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    すずとら

    @sztr0xxx
    twst/🍩と♥️推し(ラギ監・エー監)
    鋼/エドエン
    腐も夢もおいしい´༥`

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    すずとら

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    ⚠️注意⚠️
    ・現時点で最新の7章chapter294までの❤️に関する重大なネタバレあり
    ・ユニ魔捏造あり
    ・なんでも大丈夫な人向け

    な監が帰っちゃった両片想いエー監(愛のちからってすげ〜)な話です
    ユニ魔の詳細が出る前に書かねば……!!!!の気持ちで書きました、強めの幻覚

    #エー監
    aStudent
    #twstプラス
    twstPlus

    願って、愛をみるその日、オレは夢を見た。
    夢と言ってもいつだかに強制的に見せられたご機嫌な夢じゃない。でも、それは確かに夢だった。
    監督生が、いつもと変わらない笑顔でこちらに手を振っている。
    「エース!」
    彼女がオレをそう呼ぶことは珍しくなかった。でも、その声音はいつもより少し高くて弾んでいて、オレはなんだか気恥ずかしいようなこそばゆい気持ちになる。
    そして、そんな気持ちにさせられたことに対してムッとしながら「……なに?」とぶっきらぼうに返事をした。
    「へへー」
    「なんだよ」
    「呼んでみただけ!」
    「……なにそれ」
    監督生が嬉しそうに笑うのがこそばゆくて仕方がなかった。
    いつもと変わらない笑顔で、いつもと変わらずオレの名前を呼んでいるだけなのに。
    でも、そんな彼女がなんだか愛しくて、オレは彼女の名前を呼んだ。すると、彼女は「なぁに?」と嬉しそうに返事をする。
    「なんでもない」
    「えー?なにそれー」
    そう言って笑う彼女は本当に幸せそうで、オレもなんだか幸せな気持ちになった。
    「エース!」
    彼女がもう一度オレの名前を呼ぶ。その響きが心地よくて、オレはもう一度彼女の名前を呼んだ。
    「……なに?」
    「私ね…―」
    その言葉の続きは聞こえなかった。
    でも、オレは確かに聞いた。
    彼女の最期の言葉を。
    *
    「……ス……おい、エース」
    「っ!」
    そんな声で目が覚めた。
    目の前には見慣れた天井とデュースの顔。
    「お前、大丈夫か?」
    「え……」
    大丈夫?何が?そう聞こうとして自分の頬に涙が伝っているのに気が付いた。
    「……なんでオレ泣いてんの?」
    「それは僕が聞きたいが……お前、ずっとうなされていたぞ。それに、なんだか苦しそうだった」
    デュースの言葉に「そう……」と返す。
    自分がどんな夢を見ていたのかは覚えていない。ただ、とても幸せな夢だった気がした。
    「……なぁ、デュース」
    「ん?」
    「……お前さ……もし……もしもだけど、自分の一番大切な人が突然いなくなって、二度と会えないってなったらどうする?」
    「え?なんだ急に」
    「いいから」
    デュースは不思議そうな顔をして、少し眉間に皺を寄せて考え込んだ。
    「……そうだな……僕はきっと、ずっとその人のことを忘れないんだろうなと思う。その人のことを思い続けながら生きていくんだと思う」
    「ふーん……そっか」
    オレはゆっくりと体を起こして、デュースの方を見た。
    「なぁ、デュース」
    「なんだ?」
    「お前さ……あー…やっぱなんでもない」
    「は?なんだそれ」
    「別に、なんでもねーって。それよりさ、今日の昼飯なんにする?」
    オレの突拍子もない質問にデュースは少し呆れた顔をして「なんでもいい」と答えた。
    きっと、オレはもう大丈夫だ。

