記憶と匂いは結びつく 人間の記憶と匂いというものは、随分と繋がりが深いもんらしい。一度食べた料理の匂いがするだけでその味だけでなく共に食べた相手や見た景色、触れた感触までも思い出す。同じ匂いを嗅ぐだけで特定の一人が浮かび上がる。――兎角、吸い込んだ”それ”ひとつで、人間の脳は余計な情報をいくらでも生み出しちまうようだ。
「……いつもよりウンコみてえな色」
吐き出した煙に呆れを乗せて溜息を吐いた。煙管の火皿に乗せるため傍らに取り出した葉を軽く摘まむと二本の指ですり潰しながら戯言を抜かしたかと思えば大あくび。口元を危うく噛みそうになった。苛立ちが眉間をも強張らせる。その頭に拳を一発食らわせてやりたいが生憎今は体が怠くてそういう気分でもない。ぎゃあぎゃあと騒がれ鬱陶しく絡まれるのが目に見えている。
1563