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    yun0427

    @yun0427

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    yun0427

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    キスの日アブシン。時系列的には5.6話のすぐ後くらいな感じ。ハナビくんは今日も不憫ですごめんね大好きだから許して。
    賢いのに感情が高ぶると先に体が動くのってアブシンの共通点かなって思ってる。

    「なあ。キスって……したことある?」
     二人きりの控え室。シンはいつものようにオカルトちっくな本を、俺はタブレットでメンテナンスした部分の確認をしていた。
     そこに響いたのは、いつものシンらしくない、少し弱い声だった。
     端的に答えるならノーだ。今までしたいと思ったことはなかった。シンに、出会うまでは。
     くるくるまわる表情の中で特に感情を表す唇から目が離せなくなったのはいつからだったろうか。嬉々としてオカルト話をしている時も、シンカリオンについて、テオティについて話し合っている時も。引き結ばれたり尖らせたり、動く唇に目がいって仕方なかった。
     考え込んで自分の世界に入ると、無意識にか唇をむにむにと弄っていることがあって、そうなると視線はそこからはなせなくなる。人の気持ちも知らないで無防備な、と何度ハナビに八つ当たりしそうになったか。察して逃げられたが。
    「……なくはない」
     ない、と素直に返すのも癪で、誤魔化すような言い方をしてみた。誰と、と問われれば困るくせに、なぜ俺はこうもひねくれているのか。
    「……そっかあ」
    「なんだ、気になるのか」
     歯切れの悪い返事に、からかうような声音で問い返した。心の中では、オカルトにしか興味が無かったシンがそっち方面にに興味を持ち始めたことに焦りながら、表面上は平静を装う。
    「うーん……まあしてみたいとは思う……かな」
     またまた歯切れ悪く返された答えに、内心の動揺は半端なかった。両肩を掴んで揺さぶって「誰としたいんだ!」と問い詰めてしまいたい。
    「し、したい奴でもできたのか」
     ポーカーフェイスが得意だと自負していたが、もう平静を保てている自信はない。声を震わせないようにするのが精一杯だ。タブレットを持つ手が少し震えているのだけは気付かれないようにしなければ。
    「……ないしょ」
     俺の質問で「キスしたい誰か」を具体的に思い浮かべたのだろう。頬を赤らめて目線を下げる仕草に、頭の中でぷちんと何かが切れる音がした。
    「練習相手になってやる」
    「え、なに……っんん」
     両頬を掴んで自分の方へ顔を向けて、驚きに開かれた唇に自分のそれを合わせた。
     ふに、と柔らかい感触に心が震える。顔を背けようとするから、右手を後頭部に回して逃げられないように固定した。
    「んん、んぅ、ふ……っ!」
     強く引き寄せたことで唇の合わせが深くなったのをいいことに舌を差し入れる。強ばる体に、こういう触れ合いが未経験であると確信して安堵した。
     シンのことが好きなのに、一番近くにいることに甘んじて告白する勇気も無かったくせに。練習相手だなんて言って、シンの許可も得ずに触れておきながら、シンが誰とも触れ合ってないことに安心するなんて。なんて身勝手で弱虫なんだ。
    「ん~っ! ぷはあっ! あぶと、まっ……」
    「またない」
    「ふ、ぁ……っんん」
     呼吸がままならなくなったシンが胸を強く押して顔を離したが、制止しようとする声ごとまた食らいついた。
     口内をあますことなく舌でなぞって、縮こまった舌を甘噛みして絡めて吸い上げて。舌同士が触れる度、吸い上げる度に震える体に衝動が膨らんで止まれない。もっと。もっと欲しい。暴きたい。呼吸ごと奪い尽くしたい。絡めた舌を強く吸い上げた。
    「ふ、ぅ……っま……てってばあ!」
    「うぐっ」
     シンの拳が鳩尾を打つ。ノーガードで受けた衝撃に、唇を離して一歩下がってしまった。じんわり痛む腹に我に返る。慌ててシンを見ると口元を両手で押さえて俯いていた。さあっと血の気が引いていく。
    「シン、あの……」