    * * *

    授業を受けて、お昼に食堂で昼食を食べて、部活をして。そんないつも通りの日常が今日も続く。
    けれど、ただ1つだけ違うのは、監督生がもうここにはいないということだった。
    監督生がいなくなったのは、丁度2年生に上がる頃の事。突然この世界にやってきた彼女は、来た時と同じ様に突然元の世界へ帰ることになったのだ。
    「本当に帰っちゃうのか?」と、みんな聞いた。でも、彼女はいつもと変わらない笑顔で「うん」と答えた。
    「もう、決めたの。私は元の世界に帰ります」
    彼女の意思は固かった。
    だからみんな、彼女がいなくなっても前を向いて歩こうとしていたんだと思う。
    けれど、オレは違った。
    オレは彼女が好きだった。友人としての好意だとずっと思っていたけれど、二度と会えなくなるという事実を目の前にして……彼女がこの世界から居なくなった時、初めて自分の気持ちに気付いたのだから始末が悪い。
    「エース」と彼女がオレの名前を呼ぶ度に、その声が愛しくて仕方なかった。
    「エース」と彼女がオレの名前を呼ぶ度に、その声が心地よかった。
    彼女のことを想うと、胸が苦しくて切なくて……そしてどうしようもなく恋しくなったし、もう二度と会えないなんて嫌だと思った。
    でも、現実はあの日見た夢の様に上手くはいかないらしい。行き来が出来る方法も見つからないまま、彼女は元の世界へ帰ってしまった。
    だからオレは……彼女のことを忘れることにした。

    * * *

    あれから1年が経った。
    最初の頃は、寝ても醒めても些細な事で監督生の事を思い出しては胸が締め付けられていたし、アイツが居たオンボロ寮の部屋に1人密かに足を運ぶ事もしょっちゅうだった。
    けれど人は案外上手く出来ている様で。1年も経てば、彼女への想いは上手く心の底に沈めることが出来るようになっていたし、あの日以来、オレはもう泣くことは無くて、朝起きて苦しくなることだってない。
    次第に彼女のことを思い出す回数も減っていって、今はもうほとんど思い出すことはなくなった。
    冷たいだとか不義理だとか、そう言われてしまえばその通りだと自分でも思う。けど、もう会うことが出来ないのだからこればかりは仕方ないと、心のどこかで割り切らなければどうにかなりそうな心地だったんだと自分に言い聞かせた。

    そんなある日のことだった。
    3年に進級したオレ達は、リドル寮長からの指名でオレが寮長、デュースが副寮長になった。いざその席に着くまで知らなかった事だったけれど、この学園には寮長と副寮長権限でしか入れない蔵書を詰め込んだ部屋が、図書館とは別に1つあったらしい。
    部屋と言ってもそれは一般寮生には分から無い様に特別な魔法が過去の寮長達によってかけられていた様で、寮長就任の発表と同時にオレはリドル先輩に呼び出されその部屋へと案内をされた。

