がついた。むやみやたらと呂布の体に唇を落としたがるし、その唇が触れるときには自然と口角が上がっている。そのくせ、痕という痕はつけてこない。まあ、呂布の普段の格好が格好だからかもしれないが。それが気遣いであるとするなら、素直に受け取っておくのである。下手につついて、蛇を出すこともあるまい。
     唇が合わさる。普通なら目を瞑るのかもしれないが、トールも呂布も普通ではなかったので、目を開いたままだ。視線がカチ合ったまま、キスをする。トールの舌が催促するように呂布の唇を舐めると、呂布は口を開き、トールの舌を受け入れた。口内を蹂躙しようとしてくる舌に対し、呂布は応戦する。二人にとって、キスもまた戦いであった。どちらの勝ちというものもないが、相手を負かすことを考えているのであれば、それは戦いとなる。
    「っ、ふ……ぁ」
     呂布の口から吐息が漏れ、それはトールの耳に届いた。官能を刺激する、いい音だった。ぬる、と舌同士が絡み合い、くちゅりと音を立てる。始めの頃はそう、軟体生物のようなそれを受け入れるのは苦手な部類だったが、いまはそうでもない。むしろ心地がい 1381

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    DOODLE自分の感情に悩むトールとめんどくさがる呂布の雷飛愛、という言葉は、二人の間にはあまりにも似合わないものだ。だから、決してこれは愛ではない、とトールは定義していた。わかっていた。わかっている。わかって、しまっている。これは愛などではないと。愛と呼べるほど甘やかではなく、激しく、燃えるように、苛烈で、暴力的な、それは愛などでは決してないのだと、そう、理解しているはずだった。
     けれど呂布を見るたびに、感じるたびに、思い返すたびに、弾ける胸の内を表せる言葉を、トールは知らなかった。友に向けるには凄絶過ぎるそれを、どう定義していいのか。その問題は詩情を理解したことがないトールには難しすぎた。
     この胸の内を、どう表していいのか。困って、困って、困って。
    「それで我に尋ねてどうするんだ」
     トールよりも詩情というものを理解しないであろう友、呂布本人に尋ねるまでに至った。
     呂布は此奴混迷し過ぎだろう、という感想を持った。それでもこの頃には聞くだけは聞いて放置というわけには行かず、一緒に考えてやる程度にはトールのことを突き放せなくなっていた。
    「激情ではダメなのか」
    「ダメだ。もっと好意的な解釈がしたい」
    「慈しみ」
    「そうではない。これはそこ 1222

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    DOODLE子猫にじゃれつかれるトールを見てる呂布の雷飛「助けてくれ」
     トールが助けを求めるなど、どんな天変地異があってもないことだと思っていた。けれど、それは有り得たらしい。トールからの連絡があり駆けつけた呂布は、その光景を目の当たりにし、驚愕で目を見開いた。
    「お前、なにをしているんだ……?」
     トールは子猫に群がられていた。数は、五匹くらいだろうか。ぴゃう、ぴゃう、などと鳴きながら、小さすぎて恐れというものをまだ知らないのだろう。トールの足元をよじ登っていたり、その足元でころころと転がっていたりと、それぞれに違う反応はしていたもののどれもがトールの傍にいるという点では一致していた。
    「見て分かるだろう」
    「いや、見て分からん。どうした?」
     使用人が邸の傍に捨てられていた箱を持ってきたら入っていた、というのである。
    「私を恐れない生き物など初めてだ……」
     はぁ、と溜め息をつくトールの揺れる髪の毛にちょいちょいと手を出している子猫もいた。
    「お前のことだから捻り潰していても不思議ではなかったが」
    「こんなもの、殺したとてどうなる」
     呂布が近付き、一匹をひょいと拾い上げる。シャーとも言わない、警戒心というものすらまだないのではあるま 1199

