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    yun0427

    @yun0427

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    yun0427

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    恋愛に臆病なアブトが、何とか振り向いて欲しくてアプローチを繰り返した挙句、デートの予行練習で落とそうとする話。
    アブトがかなりへたれ。シンくんはデートし始めてから自分の気持ちに気付いた感じ。

    予行練習 シンは鈍い。それはもう激的に。
     あんなに熱烈に追いかけて捕まえにきたのに、そこには恋愛感情はなかったらしい。信じられない。オレはシンのお陰で家族も友達も尊敬する先輩方も失わずに済んだんだ。元々あった淡い恋心が肥大したっておかしくないだろ。
     そばにいたときも、隣はキープしていたし、気を引きたくてからってみたりもしたし、寝ぼけたふりして擦り寄ってみたり、色々してたんだ。でもどこかで、家族のことが片付いてないのに……という気持ちがあって抑え気味ではあったと思う。だからこそ、帰還後は枷を外してやる! と精一杯アプローチを繰り返した。
     二人で旅行も行った。オレの家に何度も泊まりに来た。母さんがシンのことを気に入ってるから、ついリビングで話し込んでしまって、何も無く寝てしまうのが常になってしまったが。
     もうどうやったらシンの心を自分だけのものに出来るのかわからない。もうやけくそになったオレは「恋人ができた時の予行練習をしたいから付き合うふりをして欲しい」と言ってしまった。バカだ。それを言えるなら「好きだから付き合って欲しい」と言えよと自分で自分にツッコミを入れた。「何言ってんだよ」って笑い飛ばされると思っていたやけっぱちな行動は、いつもの笑顔の「いいよ!」という快諾で許されてしまった。
    「ほ、ホントにいいのか……?」
    「いいよ! おれで練習になるかはわかんないけど。アブトのためだもん」
     もんってなんだよ可愛いなちくしょう。アブトのためって言うならオレのことを好きになって本当の恋人になってくれよ。
     もちろんそんなことを言えないオレは顔だけはクールを気取って「助かる」なんて。でもこれはもう最後のチャンスかもしれない。「アブトを彼氏にするとこういうことをして貰えるんだ~」って思ってもらえるくらい甘やかして愛情を注いで、そうしたら……そうしたらこの先があるかもしれない。
    「じゃあまた来週な」
    「あ、ああ。気をつけて帰れよ」
     数秒前のやり取りがまるでなかったかのように、手を振って軽やかに駆けていくシン。瞬く間に遠くなる背中。あれを捕まえてこの腕の中に留めおける日が来るのだろうか。
     
     ◇
    「アブト、今日もありがと」
    「いや、こっちこそ付き合ってくれてありがとうな」
     デートの終わり際。そろそろ帰ろうかという話になるとシンはいつも笑顔で礼を言う。礼を言いたいのはこっちの方だ。デートスポットなんて知らないから、デートなんて言っても結局出かけるのは鉄道関連ばかりで。それでもシンは文句の一つも言ったことがない。それどころか「これはなに?」「この形は初めてだ」「解説してくれるから楽しい」なんて喜ばせるはずがオレの方が喜ばされてしまってる。知らないことを教えれば目を輝かせて聞いてるし、知ってることがあればドヤ顔で解説しようとしてくれた。解説後にちらっと「合ってる?」って見上げてる来る顔が可愛すぎて、つい見とれてしまって一瞬反応が遅れるのは内緒だ。
    「楽しいデートももう終わりかー」
     デート。そうデートだ。たとえ行き先が鉄道関連であっても、予行練習だとしても。デートだから、と手を繋いでみたこともある。隣に座る時、ハナビやタイジュといる時より距離を詰めてもみた。偶然鼻先が触れそうな程顔が近付いたこともある。でもどれもシンは笑って受け入れてしまって、照れもしなかった。いっそキスでもしてやれば意識して貰えるんじゃないかと頭をよぎったが、もし引かれたり嫌われたりしたら立ち直れない。恋愛においてのスキルが全くないオレには、デートの予行練習から意識させる作戦はハードルが高すぎたんだ。
    「シン」
    「なあに?」
     三歩先を歩くシンに声をかける。振り返るその顔も声も可愛くて、やっぱり好きだなと思う。でももうオレにはお前を手に入れる為の手段が浮かばない。玉砕覚悟で告白をして、もし嫌われでもしたらと思うともう一歩が踏み出せない。臆病でもいい。そばにいられるなら恋人じゃなくて友達のままでも十分だ。だから、もう。
    「終わりにしよう」
    「……え?」
    「予行練習、もう付き合わなくていいぞ。今までありがとうな」
     ちゃんと笑えてるだろうか。頬は引きつってないだろうか。シンの顔がまともに見れなくて視線を首元に下げる。シンに負担はかけたくない。「おれじゃだめだったんだ」って、シンは優しいから気にしてしまうから、円満に、必要が無くなったことを伝えなくては。
    「……練習終わりってことは、本番のデートをする相手ができたのか?」
     低い声が返ってきた。「そうなんだ? わかった、またシュミレーションでな」って軽く流されると思っていたから、これは想定外だった。気に触る言い方だったんだろうか。人付き合いが上手な自信はない。嫌な気分にさせてしまったのだろうか。
    「いや、そういう訳じゃない」
    「じゃあなんで」
    「なんでって……」
     やけに食い下がるシンを不思議に思って顔を上げる。夕焼けが逆光で顔がはっきり見えなかった。
    「待ち合わせに到着したら優しく微笑んで、手を繋いで歩いてさ。さりげなく車道側歩いてくれたり、重いもの持ってくれたり、ちゃんとおれの好きな物の話を聞いてくれたり、そんな風に他の誰かにもするの」
     シンは今、どういう表情をしている。うつむき加減になっているせいで表情が見えない。声が震えてる気がするのは、オレの都合のいい幻聴か。
    「普段クールぶってるくせに、二人だと優しくて気を使ってくれて、グループトークには既読しか付けないくせに二人きりだとすぐ返事をくれて、電話だって、どんなに甘い声してるか気付いてないのか」
    「え、と……?」
    「そんな、ベタベタに甘やかして居心地いい所に置いててくれたのに、急に突き放すとか……っ、ずるい!」
    「シン、話が読めな……」
    「好きなら好きって言えよ! ずっと待ってたんだぞ!」
     シンが勢いよく顔を上げた。バチッと目が合う。大きな瞳から涙が溢れて今にもこぼれそうになっていて、シンにそんな顔をさせているのが、理由が、自分だと気付いて、歓喜で震えた。
    「好きだ」
     三歩分の距離を一瞬で詰めて抱きしめる。同時に耳元に告白を。ずっと、ずっと言いたかった言葉を。
    「……おれも」
    「……アプローチしてるのに、全然反応がないから……脈ナシかと思って……」
    「アプローチ下手すぎるんだよ」
    「う……それは、でも……」
    「おれ以外だと落ちないよ絶対。というか、おれ以外にしちゃダメだからな」
    「ああ」
     わずかに見える耳が赤く染まっていて、表情は胸元に顔を埋めて隠されてしまったからわからないけど、背中に回った腕が縋り付くように服を握りしめるのを感じている。
     オレが臆病なせいで、泣かせてすまない。だけど、お前がいるから強くもなれるんだ。これからはそれを証明していくから、見放さないでそばにいて欲しい。
    「……来週もデート、しような」
    「……うん」
     ずっとオレにはとっては練習なんかじゃなかった。毎回が本番だった。だけど気持ちが通じあって恋人同士になって初めてのデートは、きっと今までで一番忘れられないものになるだろう。
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