「おいっやめ……離せっ」
シミュレーションだと呼び出されて、いきなり知らない部屋に連れていかれて押し倒されれば、きっと誰もがこういう反応になるだろう。
シンの体を押さえつけながら、どこか冷静な自分がいた。だけど、辞めようとは思わない。数回会っただけなのに、隣にいて妙に落ち着くのも、笑顔を向けられて心臓が跳ねるのも、こちらを見ないと心がざわめくのも、理由が知りたかった。自分自身を抑えるのも、冷静を装うのも得意だと思っていたが、シンの前では全くできなかった。
どうしてだかは自分でもわからない。だけど、お前が欲しくて欲しくてたまらない。
「や、やだっ……!」
素肌を撫で回す手に怯える姿が可愛くて仕方ない。
「あ、ぅ……っや」
きっと他の誰も触れたことの無いシンのものに、初めて触れたと思うと愛しくてたまらない。
「あ、はっ……ぅあ……!」
指で開いて慣らしたそこに自身を突き立てた時に感じた気持ちは、言葉に表せられない。
「ひ、あっ……ああ!」
「シン……ッ」
シンが達して、同時に強く締め付けられて中に放って。屈服させてやったという優越感。これで、オレのものだ。
「……気は済んだかよ」
シンから零れた怒りに満ちた声に、ようやく自身がとんでもない事をしでかしてしまったと我に返った。
「あ……」
「……思いっきり掴んだろ……跡になってんじゃん……」
「その……すまない……」
仰向けに寝転んだまま手首をかざして見ているシンに、なんて声をかけていいかわからなかった。ただ、怒らせてしまったのだから謝らないと、と謝罪が口をつく。
横に座って胡座をかいて項垂れてしまっているオレに、深いため息が襲いかかる。それ以上言葉を発しないシンに、どうしたらいいかわからなくなって恐る恐る視線を動かしてシンを見た。
「……もういいよ。お前、言語化得意そうだけど、言語化できなくて行動に移すくらい、おれのことが好きってことだろ。そんな顔されちゃ怒れないし」
つい今まで眉間に皺を寄せて怒っていたのに、ため息をついてからは少し困った顔になっていた。もういいって、オレが言えたギリじゃないがいいわけはないだろう。そう言おうと思っていたのに、シンから掛けられた言葉に思考が止まってしまった。好き……そうか、これが、好きってことなのか。シンといると、今まで自分でも知らなかった自分を発見できる気がする。
「……違うの?」
「いや……好き。好きだ。好きすぎて……その……」
好きだから手を出してしまったとして、それが好意を伝える前で、しかも拒否されていたのに半ば無理やりコトを進めたのはどう考えても許されることじゃない。もういいって言われても、どう償っていいのかわからなくて、言葉が詰まる。
「だからもういいって。……おれも、アブトのこと好きだから……今回は許す……」
殴って蹴られても仕方ないのに、笑って許して、その上でシンもオレのことが好きだなんて。夢であって欲しくなくて頬を抓ると、ちゃんと痛みを感じたから現実で間違いないようだ。
「……へ?」
「だからっ……おれも、好きだ、から……」
随分間抜けな声が出た。こんな、いいのだろうか。自分に都合のいい、こんな。
「……おれがいいって言ってるんだからいいんだよ。これからよろしくな、アブト」
差し出された手を握ったらぐいっと体を引かれてシンの上に覆いかぶさった。潰してしまわないように咄嗟に手はついたけど、唇が触れそうなくらいの距離だ。
その距離はちゅっと軽やかな音と共にゼロにされた。
「おれのファーストキスも初体験も奪ったんだから、ちゃんと大事にしてくれよな」
にんまり笑ったシンが可愛くて眩しくて、たまらなくなって再度口付けた。
シンカリオンのシの字も知らない奴が。適合率が合うだけで乗っただけの奴が。そう思っていた自分を、こんなに心を乱して燃え上がらせるなんて。
順番が違ったけど、それすらも許してくれたシンを、ずっとずっと大事にしようと強く心に誓った。