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    MOURNING今書いてるやつで気に入らなくなって没にした展開の雷飛「貴様が了承したのであろう」
    「なにをだ」
    「……まさか覚えてないのか」
     呂布が頷くと、トールは目を見開いた。
    「ばかな……」
     そう呟くトールの様子を見て、自分が忘れたことはそんなに重要なことだったのだろうか、と思い冷や汗が背中を流れた。
    「教えろ、トール。我はなにを了承した」
     自分が昨日なにをしたか知るのはトールしかいない。今にも熊などを捻り殺しそうな剣幕で、呂布はトールに尋ねた。
    「貴様はな、呂布よ」
     トールは重々しく口を開いた。

    「私と婚約することを、了承したのだ」

     沈黙。

    「は?」

     こんやく。こんやく、とはあの婚約か? 宇宙に放り出されなにもできない猫のような顔をする呂布に、トールは続けて言った。
    「今朝、父、オーディンからも貴様と婚約していいという許しを得た。貴様と私は晴れて婚約者というわけだな」
     唇の端を少し上げ、微笑むトールに、呂布はまだ宇宙に放り出されたままのような顔をしていた。今朝ということはそう何時間も経っていないはずである。それなのにあのオーディンから許しを得たということはトールの仕事は早かったということで、混乱したままの呂布はせっかく整えら 631

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    DOODLE行為のとき首に噛み付こうとしてくる呂布を肩に誘導するトールの雷飛。いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。
     その結果、トールと呂布は、いわゆるそういうことをする仲になっていた。この話は二人が寝所を共にしているところから始まる。

     首とは急所である。それは人も神も同じだ。否、神にとって弱点であるから、神を模して作られた人間もそうなっているのだ、と言わなければならないだろうか。首は頭部と胴体を繋ぐ関節であり、また太い血管の流れる箇所である。そこに食いつかれようとするならば、危機を感じ、避けようとするのが普通の心情であろう。
     それは、北欧最強神であるトールもそうであった。首に食らいついてこようとする友の額を押さえそれを阻止する。
    「噛むなら肩にしろ」
     押さえた頭をそっと肩の方に誘導すると、呂布はおとなしく肩に齧り付いた。呂布の鋭い歯で噛まれたことにより、痛みが走るがその程度で表情を歪めるトールではない。がじがじと肩に歯型を付ける呂布に、ほどほどにしておけなどという言葉をかけようかと思ったが、やめた。どうせもう聞こえてはいないだろうことがわかったからだ。
     意識が朦朧とする中でもしっかりとトールに掴まり、肩に齧り付きながらも時折口を離し喘ぎ声 1774

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    DOODLE呂布に死んで欲しくないってしたトールと対応に追われた呂布の雷飛「貴様は、天でも、退屈したら死ぬのか?」
    「まさか。ここにはトール、お前がいるではないか。それだけで、我の日々は退屈からは程遠い」
     トールは眉間に皺を寄せたままその言葉を受けた。呂布の言葉に懐疑的なのはそれだけでわかった。面倒だな、と思いながら呂布は頭を掻いた。なにかの拍子に生前の呂布について見てしまったトールは、呂布が目の前から消えることを恐るようになった。なるべく目の届く範囲にいてほしい、と友に願われた呂布はしかたなしにそれに付き合っていたが、陳宮が近況を送ってくる頻度が高くなり、また赤兎馬の様子も気になっていた。そのため、この状況を打破しなくてはならないな、と思っていたところだった。
     喋るのはあまり得意ではない。全てを解決してきたのは武、であったから。言葉などは不要だった。武以外のことは陳宮やほかの配下に任せてきたこともあり、不得意であった。いくら頭を悩ませたところで武器を取る、以外の答えが見当たらない。顔を曇らせる友に、慰めの一言すらでてこない。体を動かすのは自由であった。軽い手合わせなら何度もした。呂布はどうすればいいのかと考える。…………。ちっともわからなかった。
     呂 1238

