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    しょくさい展示品
    いつか出したい本(未定)の無自覚さめ→しし冒頭部
    続けばアホみたいなエロ話にしたい
    ※作中テーマパークはジョイポリスモチーフですが実態とは異なります

    発端、あるいは天啓 その日村雨は、とある経緯で出遭った友人の発案により屋内型テーマパークへと足を運んでいた。もちろん村雨ひとりで、ではなく発案者──真経津を含む四人の友人達とともにである。ソロ参戦するほど当のテーマパークに思い入れはないし、そもそも初めての場所だ。
    「へぇ、すごいね!」
    「さすがに盛況だな。けどこれだとちょっと難しいかもなー」
     エントランスを抜け、ライトアップされたフロアを見た真経津が歓声を上げる。その隣でぐるりとフロアを見回した叶は、動画配信を営みとする者のサガか脳内で動画撮影のシミュレーションを行っているようだった。
     確かにアトラクションの周囲は待機列に並ぶ客により密集地帯と化している。貸し切りにでもしない限り他の客の姿が映り込むことは避けられないだろう。とはいえそれは叶の問題、村雨には関係のない話だ。
    「とりあえず適当に並ぼうぜ」
     村雨の後ろから少し遅れてやってきたのは獅子神だ。入口で取ったパンフレットを眺め、周辺に見える派手な看板とアトラクションの位置を照らし合わせている。
    「予約のヤツはまだ時間あるんだろ?」
    「うん。二時の回だね」
     今回の発案者は真経津だが、予定を詰めたのは叶だ。こういったイベントごとに一番強い男であることは疑う余地もない。今回も例に漏れず、事前に予約が必要だというアトラクションには申し込み済みだと聞かされている。
    「では、まずはアレだな」
     そう言ったのは、中空へ視線を向けた天堂だった。同時にゴーッと音を立ててローラーコースターが上階にかけて張り巡らされたレール上を駆け抜けていった。
    「わ、楽しそう!」
    「へぇ、中々」
    「よーし、じゃあさっそく行こっか!」
     満面の笑みで先導する真経津に叶と天堂が続く。村雨も後に続こうとして、呆けたようにコースターが消えていった先に視線を奪われたままの獅子神に足を止めた。
    「……ローラーコースターは初めてか?」
    「見るのは初めてじゃねーよ。……あるのは知ってたけど、実際間近で見ると凄ぇな。屋内だぞ、ここ」
    「三フロアに跨がる構造だからできることだな」
     大型ショッピングセンターの一角に作られたこのテーマパークは、一階部分にあたるエントランスフロアから始まり、三階層に渡ってアトラクションが設置されているとパンフレットに記されている。先ほどのコースターは吹き抜けとなった上階部分を使い高低差を演出しているようだった。
     屋内ということもあり、見える範囲で目立つ構成要素は水平ループくらいだ。しかし遊覧目的の子供向けコースターだろうと侮っていた村雨からすれば若干の嫌な予感がしないでもない。
     村雨の微妙な反応に気がついたのか、獅子神がニヤリと笑みを浮かべた。
    「お? なんだよ、さすがの村雨先生も絶叫マシンの類は苦手か?」
     マウントを取れるとでも期待しているのだろうか。呑気な獅子神に村雨はわざとらしくため息を吐いてみせた。
    「ここに来た理由を覚えているか?」
    「真経津が来たがったからだろ」
    「そのきっかけは?」
    「きっかけ……ってーと、あれか。叶の」
     考えを巡らすように視線を上向けた獅子神が挙げたのは、まさにそのきっかけにあたる出来事だ。
     以前、叶の配信企画の一環でこことは別のテーマパークへ行ったことがあった。当然のように村雨達までメンバーに含まれており、向けられるレンズに辟易したことを覚えている。
     どうやら真経津は、それがよほど楽しかったらしいのだ。真経津宅の散らかったリビング──すぐに獅子神が片付けてしまったが──に屋内テーマパークのパンフレットが散乱しているのを村雨は確かに見た。
     そして先ほど、コースターを見て真経津の顔に浮かんだとびきりの笑み。
    「絶叫マシンオンリーの弾丸ツアーに行きたくないなら、あの男真経津がここのコースターを気に入らないよう願っておけ」
    「あ~……」
     村雨の言わんとすることを理解し、その光景をまざまざと脳裏に思い描いたのだろう。獅子神はどこか呆れたような間延びした呻き声を上げる。
     とはいえ獅子神は真経津に甘いところがある。連む中で唯一の年下だからか、あるいは直接対峙し惨敗を喫したからか。
     であるなら、赤子同然であった獅子神を勝負の場にて鍛え上げた──獅子神本人が聞けば「叩き落としたの間違いじゃねーの」とでも言いそうだが──村雨にこそ甘くあるべきと思わないではないが、ひとまずそれは置いておく。
