「なあ。キスって……したことある?」
二人きりの控え室。シンはいつものようにオカルトちっくな本を、俺はタブレットでメンテナンスした部分の確認をしていた。
そこに響いたのは、いつものシンらしくない、少し弱い声だった。
端的に答えるならノーだ。今までしたいと思ったことはなかった。シンに、出会うまでは。
くるくるまわる表情の中で特に感情を表す唇から目が離せなくなったのはいつからだったろうか。嬉々としてオカルト話をしている時も、シンカリオンについて、テオティについて話し合っている時も。引き結ばれたり尖らせたり、動く唇に目がいって仕方なかった。
考え込んで自分の世界に入ると、無意識にか唇をむにむにと弄っていることがあって、そうなると視線はそこからはなせなくなる。人の気持ちも知らないで無防備な、と何度ハナビに八つ当たりしそうになったか。察して逃げられたが。
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