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    31huji_tou

    @31huji_tou

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    現パロのちゅん、の大倶利伽羅くんのホワイトデー話

    春先 慣れないことはするものじゃないなと、こぼれかけた溜め息をなんとか飲み込んだ。ちらりと視線を流した先にはいつもよりも散らかった状態のキッチンがある。惨状、とまではいかないが、なかなかに、物が散らばっていた。
     先にそれを片付けてしまおうかとも思ったが、そうして時間を置いたところで何が解決するわけでもないのは目に見えている。
    「………、」
     結局、溜め息が出てしまった。
     
     大倶利伽羅の前にあるのはテーブルだ。その上に並んでいるのは、ほんの数分前に焼き上がったばかりの菓子だった。丸いドームのような屋根を持つ形だけ見れば、まだその菓子の持つ名称で呼んでも差し支えはないだろう。だが、その色が、参考にしたはずの写真からは遠く離れていた。
     目をすがめてそれを眺めていれば、テーブルの端から小さな音が響いてくる。板面を叩くような、引っ掻くような、かすかな音は耳に慣れた音で、大倶利伽羅は特に何を思うこともなくそちらを見る。見られた側も、何を思うでもなく……、いや、思っているようなふうに見えるのは、気のせいじゃないな、と大倶利伽羅は二度目の溜め息を吐いた。
     かつ、かつ、かつ、とやけにゆっくりとテーブルの上を進む丸いそれが、じい、とこちらを見上げてくる。金色の目には呆れのようなものが滲んでいるようにも思えた。
    「……なんだ」
     つい、そう声をかけた大倶利伽羅に、からちゅんがふんとくちばしを上げる。(からちゅんは、『から』と名付けられた、鳥のような、ふくふくと丸い「ちゅん」というちいさな生き物だ)
     わるあがきだな
     言葉が話せればきっとそう言っているだろうなと、大倶利伽羅は眉間に刻んでいた己のしわを揉むように指で押さえた。もちろん、からちゅんが人の言葉を話すことはない。こちらの話している言葉はほぼ完全に通じているように思うが、それも一方的なものだという可能性だってあるだろう。だがそう思うようになってしまったのは、おそらく、あの男のせいだ。
    「………」
     思考が戻ってきた。そうだ、からちゅんのことよりも今はこの、テーブルに並べた菓子の処遇を決めるべきだ。いつの間にかからちゅんが菓子の横にいる。そうして並ぶと、よく似ていた。からちゅんの柔らかな羽が持つ色と、時間通りに焼いたはずがきれいに焦げているマフィン。一番基本と書かれていた味のものを作ったのだ。本来ならもう少し、いや、もっと薄い色の焼き上がりになる。だがこれではどう見てもココア味か、チョコレート味だ。それも、ビター寄りの。
    「…ココア色だな、おまえ」
     ぢゅ、と小さく鳴くのは抗議だろうか。やや細められた目に肩をすくめ、伸ばした指先で膨らむ体に触れた。ふく、とやわな羽に埋もれた指先がぬくい。そのまま指先で撫でれば5往復目辺りでふいと離れていく。
     あの男の元にいるちゅんは、もうすこし羽がやわらかい。どちらかといえば、もち、とした手触りだった。そうして、撫でられるとまるで嬉しそうに寄ってくるのだ。浮かべた光景に、うれしいねえ、と自分までも嬉しそうに言う声が重なる。
    「………」
     光忠から、バレンタインに菓子をもらった。丸く、でこぼこしたチョコレートは、あちらのちゅんも手伝ったのだという。光忠手製の割烹着を着て、成形するときに転がしたのだと。エプロンでは紐を結べなくてかぶれる形のものにしたとか。小さく小さく作ったものを、味見と称してあげたら喜んでいたとか。ひどく楽しそうに、柔らかく緩めた頬で語られ、大倶利伽羅はどこか居心地が悪いような、もっとそれを見ていたいような、なんともふしぎな感覚になった。
     今日はあれからひと月後のホワイトデーだ。普段はお返しを、などと考えることはない。本社に勤めていた頃は様々もらうこともあったが、返すものは常に画一的な、催し場に並ぶ青い配色のパッケージに入ったチョコレートにしていた。
     それがどうして、と己でも思う。本当に、慣れないことをしてしまった。
     あの男があんまりにも嬉しそうにその工程を話して聞かせ、話しながらももっと表情を綻ばせるから、作ってみるか、などと。
    「…………」
     かんたんに言えば、失敗した。失敗作だ。だというのに、溜め息を吐きつつも、渋い顔を作ろうとしてできず、大倶利伽羅はついつい笑いそうになっている。
     己らしくないと思うが、それとは別に、こんなものでも、作ったと言えばきっとそれだけで喜ぶだろうと、確信するような思いがある。途中、ふと思いついてからちゅんを掴んで連れてきたが手伝わせるような工程がなく、仕方なく生地を入れたカップの横に下ろせば心得たとでもいうようにカップの端を順に突いていった話にも、楽しそうに笑うだろう。それからきっと、そんなことでもからちゅんを褒めるのだ。
    「……よし、」
     こうしている時間にあまり意味はない。失敗したことは認める。だが、まずは味だろう。食べられるものであればいいが、とまだ温かなマフィンをひとつ、掴んで齧った。
     焦げた表面はやはり苦いが、意外と中は甘くしっとりしている。からちゅんが寄ってきたので欠片を小皿に落としてやれば、くちばしで器用に咥えて落とす端から食べていく。ふく、と体がふくらんだ。
     手に残っていたマフィンを半分に割って、それをそのまままた小皿に載せる。そうしてからスマホを取ってきて、かかか、とくちばしでつついて生地を崩していくからちゅんを撮った。次は、焦げてしまった、からちゅんとよく似た色のマフィンを撮る。
     光忠と知り合ってから頻繁に使うようになったアプリを起動して、すこし考えた。
     まずは、家にいるかどうかだ。もう夕暮れも過ぎた時間だ、出かけていれば明日でもいいかと待っていたが、それには二分と待たずに返事がきた。部屋にいるらしい。どうしたんだい、と促すメッセージに、知らず頬が緩んだ。
     『いまから持っていく』
     それだけ打って、写真も送った。
     ざっとキッチンを片付け、少し冷めたマフィンを透明な袋に入れて上部を止めていく。そうすると多少は見目がマシになった。四つ目を入れたところでからちゅんがそばにきたので、入るか、と聞けば低くぢゅっと鳴かれた。
     ぽこぽこと返信の届いているスマホの画面をテーブルに置いたまま眺めて、ふ、と吐いた息が笑みに変わる。思った通りだ。思った通り、今送った写真だけでも、ひどく喜んでいる。
     服を着替えて家を出た。すこし急ぐかと、からちゅんはポケットに詰めている。窮屈そうだが文句のような鳴き声は聞こえてこないので問題ないだろう。
     ここしばらくは暖かかったのに今日はまた寒い。薄手のマフラーを巻きながら、そうか、ホワイトデーは春より前なのか、とそんな当たり前のことを思った。
     