     そういうわけだから、いざ真経津が弾丸ツアーを断行したとして口では文句を言いつつ獅子神はそれに最後まで付き合うのだろうことは目に見える。
     案外獅子神自身今回でローラーコースター、あるいは絶叫マシンを気に入り喜々として真経津に帯同する可能性もなくはない。が、その光景はあまり好ましくはないと村雨は感じた。
    「お前はそれ、嫌なんだ?」
     まるで村雨の想像した未来を見透かしたような言葉に片眉を跳ね上げる。もちろんそんなわけがない。獅子神が「嫌なのか」と聞いたのは弾丸ツアーそのものだ。
    「……絶叫マシンというのは、基本的に装飾品の類は外す必要がある」
    「は?」
    「この場合の装飾品とは眼鏡も含まれる」
    「なるほど」
     途端に神妙な表情に変わった獅子神が「眼鏡は体の一部って言うしな」と呟いている。若干寄せられた眉が、今の一瞬で獅子神がどう思考を飛躍させたかを雄弁に語っている。どうせ「仲間外れになるのは嫌だよな」とでも考えているのだ。
     村雨が嫌なのは視界が損なわれること以上に絶叫マシンオンリーとなることであるから、見当外れにも程があるがあえて訂正はしなかった。もし真経津が本当に弾丸ツアーを言い出した場合に対する保険である。
    「ん、じゃあここのヤツは?」
    「あのくらいは問題ない。あくまでも屋内用だからな。注意事項にも記載はなかっただろう?」
    「そっか」
     村雨の答えに、獅子神はよかったと言いたげに露骨に口元を緩めた。
     むず、と疼痛のような奇妙な感覚が全身を襲う。走り出したくなるような、叫びだしたくなるような、そんな感覚を吹き飛ばそうと村雨はぐるりと肩を回した。
    「疲れてんの?」
    「いいや。疲れるのはこれからだ」
    「オメー体力ねぇもんな」
    「酷い誤解だ。あなたは知らないだろうが手術というのは体力が必要なものなんだぞ。場合によっては何時間も立ちっぱなしになるわけだからな」
    「へえ。じゃ、今日は村雨先生ご自慢の体力ってヤツを見せてもらおうじゃねぇか」
    「期待していろ」
     いつも通りのやり取りに獅子神が肩を竦める。まったく信じていない様子に村雨は鼻を鳴らした。
    「っと、立ち話してないで早く行かねぇとな」
    「あなたがローラーコースターに見とれていたからだろう」
    「……見とれてねぇし!」
     先行する友人達を追って歩き出せば、すぐにコースターの待機列に並んでいる姿が見つかった。一般的な成人男性の平均身長を超える叶は周囲から物理的に頭一つ飛び抜けていて、こういったとき特に目立つ。待ち合わせの場所としては最適だ。
    「あー……」
     村雨とほぼ同時に真経津達を見つけた獅子神が、その後ろに既に他の客が幾人か並んでいるのを見て声を上げた。村雨達に気がついた真経津が「二人とも遅いよー」と口を尖らせる。
    「お前行ってこいよ。四人乗りみたいだし、あいつらと同じグループってんなら横入りにはならねぇだろ」
     獅子神は頭を掻きながら実に間抜けな提案を口にした。村雨は片眉を跳ね上げ、獅子神を置いて待機列の最後尾へ足を進める。
    「えっ、オイ村雨?」
    「あんな小さなライドに成人男性を四人も詰め込む気か?」
     村雨と真経津は平均的な体格──村雨など高さはともかく厚みは平均以下だと自覚はしている──だが、叶はもちろんのこと天堂もカソックで隠された体躯は平均から逸脱するものだろう。規定が四人乗りでも、寿司詰めとまでは言わないが窮屈になることは乗らずとも想像できた。
    「……悪ぃ」
     村雨の後をついてきた獅子神が隣に並ぶ。獅子神は眉を下げ、似合いもしない憂えた表情をその顔に浮かべていた。
    「何のことだ」
    「別に。ちょっと言いたかっただけ。なんでもねーよ」
     謝罪を受ける理由がないと訊ね返せば、獅子神は少し拗ねたように──あるいは申し訳なさを隠すように──唇を尖らせ村雨から視線を逸らした。どうせ村雨の行動を自分に都合の良い方に捉えたのだ。コースターに乗ったことのない獅子神を慮ったのだ、と。その上で獅子神は、村雨が友人達と離れてしまったことを申し訳なく思っている。
     おめでたい考えな上に見当違いも甚だしいが、わざわざ否定して村雨の評価を下げる意味もない。村雨は何も言わず前方へ視線を向けた。
     程なくして真経津達の順番が回ってきたようだった。キャストの説明を聞く叶と天堂の隣で真経津がヒラヒラと手を振ってくる。獅子神が照れたような顔で小さく手を振り返すのを村雨は横目で見ていた。
     数分後に戻ってきたライドから降り立った真経津達は楽しげに笑っていて、待機列の村雨達へ「上で待ってるね~」と言うと連れだって行ってしまった。弾丸ツアーが発生するかは村雨の眼でも五分五分といったところで、安心するには至らない。そうこうしているうちに順番が回ってくる。
