アイドルめぇしん「みんなありがとー!」
「ありがとう」
「みんなのお陰でセカンドシングルも出すことが出来たよ! お礼にはならないかもしれないけど、握手会楽しんでってね!」
シンくんの言葉に会場が沸いた。野太い声に混ざって発せられる黄色い悲鳴。男女比は若干女性が多そうだ。
アイドルユニットめぇしん。ユニット名はそのままメーテルちゃんとシンくんの名前から取られたものだ。
元気いっぱいアイドルスマイルが魅力的なシンくん。あまり表情が変わらないがたまの微笑みが魅力のメーテルちゃん。ツインならではのリンクコーデの衣装を着こなして歌って笑う姿は、仕事に疲れたサラリーマンやオフィスレディたちの心を鷲掴みにした。
ファーストシングルは瞬く間にミリオンを叩き出して、待望のセカンドシングル。ファーストの元気いっぱい感を引き継ぎ、かつ夏らしいポップな歌詞は聞いてて心が弾むようだった。それに加えてジャケットを飾るのは眩しい笑顔のシンくんと控えめにはにかむメーテルちゃんの水着姿だ。しかも、ファーストが売れたお礼にと握手会の抽選券がついているという。
買わない訳が無い。セカンドシングルは百枚は予約したし、もちろん着うたも買ったし、ネットでミュージックビデオが公開されてから一日十回じゃきかないくらい見ている。それくらい、彼女たちの歌声と笑顔は救いを与えてくれるのだ。
「やばい……可愛すぎてやばい……」
「生きてて良かった……!」
「また来る!」
「いい匂いがした……!」
「やばい……!」
握手会のブースから出てくるファンのみんな、同じようなことを言っているが要するに生めぇしんはやばいってことだ。もうすぐ順番が回ってくる。心臓の音がうるさい。こんなに早く脈打つなんて今まで人生でなかった気がする。終わったら死んでるんじゃないだろうか。
「お次どうぞー!」
スタッフさんの声に誘導されてブース内に入った。白いブースの中はトロピカルな花などで装飾されていて、セカンドシングルのようなポップで可愛い雰囲気だった。
ブースの中央、壁際に寄せて置かれた長いテーブルの向こう側に二人が立っていた。あまりの可愛さに棒立ちになってしまった。可愛い……むり……。
「こちらです。今日はありがとう!」
「ありがとう」
スタッフさんに背を押されて一歩近づく。無理可愛い。いい匂いがする。むり。なのに、シンくんがするっと手を取って握ってくれた。むりが爆発した。
「ここここここちらこそ‼︎いつもっいやっ毎日っめちゃくちゃ聞いてます! 大好きです‼︎」
「あはは、嬉しいなあ」
「二人ともめちゃくちゃ可愛いし歌うまいし笑顔にいつも本当に励まされてて生きてて良かったっていうか今嬉しすぎて死にそうって言うかでも死んだら迷惑だしもう二人見れないしでもう私何言ってるんですか⁉」
「落ち着いて、おれたち逃げたりしないよ」
「ほら、深呼吸しましょ」
めぇしんの姿を見た瞬間だめだった。
ジャケ写と同じ、グリーンを基調にしたそれぞれのカラー(ピンクと紫)のアクセントが入ったフリルの水着。シンは下にデニムのショートパンツを履いていて、健康的に焼けた肌と合わせて健全な感じがたまらない。メーテルはサロペットで肌を隠してるのにチラ見えする腰が細くて白くてやばい。
オタク特有の何言ってるのかわからない早口トークをかましたのに、二人は困るどころか優しく笑ってくれたし、シンくんは繋いだ手をギュッてしてくれたし、メーテルちゃんが背中を摩ってくれた。やっぱり私の寿命はここまでだ。幸せ過ぎて死ぬ。最高の最後では?
「ずっと応援してます! これからも頑張って下さい‼︎」
死ぬ前にこれだけは! と叫んだところで時間でーすとスタッフさんに背中を押される。くそう。さっきはめぇしんに近付けてくれたくせにっ。
「ありがとう、また来てね!」
去り際に見えたシンくんの笑顔が尊くてやっぱり無理……と呟きやがらブースを出た。
何百枚CDを買っていても握手会は一度きりだ。めぇしんを疲れさせるのは嫌だし、ごねて入れないのはもっと嫌だし、今後無くなったらめちゃくちゃ嫌だからそれでもいいと思ったけど、会って余計にもっと見たくなった。サードシングルが出たらまた握手会がある? そしたらアルバムとかも出るのかな。アルバムが出たらコンサートなんかもあるんじゃない?
「推し活……」
これぞまさに。推しのために働き、推しに貢ぐ。でも全然嫌じゃない。むしろ活力が湧いてきた。働くぞ! 稼ぐぞ! 貢ぐぞ‼︎
「シンくんとメーテルちゃんのために‼︎」
その後、SNSで出会っためぇしんファンの方々と初アフターに。そこで見つけた男の子達もめぇしんの強火ファンだとわかって、そうだろめぇしんは可愛いだろと誇らしげな気持ちになった。