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    gt_810s2

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    gt_810s2

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    銀時は一階に住んでて、裏の無認可園に通ってた
    高杉は六階の角部屋とかに住んでるし、幼稚園は私立

    傍にいすぎて、一緒にって言えない コンビニの駐車場を清掃する青年の横で扉が開く。特有のデザインがあしらわれた透明な扉がゆっくりと自然に閉じ、室内から聞こえていた音楽がフェードアウトした。曇った空は空気までも白く濁らせているようで、どこか重みを持った空気が漂っていた。箒で掃いてもコンクリートにつかえて動かない落ち葉に、アルバイトの青年は舌打ちしてから頭を掻き、溜息を吐いた。すぐ傍を通り過ぎた少年二人――ちょうど退転した高校生のお客のうち片方と目が合うと、ばつが悪そうに俯いた。
     彼に焦りを与えたとうの本人はあまり気にも留めていないようで、地面へ視線を移すと、肉まんに齧り付く隣の少年に言葉だけを投げた。
    「明日は」
    「ん? いつも通り」
    「そうか」
     他人が聞いても汲み取れない短い単語のやりとりで、彼らには十分だった。合間にはふはふと湯気だった肉まんは皮を剥がれ、水分がたっぷり含まれたひき肉が見える。素手で包み紙越しの温かさを受け取りながら食す少年は銀時と呼ばれた。信号待ちでぺろりと手に持っていた肉まんを平らげた銀時は、続いてもう一つをビニール袋から取り出す。
    「つっても、さみーし朝練あってもサボりてえけどな」
    「冬の大会があんだろ」
    「どうせ控えじゃん」
    「松陽が聞いたら拳骨食らうぞ」
    「うげ、やめろよ。絶対」
     包みを開く手をぴたりと止め言う銀時に、少年はけたけたと笑い出す。それまで動くのはせいぜい眉位で表情の変化が乏しかった彼が見せた微笑みからは、年相応、ともすれば実年齢以上に幼ささえ感じられた。銀時の頬が鼻先と同じ色に染まる。その笑顔を映した雀茶色の瞳は、暫くの間ほかを見ることが出来なくなっていた。
     歩行者用信号が赤から青に変わると少年は歩きはじめる。見惚れて遅れたのを誤魔化すように銀時は二つ目の肉まんにかぶりつき、距離が開かないよう追いかける。
    「……お前、寒くね?」
    「だから急いでんだろ」
    「肉まん。あったけー」
     嫌味と捉えた少年は答えない。更に歩む足が速まった。口から吐く息は二人とも白く、銀時の方が僅かに色が濃い。自身持つ髪色と相まって、彼が息を吐く度に視界は白く滲む。一歩の幅を広げると銀時はすぐ少年に追い付くも、ずんずんと歩いてしまうせいで肉まんを飲み込むのに苦労した。
    「どうしてもってんなら、一口やってもいいけど」
     片手に半分残した肉まんを大事に握った銀時の言葉を、高杉は無視した。一軒、二軒、三軒の家を越えて曲がり角を左へ。郵便局と薬局、アパート付の月極駐車場をあっという間に通り過ぎた。その間、少年は歩みを遅らせることはなく銀時も黙って着いていくだけだった。
     少年の耳は真っ赤に染まっていて、銀時は深紫の隙間から覗く小さな真朱色を追いかけることしか出来ない。ついに二人が暮らすマンションのエントランスへと辿り着いた。
     幼い頃からよく遊んだスロープ脇のエレベーターホールで、子供たちが笑い合っている。柱にぴたりと体をつけ、フロアの床に敷かれたタイルの線を使ってだるまさんが転んだ。二人にも経験があった。と言っても、彼らは止まった止まっていないですぐに喧嘩を始めるためにまともにやり切れた記憶はほとんどない。
    「おい、高杉!」
     エレベーターを呼び出すボタンを押してようやく、高杉は振り返った。肉まんを片手に追いかけてきた銀時を見ると、眉の間をぎゅっと狭めた。
    「まだ食べてなかったのか、それ」
     指さされたのは冷え切った肉まん。銀時はぱくぱくと口を開け閉めすると、唇をぐっと尖らせた。続きかけた『お前にやろうと』が呑み込まれ、続いて何かを言いかけては口籠もってから、埒があかないと踏んだのかすうと息を吸い込んで。
    「だーっ! 俺はこれがいいんだよ! いいなあこりゃあ! このキンキンに冷えた肉まんが口の中で……」
     怒鳴りながら残りを全部口に放り込むと、今度は激しく咳き込んだ。無常にもエレベーターは降りてきて、高杉は呆れたような顔をすると乗り込んでしまう。
     言葉で挨拶をしない代わりに、小さな小窓越しに視線を交わすのが彼らの習慣だった。涙目になった目をどうにか扉に向けると、目に入ったのは楽しそうな呆れ顔。
    「……半分ことか、馬鹿みてえ」
     呟くと銀時はエレベーター脇にある廊下を進んでいった。上の方からエレベーターの到着音がして、ゆっくり足を進めると、高杉が家の中へ入った音が聞こえる。
     すると更に熱くなり出した頬をつまみながら、銀時は家の鍵を開けた。
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