    「お、次だな」
     キャストから受ける簡易的な注意事項を獅子神が真剣な顔で聞き頷いている。「ではどうぞ!」と促されてライドに乗り込んだ。獅子神はどこかぎこちなく、安全バーを掴む指先は強張っていた。
    「……ふ」
    「笑うなよ」
    「笑ってなどいない」
    「それは無茶だろ」
    「ほら、動くぞ」
     ゴトン、と機構が動く音がして、村雨と獅子神が乗るライドがゆっくりと動き出す。カタカタと小さく揺れながら暗所へ進んでいくと、何が起きるのかと隣の獅子神が肩を強張らせるのが空気でわかった。すぐにカラフルなライトと映像が壁面に照射される。
    「わ」
     思わずといったふうに獅子神の口から呆けた声が漏れるのが聞こえた。派手な演出の中、緩やかな速度と傾斜が続き、獅子神の体から徐々に力が抜けていく。
     そして演出が終わり、一瞬の暗闇が訪れる。カタカタとライドが揺れ、前方にテーマパーク内の煌びやかな明かりが見えた。
     その後はまさに一瞬だった。
     いつの間にか三階フロアにあたる位置に来ていたらしい。それまでが嘘のように、ゴーッと音を立てて階下へ一気に落ちていく。急降下の後、慣性に従い落ちない速度のまま水平ループを越え、中空のスロープをぐるりと一回りする。
     コースターは当初の予想を超えるものではなく、隣で体を硬くした獅子神がびくりと肩を跳ねさせることの方がよほど村雨を楽しませた。
    「…………はぁ」
     ライドは徐々に減速し、元いた場所に戻ってくる。完全に停止すると同時、獅子神が息を吐く。ほんのり色づいた頬は、訊かずとも獅子神がコースターを楽しんだことを十二分に示していた。
     屋内テーマパークゆえ制限のあるローラーコースターでこれなら、屋外に設置された本格的なものならどうなるのだろうか。村雨はいつかコマーシャルで見た、ループが多用され悲鳴と歓声が絶えないアトラクションを獅子神が見上げる姿を想像した。
     事前に言われていた通り真経津達を追って上のフロアに上がれば、吹き抜けに面した柵によりかかっているのを見つけた。真経津は村雨に向かってニコニコと笑いながら手を振ってくる。
    「村雨さん、楽しそうだったね」
    「テーマパークだ。楽しむのが普通だろう」
    「ふふ、そうだね」
     コースターが中空を駆ける最中、真経津達がこちらを見ていたのは気がついていた。含みを感じる言い方だが、真経津がそれ以上何か言ってくることはなかった。
     叶と天堂は笑いながら獅子神に絡んでいる。獅子神は「楽しかったか~?」と抱きついてくる叶を頬を染めたまま突っぱねている。
    「次はどうする?」
     アトラクションはまだまだ残っている。村雨が訊ねれば、真経津はニコリと笑って「次はアレにしよう」と指差した。



     一通り大型のアトラクションを回った後、村雨達はテーマパーク内に併設されたカフェで少し遅い昼食を摂った。村雨と獅子神以外の三人はトイレへ連れ立ち、今テーブルに残っているのは二人だけだった。
    「あいつら中々戻ってこねーな」
    「トイレが混んでいるより他に目移りしている可能性の方が高い。迎えに行った方が早いだろうな」
    「だよなあ。おし、そろそろ出るか?」
     村雨がコーヒーを飲み終えたのを期に獅子神も腰を上げた。
     返却口にトレイを返しカフェから出る。と同時に、今し方出てきたカフェの中から子供が駆け出てきた。
     接触を回避するため、村雨はひょいと横に身を逸らした。否、逸らそうとしたが村雨の反射神経は村雨を裏切った。子供の体躯とはいえ勢いづけば衝撃もそれなりにあり、当然のように村雨はバランスを崩した。
     そうしてバランスを崩した村雨の、その先には。
    「ん?」
     ふにゅん、と。
     温かく、柔らかいものが当たっている。村雨の鼻腔には微かな汗の匂いと、先ほど食べていたパスタのバジルソースが香ってくる。頬に触れるカシミヤの滑らかな肌触りに、村雨の脳に「一枚くらいこういったニットセーターを持っておくのもいいだろうか」などと逃避めいた思考が浮かんだ。
    「うわ、大丈夫か村雨」
    「……あぁ」
     子供はすぐに母親と思しき女に連れられ「本当にすみません!」と頭を下げてきた。村雨は頬の感触に気を取られ、「あぁ」だか「うん」だか意味をなさない言葉しか返せなかった。
    「本当に大丈夫か? なんかぼーっとしてっけど」
    「……問題ない」
     村雨の答えに獅子神は眉を寄せるが、平然と立ち歩くのを見ればそれ以上何か言うこともなかった。
     その後、真経津達を迎えに行き予約していたアトラクションに参加したが、村雨の戦績がボロボロであった理由は誰も知らない。
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