    「へぇー、ここが……」
    部屋に入った瞬間に目に飛び込んできたのはおびただしい数の本だった。それも壁一面全て……というくらい大量の本がそこには並んでいた。
    その部屋の1番奥に大きくて仰々しい机ががあり、その上にはポツンとタブレットが置いてあるのが見えた。きっとあのタブレットでこの部屋を管理しているんだろうと思う。
    そこで、オレはふとある事に気が付いた。
    このタブレット。オレが1年の頃。イグニハイド寮のかつての寮長、イデア先輩がよく代理として使ってたやつによく似てる。
    まじまじとそのタブレットを見るオレの隣にリドル先輩がやって来て口を開いた。
    「先程も説明したけれど、この部屋は歴代の寮長と副寮長しか立ち入ることが出来ない部屋だ。それはキミが今想像しているであろうそれとほとんど同じ物だよ」
    「……それって、つまり」
    オレはデスクへとゆっくり近付いた。そしてそっとその液晶に触れる。するとパッと画面が明るくなり、フワリと浮き上がると画面に文字が浮かびだした。
    『やぁ、エース氏。久しぶり』
    「……っ!」
    その文字を見た瞬間、オレは思わず息を飲んだ。
    『このメッセージはこの部屋のセキュリティシステムにハッキングして送ってるんだけど……ちゃんと届いてる?』
    そんなメッセージが画面に浮かぶ。そして、それと同時に他でもない紛れもなくイデア先輩の声で再生された。
    「え?これ……どういうこと?」
    オレがそう呟くと、リドル先輩は「驚いたかい?」と笑った。
    「彼はイグニハイド寮の元寮長、イデア先輩だ」
    「え?なんで?」
    「この学園で1番のセキュリティシステムを管理できる人物と言えば彼だろう?だから、この部屋の管理は彼が適任だと学園長が言ってね。それで彼にお願いしたんだ」
    リドル先輩が言うには、どうやらそのタブレットはただのタブレットではなく、イデア先輩の作った特別な物らしい。そしてそれは今オレの目の前にあるコレもそう。
    「まってまって、全然意味わかんないんですけど」
    「ははっ、そうかい?まあでもエース。この部屋は君の為に作られたんだ。この意味は分かるだろう?」
    「オレの為って……それはどういう……」
    この部屋の中を見れば分かるよ。そう言ってリドル先輩はその部屋を出た。そして、オレはもう一度タブレットに向き直り、画面の文字を見た。
    『エース氏、元気してる?』
    「えぇ……まぁ、それなりには……」
    『それは良かった。で、早速なんだけどさ、ここの事って他の誰かに話したりした?』
    「……いや、誰にも」
    そう答えるとイデア先輩は『そっか』と言って少し間を置いてからまた話し始めた。
    『エース氏ってさ、監督生氏の事好きだったでしょ?1年の時からずっと』
    その言葉にドキリとした。そしてそれと同時に胸が締め付けられる様な感覚に襲われた。
    「なんで、それを」
    『拙者はなんでも知ってるんで』
    「……そうっすか」
    『でさ、1年の時……君が監督生氏の事好きだって気付いた時にさ、もう会えなくなっちゃうのに告白しないのかな?って思ったんだよね。だって君なら上手く立ち回ると思ったし。でも君はしなかった』
    「……ま、そうですね」
    『どうして?』
    「そんなの……わかんねーっすよ……」
    イデア先輩の言う通りだった。もし告白したとして、成功する確率はほぼゼロに近いと分かっていたから出来なかった。でもだからと言って簡単に諦めることも出来なくてずっと心の底にその気持ちは残っていた。だから、オレはこの気持ちに蓋をして忘れる事にしたのだ。
    『じゃあさ』
    「はい?」
    『今、その気持ちを拙者が聞いて叶えてあげるって言ったらどうする?』
    そんなメッセージが画面に浮かんだ。
    そして、その文字を見た瞬間オレは思わず「は?」と声を出しそうになって……それを寸でのところで飲み込んだ。
    『ま、とりあえずその部屋の中見てみなよ。僕が言ってる事の意味、エース氏ならすぐに解ると思うよ』
    タブレット越しのイデア先輩に促されるままに、オレはとりあえず部屋の中を見て回る事にした。
    本棚の中には難しい本が沢山あって……それはどれもオレにとっては初めて見る物ばかりだったけれど、興味が無いと言えば嘘になる。
