日に透けると銀色に輝く髪。理知的で意思の強さを感じる琥珀色の瞳。薄い唇は自信に満ちた笑みを刻んでいる。
節々はしっかりしているのに、白くてほっそりした指。ゆったりめの繋ぎの下は、細いけれど引き締まった体がある。
神様がアブトを作る時、相当丁寧に作ったんだろうなと思わせる繊細な造形。
パッと見は儚げな容貌をもつ相棒は、その繊細な容姿とは想像出来ない動きをすることがある。
「なんだよジロジロと」
「いや……うん、なんでも」
賑わいを見せる食堂で、向かい合って昼食を取っていた。ほっそりした腕は、それでも見えないところに筋肉があるから、釜飯の器を軽々と持っている。白い手に握られた箸が掴むのはたっぷりの具とご飯。それを運んだ先に待ち受ける口も、その見た目と反してガバッと大きく開くことを知ったのはいつだったか。
「意外と大口だよなぁって」
「忙しいとかき込むこともあるからな」
「ああ、そういうこと」
別にこの相棒に上品さとか繊細さとかを求めている訳じゃない。
普段はシニカルな笑みを浮かべている唇が大きく開いてものを食べているのが、なんというか不思議に感じたのだ。
アブトが大口を開けるのって、食事時くらいしか見ないからかな。
最近でこそ年相応な仕草をするようになったけれど、出会った頃からしばらくは妙に大人びた子どもだった。大口開けて笑うこともなかったし。いや今もそれは見た事ないけど。
普段見られない姿だから気になるのか。見た目と反した豪快さが気になるのか。何故か分からないけれど、妙にアブトの口から目が離せなかった。
「ごちそうさまでした」
「え、はや……ちょっと待ってすぐ食べる!」
「ぼーっとしてるからだろ」
食事終了の言葉に我に返った。綺麗に食べ尽くされた器の中には米粒ひとつない。両手を合わせてごちそうさまを言う姿も相まって育ちの良さを感じる。
自分の器の中にはまだ半分近く残っていた。慌てて食べるのを再開したけれど、生憎アブトほど口が開かないから中々進まない。待たせていると思うと焦って喉に詰まりそうだ。
「ゆっくりでいいぞ。休憩時間はまだある」
先に片付けてくる、とトレーを持って立ち上がったのを目だけで返事した。口は今食べるのに忙しいからだ。
必死に咀嚼しながらも、つい後ろ姿を目で追ってしまう。くそう。トレーを返すだけでなんで様になるんだ。見た目だけじゃなくて所作も美しいなんて反則だ。
「食べたらちょっと外行くか」
最後の一口をもぐもぐしながら掛けられた言葉に、やっぱり口は開けないからこくこくと必死で首を縦に振って答えた。
「あ~気持ちい~」
「今日はちょっと暑くないか」
「お日様感じられていいじゃん」
「そんなもんか」
文化村に戻って、芝生の上に並んで腰を下ろした。春の陽気が降り注ぐ芝生は、満腹なのも相まって魅惑でしかない。抗う気なんてさらさら起きずにごろんと仰向けに転がった。
真上にある太陽が眩しくて目は開けられない。目を閉じると赤く染まる視界。その中でも浮かんでくるのは隣に静かに座っている相棒だ。
この静けさが心地いい。時折聞こえる風が葉を揺らす音と、遠くに聞こえる人の声。
「そういえば、さっき何考えてたんだ?」
「んー……?」
「寝るなよ。食堂で。ずっと俺の口元見てただろ?」
「んー……アブトって綺麗だなあって……」
ああ目を閉じてるのがもったいないな。きっと今あの白い顔を赤く染めただろうに。
今まで正面から容姿を褒められることが無かったのか、アブトを綺麗だと称するといつも照れて顔を赤らめる。そういうレアな顔は見逃したくないんだけど、と薄目を開けた。
「そういつまでも思い通りにはならないぞ」
「あ、ぶ……っん」
目の前にあったのは照れてそっぽ向いてる姿ではなく、イタズラが成功したような顔をした、男の顔だ。
アブト、と最後まで名前は呼べなかった。ニンマリ笑っていた口は、まるで食べる時のように大きく開かれて、そのままかぷりとシンの唇に噛み付いたから。
口内に侵入してくる自分のものより厚みのある舌を、驚きながらも拒否はしない。にゅるにゅる這い回る舌を一生懸命追いかけて、絡ませて時には吸われて噛まれて。
酸欠になりそうな口付けに頭がぼうっとしてくる。
そうだ、アブトが口を大きく開く時って好物の時ばっかりなんだ。
上品で小綺麗に見える男の、本性が出るのは好きなものの前だけ、ということに気付いてしまった。
アブトのことをからかえないくらい真っ赤になっているシンは、これから食事の度にこのことを思い出してしまったらどうしてくれる、と心の中で八つ当たりをするしかできなかった。