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    Replies from the creator

    31huji_tou

    MEMO壁打ちをちょっとととのえたやつ
     ・

    となりのカレー一人ぐらし大倶利伽羅くんが簡単なご飯済ませて休憩がてら本読んでたらめっちゃカレーの匂いしてきて思わず窓のほう眺めて目すがめて閉めるか…って立ち上がるんだけど、窓に近寄ったらスパイスのきいた香りがもっとしてくるのにぐううって眉寄せて、……この匂いでメシが食べれそうだな、て思ってしまってふと我に返っておかしくなるし、
    まあいいか、て窓は開けたまま過ごした翌朝、仕事行くのにマンションのエレベーター乗ったところで廊下の向こうのドアが開いて、顔を出した男があっ!て反応したのがわかったから溜め息吐いて開ボタン押して待つんだけど、よくよく見れば奥から二つ目のそれは自分の部屋の隣で、そうと気づいたら昨日のカレーの匂い思い出してしまって顔顰めてたらエレベーターに乗り込んできた長身の男が、すみません、待ってくれてありがとうございますって謝ってきたのに手を振って返し、べつに、って答える大倶利伽羅くん。でもうっかり頭の中がカレーの匂いでいっぱいだったので、「カレーが、」て口にしてしまうし「えっ」て驚いた男がじっとこっち見るのに面倒なことをしたかと大倶利伽羅くんが目逸らす直前に、「あっ、えっ、カレーのにおい、するかい??」って大きな声で続けた男がぱたぱた手であおぐようにするのに大倶利伽羅くんもちょっとびっくりするし、
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