    魔法解析学や錬金術、古代呪文語の本なんかもある。それは学園の図書館の蔵書と遜色ない行業たるラインナップで、主に転移魔法や物質の変換、それに基づく魔法や実験に関する物が多い気がする。
    けれどそれよりも目を引くのが、図鑑や伝記、童話といった類の本だった。
    薔薇の王国に伝わる迷子の少女の話、珊瑚の海に伝わる人魚のお姫様の話、悲鳴を集めるモンスターが扉を超えて人間と出会う話に、違う世界に飛ばされて生き延びた少女の、はなし……
    「……何これ、冗談ならキツいって」
    思わずそんな言葉が出てしまう。だって、こんなのまるで……
    『エース氏』
    そんなオレの思考を遮る様に、タブレットから声が聞こえた。
    「イデア先輩?」
    『どう?僕らがここで何をしようとしてたのか、分かったんじゃない?』
    「っ……」
    『僕らだってはいそうですか、って諦めた訳じゃないってこと』
    「……イデア先輩、アンタって人は」
    オレは思わずその場にしゃがみ込んだ。そしてそのまま頭を抱えた。
    『不思議だよね、おとぎ話とか童話も元を辿れば過去の事実が細切れで残された事実で、まさか僕らが欲してた手掛かりだったなんて。目からウロコとはこの事、って感じですな〜』
    飄々とした口調で語るイデア先輩の声に、グルグルと目の前の事実に追いつこうと脳がフル回転していた。
    『エース氏』
    そんなオレを画面越しで見ながらイデア先輩がさっきまでと違う真剣なトーンでオレの名前を呼ぶ。その声に顔を上げると、またメッセージが画面に浮かんだ。
    『今、僕らはあと一歩の所まで来てる。でも、そのあと一歩がどうしても足りない。そこで、エース氏に協力して欲しいんだよね。勿論、タダでとは言わないよ』
    「……何をさせたい訳?」
    オレがそう言うと、イデア先輩はまた楽しそうに笑った。
    『そんな警戒しないでよ』
    「別に、警戒とかじゃなくて」
    『うん分かってるよ。……エース氏、君は今好きな人はいる?』
    その問いにオレは少しだけ考え込んだ後「いる」と答えた。すると画面の向こう側から嬉しそうな声が聞こえた気がした。
    『じゃあさ、その人にもう一度会いたいとは思わない?会いたくて会いたくて仕方ないって思わない?』
    「思うよ。……でも、そんなん無理でしょ」
    『そう?本当にそう思う?』
    「……何が言いたいの?」
    『エース氏ってさ、頭良いんだからもう分かってるんでしょ?』
    その言葉にオレは思わず息を飲んだ。
    『この学園にはさ、色んな魔法がかけられてるよね』
    そんなメッセージと共に、画面には学園の地図と様々な色の光が点滅する様になった。
    「え……これ……」
    『そう、これは拙者が在学中に作ったシステムマップ。この学園の魔力の流れを可視化することが出来る便利な代物ですぞ』
    「なんか……すご」
    『でしょ。で、この学園にはさ、色んな場所に魔力が込められた物が沢山あるんだよね。それは例えば、魔法石だったり、妖精の祝福を受けた植物や花だったりするんだけど』
    「……うん」
    『その魔力をね、ちょっと利用させて貰ったんだよ。ほら、拙者って天才ですから』
    そんなメッセージと共に地図上にひとつ赤い点が光る。その赤い点は学園内のとある場所にポツンと1つだけあった。
    「この赤い点って……?」
    『そう、それが今回のキーポイント』
    イデア先輩の言葉にオレは首を傾げる。そして、その赤い点の場所をもう一度よく見てみた。すると、そこは……
    「……オンボロ寮?」
    『そう、あのオンボロ寮。実はね、過去の出来事と照らし合わせて調べた結果、あの寮にはかなり強い魔力が定着してる事が分かったんだよね。だからゴースト達も住みやすくて定住してたのかも』
    「……え?じゃあ」
    『そう。あの寮の中はさ、他の場所に比べてなんでか知らんけど魔力濃度が高いんだよ。特に監督生氏が使ってた部屋にあった鏡が』
    イデア先輩の言葉に思わず息を飲む。だってそれってつまり……そういう事だろ?
    昔、まだ監督生が居た頃。確かに言っていた。寝室の鏡にミッキーとやらが時折映ってるって。
    『ま、厳密に言うとアレは鏡じゃなくて扉だったんだけどね』
    そんなオレの思考を読み取ったのかイデア先輩がそう呟く。それを聞いてオレは「え?」と聞き返した。