    「練習なんていらないのに」
    「いや、ちが……違わないけど、その」
    「アブトの、ばかぁ……っ」
     シンの声と肩が震えている。自分のしでかしたことを、今更ながらに後悔した。そりゃそうだ。信じていた友達からいきなり練習だなんてキスされて誰が喜ぶものか。シンとキスができて浮かれていた気持ちが萎びていく。俯いて肩を震わせているシンに、遅まきながらようやく覚悟を決めた。
      「好きだ」
     ぴくりと跳ねた肩を宥めるように優しく撫でた。振り払われる様子がないことに内心ほっとしながら、努めて優しい声を出す。
    「誰かとキスしたことなんてない。あれは嘘だ。シンが初めてなんだ。……勝手にキスしたのは悪かった。シンが他の誰かと触れ合うのかもと思うと、いてもたってもいられなくて……」
     自分で言ってて自分が情けない。でもこれ以上嘘を重ねてシンを悲しませる事はしたくなかった。例えそれで嫌われることになろうとも。
    「オレのこと、好きなの……?」
     消え入りそうな細い声が聞こえてきた。ああ、と頷くと顔を覆っていた手を離したのが見えた。泣いてるのだろうか。自分の行動で泣かせてしまったことに胸が痛む。
    「シン、顔を上げてくれ」
     もう一度謝るにしても、罵られるにしても、顔が見たい。拒否して叩き落されたらどうしようと思いながら、そっと頬に手を添えた。力を加えると、逆らわずにゆっくり顔を上げてくれる。泣いてるだろうと覚悟して見たその顔は……
    「引っかかったー♡」
     満面の笑みだった。
    「……は?」
    「オレもずっとアブトのこと好きだったんだよ。アブトもそうかなーと思ってたのに全然そんな雰囲気になならないし、勘違いかなって悩んだんだぞ」
     先程の弱々しい声はどこに行ったのかと言いたいくらいテンション高く話し出すシン。
    「オレから告白しても良かったんだけどさあ。ハナビに相談したら『嫉妬心を煽ってやれば一発だろ』って言うからさ、ちょっとやってみた。うまく引っかかってくれて良かったよ。でもさすがにあんなキスまでされるなんて思ってなかったし、ホントに苦しくて手加減なしに殴っちゃった。ごめんな」
    「あ、ああ……」
     言いたいことは山ほどあるが、辛うじて出てきたのはこれだけだった。気持ちがバレバレだったのは恥ずかしいし、ハナビめ覚えてろって八つ当たり的に考えながらも、くるくる表情を変えながら話すシンからやっぱり目は逸らせない。
     だからこそ、気付いた。矢継ぎ早に話し続けるシンの耳が赤くなっていることを。
     シンだって別に恋愛に明るいわけじゃない。初心者なのはお互い様だ。次々言葉が溢れてくるのは、作戦が成功して両想いであるとわかったのが嬉しい反面、今更ながらに激しいキスをしたのが恥ずかしくなってきたのだろう。
     冷静になって飲み込んでみれば、二人して何してるんだか。お互いのことが好きすぎて拗らせたら恐ろしいことになりそうだ。そうなる前にお互いの気持ちを確認できて良かった。
    「大体キスしたい人がいるからって練習はないだろ。本当に他の誰かのことが好きだったらどうするつもりだったんだよ。いやオレが好きなのはアブトだけなんだけど、でも」
    「シン」
    「ん……」
     留まることを知らずに言葉を放ち続ける唇を自分のそれで塞いだ。シンは驚きはしたけれど、今度は抵抗なく目を閉じて受け入れてくれた。
     練習なんかじゃない、気持ちが通じあってするキスは、先程より何倍も心地良かった。
    「……本番?」
    「当たり前だ。これからずっとな」
    「他としたら許さないからな」
    「それは俺のセリフだ」
     唇を合わせて、離すたびに囁きあった。言葉より体が先に動くのは、俺たちらしいといばらしい。
     くすくすと笑うシンは、幸せそうで嬉しそうで、今まで見たことない表情だった。これからはシンのこの表情も唇も、全部俺だけのものなんだ。きっと俺も緩みきった顔をしていたんだろう。仕方ない、それだけ好きなんだから。幸せなんだから。
     しばらくして、「うぃーす」と入ってきたハナビが、なんとも言えない顔をして俺たちを見ていたが、シンからは見えないことをいいことに、無視してシンの唇を啄んでいた。
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