おひるねちゅんを探す光忠さんが他の場所をいくつか探した後に部屋に戻ってきて、大倶利伽羅くんに見なかったかい?って改めて聞いたら首を傾げられて、「もうすぐおやつなのにどこにもいないんだ」て眉を下げたら、すこし考えた大倶利伽羅くんが、あれはどうした、てからちゅんの所在を確かめてきた。
「からちゅんくんはいま厨でお手伝い中なんだ、もう少し探して見つからなかったら聞くよ」とやっぱり困った顔をする光忠さん。
大倶利伽羅くんは、からちゅんがこうやって探している光忠さんに反応していないなら大事じゃないだろうが、と思いつつもまたすこし考えて、ゆっくりと部屋を見渡した。
ちゅんたちがよくいる床の間の端っこや、違棚の上段や、寝床をしまう襖の前にも姿はなく、いた形跡もない。そう思って、はたりと止まる。形跡かもしれないものが、あった。
今夜は出陣だからと箪笥の前に出していた戦装束の、腰布の垂れ方がいびつになっている。たしかまっすぐ掛けたはずだが、と目を細め、あとはどこを探そうかと庭を眺めてる光忠さんにひとつ確かめた。
「いつから居ない」
「ん? そうだね、お昼を食べたあとはしばらく廊下で遊んで、そのあとはあの縁石でからちゅんくんと並んでたかな。だから、…うん、からちゅんくんが厨に来た頃からだね」
「…30分程度か」
「伽羅ちゃん、心当たりあるの?」
「ーーーー」
大倶利伽羅くんは、おそらく、と頷く。えっ、と驚いて目を丸くする光忠さんに、しい、と指を立ててみせた。口元を手で押さえて黙るのに口角を上げ、大倶利伽羅くんはゆっくりとよく通る声を出す。
「……おやつ、だそうだ。そろそろ起きろ」
目を丸くしたまま辺りを見渡す光忠さんが、あ!と小さく小さく器用に叫んだ。
もぞり、と動いたものが部屋の中にひとつだけ。大倶利伽羅くんの、黒い上着だ。
はぁと溜め息を吐いて腰を上げ、大倶利伽羅くんはのそりと手を伸ばす。掛けてある上着の襟元を開き、覗くのは内側のポケットだ。あまり物を入れることも少ないそこが、ふくりと膨らんで、もごもごとかすかに揺れている。
「当たりだ」
「!!」
こぼした声がかすかに笑んでしまう。光忠さんもぱっと笑顔になってそばにやってきた。
くいと開いた口、どうやって入り込んだのか、中にはすっぽりとちゅんが収まっている。
ちゅ〜
いつもの鳴き声がすこしだけこもって聞こえた。昼寝から起きたようだ。大倶利伽羅くんの内番服のポケットや、丸めた腰布に入っていたことは時々あったが、まさかこっちの上着に、それも普段は隠れているポケットにどうしてわざわざ。そう思いながらも指を伸ばしていたら、そうか、と光忠さんが笑う。
「ほら、この間、伽羅ちゃんここから手紙を出しただろう? それを見てたんじゃないかな」
「ーーーめざとい」
「ふ、伽羅ちゃんのぽっけ、だいすきだもんね、ちゅんくん」
まったく、とまた溜め息を重ねて大倶利伽羅くんは伸ばした指とは逆の手を内ポケットの底に添えて持ち上げる。
ちゅ、ちゅ、
もぞもぞと動くちゅんを布ごしに手のひらに乗せ、指が届くところまで上げてから引き上げた。いや、引き上げようとした。
「あ、」
光忠さんが呟くのと、ポケットからくちばしと黄色い片目を覗かせたちゅんがその入り口に引っかかったのは、ほとんど同時だった。大倶利伽羅くんがちいさく笑ってしまい、誤魔化すように息を吐いたのは光忠さんにだけ聞こえていた。
「…ひっかかってるね」
「あぁ」
「はいれたのにね?」
「……おい、じっとしろ、」
「ちゅんくん、ちょっと待っててね」
ちゅ〜、と、自分でもそこから出ようとちいさな手羽を動かすちゅんをなだめ、大倶利伽羅くんは覗いていた場所を光忠さんと交代した。
光忠さんが大倶利伽羅くんに持ち上げられているちゅんに向かって、ポケットの両端から指を差し込む。もう少し、と言われて、もう少し持ち上げた。むちゅ、とちゅんが多少圧迫されているが、そのまま光忠さんは指を動かす。
「…よい、しょ。あとちょっとだよ、ちゅんくん」
ちゅ〜、ちゅ!
むちん、と頬がポケットの口に乗った。
ここが通ればあとは押し出せるだろうと、光忠さんの指がうまくちゅんを挟むのを待って、ぐいっと下から押し上げる。
むちゅん、と鳴いたちゅんが、すぽっと小気味よくポケットから抜けた。
「! よかった、出られたね」
「ーーーもうここには入るなよ」
ちゅ!
光忠さんの手に乗せられたまん丸い体が頷くように揺れるのに、大倶利伽羅くんは笑うように溜め息を吐いた。
(からちゅんはおまめのスジ取り中)