    『覚えてない?いつだかにオンボロ寮の空からツムが降ってきた事あったでしょ?』
    「いや、覚えてるけど」
    そんなの忘れるわけが無い。だってそれは……オレにとって最悪の思い出なのだから。
    『あれさ、要はその鏡が起点となって異世界との扉の役割をしてた。だから、あの時たまたま偶然ツムの世界とこっちの世界の通過点を上空に作っちゃってた、って訳』
    「……そう、なんだ」
    『うん。で、それが何か関係あるかっていうと……実はその鏡ってまだあの寮にあるんだよね。だから今でもあそこは魔力が色濃く残ってる場所ってこと。さ、ここまで話せばもう分かるよね?』
    画面越しにイデア先輩がオレを見る。その視線を感じながらオレはゴクリと唾を飲み込んだ。そして小さな声で「まさか……」と答える。するとまたイデア先輩は嬉しそうに笑った後こう言ったのだ。
    『そう!そのまさかだよ!』
    「え、いや、だって」
    『拙者の計算だと、あの鏡を使えばまた監督生氏と会える。しかもかなり高確率で』
    イデア先輩のその言葉にオレは思わず立ち上がる。そしてそのまま部屋の中をぐるぐると歩き回った。
    「いやいや、ちょっと待ってよ。確かにあの時のツムが来た事はあったけど……あの時はなんか変な魔法?が働いてたからじゃん。それがなきゃあんな……」
    『あんな?』
    そんなオレの言葉を遮る様にして、タブレットから声がした。オレを追いかけるようにして声が聞こえてくるそれにハッとして画面を見る。するとそこには呆れたような顔をしたイデア先輩の顔があった。
    『あのさぁ、エース氏って馬鹿なの?』
    「……は?」
    その言葉に思わずムッとした。けれどそんなオレにお構いなしといった様子でイデア先輩は話を続けた。
    『僕らはあと一歩の所まで来てる、って言ったでしょ。キミ、自分のユニーク魔法をお忘れ?アレって確かさ、対象の特別な物をエース氏が奪う事が出来る魔法だよね。それも、どんな物でも』
    「え……あ……」
    『だから、その鏡がもし本当に異世界との扉の役割をしてるならさ。それを使って監督生氏と会える…それどころか、こっちに引っ張って来れると思わない?』
    イデア先輩の言葉を聞いてオレは思わず言葉を失った。だって、そんな方法思い付きもしなかったから……
    「……で、でも」
    『なに?まだなんか問題あるの?』
    「ユニーク魔法に対してはやった事あるけど……人そのものに使えるかどうかなんてわかんないっすよ」
    『いや、キミならできるよ』
    オレの言葉にイデア先輩は即答した。その自信ありげな言葉にオレは思わず「なんでそう言い切れるの?」と問いかける。するとイデア先輩はまた少しだけ間を置いてから話し始めた。
    『だってキミ、この学園に来てユニーク魔法を発現した当初に比べて格段に魔法の技術も魔力量も上がってる。それこそ、寮長に指名されるくらいにはね。それに……ここまで来てまだ気付いてないの?君にとって監督生氏の存在がどれだけ大きかったか』
    「え?」
    そんなイデア先輩の言葉に思わず声が出た。そしてそれと同時に顔が熱くなるのが分かった。そんなオレを見てイデア先輩が笑う。
    『魔法はイマジネーション、想像力と感情が大事ってそれエレメンタリースクールの子供でも知ってますぞ〜?……ま、そういう事だから。あ、でもこの事は誰にも言っちゃダメだよ。もし誰かにバレたりしたら拙者が殺されちゃうからね』
    そんな冗談なのか本気なのか分からない事を言った後『じゃあね、エース氏。また連絡するよ。その時はいい返事期待してるから』
    そう言い残し、イデア先輩は暗くなった画面の向こうに消えていった。
    オレは暫くの間矢継ぎ早に告げられた話に呆気を取られて呆然としていたけれど……ふと我に返って立ち上がると、部屋の一角に置かれていた鏡の前へと向かった。そして、そ姿見の前に立つと大きく深呼吸してからゆっくりとマジカルペンを取り出す。
    「大丈夫……オレなら出来る……」
    かつてユニーク魔法を発現したあの時と同じ様にそう自分に言い聞かせるように呟いてから、オレはそっと目を閉じた。あの時手を握って鼓舞してくれた相手はこの場には居ないけれど、あの瞬間のオレを支えてくれた手の温もりと声は今でもハッキリと覚えてる。そして心の中で強く願ったのだ。もう一度彼女に会えるようにと……