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    DOODLE神トールと悩む呂布の雷飛 鉄の手套をしていないトールの握力は凶器である。通常時のミョルニルですら握り壊してしまう可能性のあるそれは、紛れもなく殺戮兵器の域に達している。しかし、最近のトールは呂布と素手で触れ合いたいがため、呂布の前では鉄の手套を外すことが多くなっていた。――今回はそれがあだとなった。
     ミシッ、と軋む音がしたと思ったときには、すでに遅く。トールに掴まれた呂布の腕は粉砕されていた。咄嗟のことだったので、トールも力加減を間違えていた。何が起こったのか理解するよりも先に、握り壊された呂布の腕の折れた骨が刺さった血管から、鮮血が溢れ出てトールの手を、落ちた血が床を、汚した。トールが手を離せば、血はどんどんと溢れて、落ちる。呂布には当然痛みはあったが、うめき声一つあげることなく、半ば引きちぎれた腕を完全に引きちぎり、邪魔になった腕を放り投げると、傷を残った手で押さえた。少しでも血の流出を抑えるためだ。
    「布はないか」
     呂布の声で唖然としていたトールはハッとして自らの着ていたものの一部を破り、呂布に渡した。呂布はそれを片腕で器用に流血している箇所に巻きつけ、止血をする。それはどちらかといえばこれ以上床を 1906

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    DOODLEキスをする二人の雷飛 トールの不思議な色をした目が間近にあるというのは、どうにも慣れない。普通キスをするときには目を瞑るものだろうが、普通ではないトールと普通ではない呂布がそれを行うときには、互いに目を閉じたりしない。気恥ずかしくなった方が負けなのである。相手をガン見しながらのキスは、それは落ち着かないものがあるがしかたがない、と呂布は思っている。
     なぜか、どういう訳か、なにがあったというのか、そういう仲になった二人である。トールは案外甘えたなところがあったが、甘えるのが下手な上に相手は呂布なので、変な方向に転がることが多々あった。キスの時のこの所作もその一端である。二人にかかるとなんでも戦いになってしまうのは――そういう性分である。生きづらいのはお互い様であった。
     ちゅむ、ちゅ、ちゅむ、と角度を変えては軽く押し付けられていた唇が、次第に大胆に呂布の呼吸を奪うような、荒々しいものに変化していく。吐息すらも逃がさないとばかりに、はく、と口を大きく開き呂布の唇を閉じ込める。
     トールの口から伸びてきた舌が唇を擽れば、呂布は口を開かざるを得なくなる。侵入してきた舌は呂布の特徴的な尖った歯を一本一本丁寧に愛撫 1706

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    DOODLE気づいてしまったトールと断る呂布の雷飛「私は、貴様が好き……なのかもしれん」
     トールから捻り出された言葉は、呂布を唖然とさせるには充分だった。ぽろ、と肉がこぼれ落ちたのを下につくまでに拾い上げることになんとか成功した呂布は、それを口に放り込みもぐもぐと噛み締めてからごくりと飲み込んだ。
    「なんだ、それは。どういうことだ」
    「そのままの意味だ。私は、お前が好きなのかもしれん」
     トールはもう一度言った。一度言ったからか、次には絞り出すようにではなく随分とスムーズに言葉に出していた。
    「それはどういった意味の好きだ?」
    「……愛おしいと思ったり、慈しみたいという気がしたりする、それだ」
     呂布はうっかり杯を取り落とすかと思った。トールから愛おしいだの慈しみたいだのという言葉がでてきたことに驚いたが、それ以上にそう言われているのが自分であることに、驚愕したのであった。
    「待て。相手は誰だ? 本当に我か?」
    「ああ。貴様だ」
     肯定されて、呂布は頭痛がしてきた。まさか自分が? という気持ちでいっぱいであった。しかもそれが友と認めた、友だと思っている、友として扱っているし、向こうも友として扱ってきているはずの、トールから言われてい 1659

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