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    gt_810s2

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    gt_810s2

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    とあるキャバ嬢視点 銀時がかぶき町に流れ着いて生活が安定して暫くして……のイメージ 銀高は全く出てきません

    「まだ気付いてないの?」「だーかーらぁ、そいつはムカつく奴だったんだよ。本当になァ」
    「はいはい、もう散々聞いたわよその話、それで? 大好きなその人と喧嘩して、結局?」
    「愛しのォ? ふざけたこと言ってんじゃねえ、あいつは……俺達ァ、もう二度、と……」
     がたん、と大きな音を立てて隣で大声をあげていた青年が机に突っ伏した。真っ赤な顔で話す度にアルコールの臭いを振りまいて怒鳴っていた人が、ぷつりと、電池の切れた機械からくりのように静かになってしまった。
    「あれ、今日は少し早かったね。落ちるの」
    「そうねぇ。ほんと、何しに来てるんだか」
    「ねえボーイさん、そう。あの客、いいんじゃない? いつも通り玄関に座らせておけば」
     ちょうど最後の客の相手が終わったらしい同僚に呼ばれた従業員が、青年をよいしょと抱え上げた。ぐうかあと上半身を呼吸に合わせて動かして、随分と気持ちよさそうに眠っている姿を見ると、話している時よりも大人びた印象を受ける。
     先々月あたりから夜中既に出来上がった状態でやってくるようになった人。へろへろの状態で可愛い子つけて、なんて言う癖に、私達になんてちっとも見向きもしないでぺらぺらと一人の話を散々して、寝落ちてしまうのだ。
     口を開けばいちいち癇に障ることばかり言って、たまに優しくしてやっても反応が可愛くない、人の話を聞かないばかりか一人で突っ走ってばかり。
     はじめこそ何か嫌なことでもあったか痴話喧嘩の最中か、と思ったけれど来る度に同じ話をして、似たようなエピソードを話して潰れてしまうのだからきっと、その人への感情は昨日今日のものではないように見える。何回か聞いているうちに、あの人の本音が透けて聞こえるようになってきた。
     一言一句が気になって仕方がない、喜んでくれる方法がわからなくて悔しい、追いていかれたくなくていつも必死になってしまう。
     きっと四六時中、彼の頭の中はその人のことばっかりで、大好きで大好きで仕方がない。けど想いを告げる方法もわからなくて――酔っている姿しか見たことがないけれど、彼はそれなりに天邪鬼な人に見えるから――困った末に、こうやって酒に塗れて愚痴を言うことで誤魔化しているんだと思う。
     年は私達とそう変わらない、恐らく二十三、四だと思う。恋愛の仕方は子供みたいだけれど、なんだか憎めない人だった。
    「毎回毎回、本当にいつまで続くんだろうねぇ」
     今日も彼が最後のお客だった。同僚はウェーブがかかったハーフアップを結った紐を解いて、ぱりぱりにスプレーで固められた髪の毛をふわりとおろした。なんだか熱っぽい甘い香りが漂ってくる。更衣室だと何人分もの匂いが混ざって少しうんざりするけど、こうして嗅ぐには心地いい香りだ。
     十個ぐらい離れているお客さんだと、私達を物珍しそうに見てくる。髪型も仕事の形態も、天人の文化が入ってくる前とは随分違うらしくて、よくその違いを延々と話していくお客さんだっている。
     私達が生まれてきた頃はとっくに天人たちは地球に蔓延っていて、諦めの悪い人達が攘夷戦争を長引かせていたことは知っているけれど、もう当たり前になってしまっている。たまあに刀を差している人も見るけど、誰も近寄りたがらない。
    「私はあのお客さん嫌いじゃないよ。変な色眼鏡で私達を見ることもないし、なんだか可愛いじゃない」
    「本当? 私たちにあんな延々とのろけてないで、本人に早く言えばいいのに! って思っちゃう。そうじゃないならさっさと諦めたらいいのに」
    「うーん……でも、自覚なさそうだよ」
    「えっ嘘、まだ気付いてないの?」
    「うん、多分そう。彼、いつも話題に挙げる人のことが好きだって、まだ自分でわかってないのよ。だからどうすればいいかわからなくて、伝えられなくて、話して帰っていくんじゃないかしら」
    「あっちゃあ……そりゃ重症だわ」
    「ね、可愛いでしょう?」
     口紅を落として、シートで肌のくすみを覆い隠したファンデーションを拭う。そのまま帰ってもいいけれど、なんとなくだらだらと居残ってしまうのだ。背後でそそくさと着替え終わった仲間は次々に帰っていく。静かな室内、二人きりになってこそりと耳打ち。
    「……もしかして、狙ってる?」
    「まさかあ、お金がない人はごめんだもの。安酒ばっかり」
     わざとらしく口許を手で覆って笑い飛ばしてみると、同僚はそうだよね、と安心したように笑った。同じくわざとらしく笑ってみせた彼女の瞳に安堵の色が浮かんでいたのを、私は見逃さなかった。
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