    * * *

    それから約1ヶ月後。
    オレは再びこの部屋へと呼ばれたのだった。
    『エース氏、おつ』
    そんなメッセージと音声と共にタブレットがオレの元へと飛んでくる。オレはその画面越しにいるイデア先輩に向かって「あざっす」と短く返事をした。
    『さて、そろそろ答えを聞かせて貰える?』
    「……答えって?」
    『決まってるでしょ』
    そんなオレの問い掛けに対してイデア先輩は笑いながら言った。
    『エース氏、キミは監督生氏ともう一度会いたい?それとも会いたくない?』
    その問いかけにオレは少しだけ考えた後……小さく息を吐いてから答えた。
    「そんなの、会いたいに決まってるじゃん」

    * * *

    『じゃあ早速だけど。エース氏はこれからこの鏡を使って監督生氏と会えるようにする訳ですが……その前にひとつ確認しておきたいことがあるんだけど』
    「何?」
    『キミはさ、なんでまたあの子に会いたいの?』
    イデア先輩の言葉にオレは一瞬言葉を詰まらせた。だって、そんなの理由は1つしかないから。でもそれを素直に言う勇気なんてオレには無かった。だから代わりにこう答えたんだ。
    「……分かんない」と。
    そんなオレの答えに対して、画面の向こうのイデア先輩は少しだけ間を置いてから『そう』とだけ答えた。
    『ま、いいや。じゃあとりあえず鏡の前に立ってくれる?』
    イデア先輩の言葉に従ってオレは姿見の前に立った。すると、その途端オレの目の前に大きな鏡が現れた。それはまるであの時と同じで……
    『よし、繋がったね』
    そんなイデア先輩の声と同時に目の前の鏡に映像が映し出された。そこには見慣れ無い風景の中でベンチに座る監督生の姿が映し出されていたのだ。
    『エース氏、念の為に確認するけど……キミは本当に監督生氏と会っても大丈夫?もしかしたら、あっちはキミの事なんて覚えてないかもしれないよ?』
    「……うん」
    『それにさ、もし会えたとしても……キミのその想いが叶うとは限らない。それでもいいの?』
    「いいよ、それで」
    そんなオレの言葉を聞いてイデア先輩は笑った。そして『そう』とだけ答えるとそのままカチャカチャと何かの操作を始めた。
    『エース氏、今からエース氏の魔力を補う為に補助魔法陣を起動させるから、それが起動したら鏡の中の監督生氏に向かってユニーク魔法を使って。あ、補助って言ってもマレウス氏とレオナ氏に協力してもらった特大容量だから、威力は保証するよ。ちょっと後から痺れるかもだけどまぁそこは我慢して』なんて言葉が続く。
    それを聞いてオレは思わず笑ってしまった。
    「ははっ、マジで?そりゃ光栄だわ」
    『流石陽キャラビュルの寮長サマ。余裕っすな〜。でもさ、僕としては嬉しい限りだよ。キミがそこまでしてくれるなんて』
    「そりゃどうも」
    そんな会話をしていると不意にイデア先輩が『よし、これでオッケー』と言ったのが聞こえた。
    『じゃ、始めるよ。1度展開したらこの魔法陣は事が終わるまで止められないし、一発勝負だから失敗は許されないからね』
    「大丈夫、わかってる」
    『うん。じゃあいくよ……』
    イデア先輩がそう言うと同時にオレの足元が青く光り始めた。そしてそれと同時にオレの身体には何か熱いものが流れ込んで、それと同時に身体中に今まで感じた事の無い位の力が漲ってくるのを感じた。そしてそれと同時に、オレはゆっくりと目を閉じた。
    『……エース氏』
    そんなイデア先輩の声が遠くの方で聞こえる気がした。
    『大丈夫、キミならきっと上手くいくよ』
    「当たり前でしょ。だって、オレ天才だし」
    『そうかもね』
    「……ありがと先輩」
    そんな会話を交わした後、オレはゆっくりと目を開けた。そして目の前に映った鏡の中の監督生に向かって小さく微笑みかけた後に、オレは静かにマジカルペンを構えた。

    「『アンタのとっておき、いただくぜ。』……『ジョーカー・スナッチ』!!」

    * * *

    結果から言うと、作戦は大成功に終わった。

    これは後から聞いた話なんだけど、あの時オンボロ寮で作戦を実行するまで成功するか否か五分五分だったらしい。
    オレのユニーク魔法の"対象の特別なものを奪う"という効果と、向こうの世界大切なの住人として世界に認知された監督生がオレがあっちの世界から奪える対象内に有り得る事は凡そ分かっていたものの、そもそもの世界を超える為には相手側……つまり、監督生本人が強くこちらの世界、ツイステッドワンダーランドに帰りたいと願っている事が必要なのではないか?というのがイデア先輩の推測だった。
    だからこそ、まずは鏡が正しく監督生の世界に通じるのか、そして本当に監督生が帰りたいと願っているのかを試す必要があった。
    その為にイデア先輩が用意したのは、1度だけ使えるように調整された鏡だったそうだ。
    そしてその実験台として白羽の矢が立ったのがオレだった、って事らしい。
    「いや……だからってさ〜、なんでオレな訳?似たようなユニーク魔法の奴なんて、探せば居そうなもんじゃん」
    「だってエース氏、監督生氏と仲良かったでしょ?それに拙者、監督生氏が在学中に彼女から相談受けてましたし」
    「は?なにそれ、聞いてないんですけど」
    「そりゃそうでしょ。拙者が勝手にキミに話したら絶対拙者が監督生氏に怒られるじゃん。それに、これは彼女からの願いでもあったし……」
    「は?意味わかんないんですけど」
    そんなオレの言葉にイデア先輩は「ま、そうだよね」と言って笑った。
    そしてそのままこう続けたのだ。
    「彼女はさ、帰ってもいつかまたエース氏に会いたいってずっと言ってたんだ。だから……その想いに応えてあげたくて」
    「……え?」
    そんなイデア先輩の言葉にオレは思わず固まった。だってそれは……
    「いや、待ってよ。それってさ……」
    そんなオレの言葉を遮って、イデア先輩はそそくさと立ち上がると「じゃあ、拙者はこれにてドロンするでござる」と言ってソファーから離れると、パーティー会場の人波に紛れた。
    オレはそんな後ろ姿を眺めながら、思わず頭を抱えた。
    「いや、マジで?そんなんアリかよ……」
    そんな事を呟きながらもオレの心臓はドキドキと高鳴っていた。だってそれは……つまりそういう事だろ?オレはゆっくりと立ち上がると、見慣れた人達の集まるその中心へと足を進めた。
    そして、その人集りの中心に居る今回のパーティーの主役に声を掛ける。
    「なぁ、監督生」
    「ん?どうしたのエース」
    そんなオレの言葉に、彼女は笑顔で振り返った。
    その笑顔はあの頃と全く変わっていなくて……オレは思わず息を飲むとそのまま彼女の手を取った。
    「あのさ、オレ……」
    「うん?」
    「……っ、オレ、お前が好き」
    オレが意を決してそう言った瞬間、辺りがシンと静まり返った。そしてその後すぐに「え?マジ?」とか「ヒュ〜大胆」なんて言葉が聞こえてきたけど、オレは気にせずに続けた。
    「オレさ、お前がいなくなってから本当に後悔したんだ。なんでもっと素直にならなかったんだろって」
    「……エース」
    「だからさ……その、今更だけど言わせて欲しいんだよね」
    そう言ってオレは大きく息を吸い込んだ。そして真っ直ぐに彼女の目を見ながら告げる。
    「オレと……付き合ってくれませんか?」
    そんなオレの言葉に彼女は一瞬目を丸くして、見る見るうちにその顔を赤く染めた。
    「え、えっと……あの……」
    突然の告白に驚いたのか、彼女はあたふたしながら言葉を探す。けれどそんな様子すらも可愛く思えてしまってオレは思わず笑ってしまった。
    「ふはっ、お前ほんと変わんないのな」
    「う……」
    そんなオレの反応に対して彼女は恥ずかしそうに俯いた。そんな監督生の手を両手で包み込む様に握ると、俯いた彼女の顔を覗き込んだ。
    「なぁ、返事聞かせてくんないの?」
    「え、あ……えっと……」
    「うん」
    「……わ、私も……エースが好きです。だからその……よろしくお願いします!」
    そんな彼女の返事を聞いたオレは思わず彼女を抱きしめた。
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