あ、あの子可愛い。
　友人との待ち合わせの途中、道に迷って辺りを見回した時、目を引いた男の子がいた。男の子だ、たぶん。いや間違いなく。なのに妙に華がある。特別整っている訳では無いのに目を引く、不思議な魅力だ。周りにいる人たちも同じように思っているみたいで、ちらちら視線を送っている人もいた。
　当の本人は我関せず。メッセージのやりとりでもしてるのだろうか、スマホに視線を落としている。
　別にあの子じゃなくてもいい。待ち合わせしているようだからここら辺に詳しいとは限らない。だけど話しかけてみたいと思ってしまった。自分はショタコンの気はないと思っていたのに。
　何故かふらふらと引き寄せられてしまう。二歩ほど離れた位置まで行くと、待ち合わせの相手が来たと思ったのか彼が顔をあげた。見上げてくる青い瞳に吸い込まれそうだ。
「あのっ……」
「はい？」
「急にごめんなさい。ここに行きたくて……わかりますか？」
　スマホの画面を彼に見せる。表示されているのは『大宮鉄道博物館』
「大宮って書いてるからここだと思って……でも違うみたいで……待ち合わせ現地集合だから相手もまだ着いてなくてしかも連絡取れなくて……」
　話してる内に焦ってきた。なんで私こんな年下の子ナンパするみたいな気持ちになっているんだろう。いや、やましい気持ちはない。断じて。ただ男の子だし鉄道詳しいかもって思っただけだし。
「あは。お姉さんもやっちゃったか」
　まって笑顔可愛すぎない？　こんな初対面の怪しい女にそんな笑顔見せていいの？　連れていかれちゃうよ。
「お姉さんも……ってきみも？」
　道だけ聞けばいいのについ聞き返してしまった。会話のしたくなる柔らかい声が心地いいんだもん。
「うん。おれもさ、初めて来た時やらかしちゃって」
　はにかんで照れ笑い。最高です。お姉さんは新幹線よりも君の笑顔見れただけでここに来た甲斐があると思いました。
「その時教えてもらったんだけどさー……」
「大宮駅直結のニューシャトル乗り場へどうぞ。改札内なので後ろです」
　後ろから割り込んできた低い声に心臓が跳ねた。け、気配感じなかったよ！
「アブト」
「あちらです」
　するりと彼を庇うように並んだ男の子は迫力のある美形だ。金の瞳に威圧されているようでたじろいだ。
「あ、ありがと……」
　お礼もそこそこに後ずさる。なんだかあれ以上あの場に、というかあの子の近くにいたらやばい気がした。
　数メートル離れてちらっと振り返る。
「遅いよアブト」
「お前が早すぎるんだ。というかお前はいつも誰も彼もに愛想振り撒いて……」
「別に愛想振り撒いてる訳じゃないし。困ってたから助けてあげようとしただけだぞ」
「知らない人に声をかけられても～なんて今どき幼稚園児でも知ってるぞ」
「誰が幼稚園児以下だよ」
「さあな。ほら、行くぞ」
　先程私を威嚇したあの視線はどこへやら、あの子を見る視線の甘いこと甘いこと。口では説教のようなものをしているが、要するに「オレがいないとお前はダメだな」って言いたいんでしょ。なにそれあまーい……。
　まだ不満げな彼の手を自然にとって握っている。文句を言おうと口を開けた彼は何も言えなくなったようで、頬を赤らめて口を閉ざした。
　ああなんでここで待ち合わせにしてくれなかったんだ友よ。君の趣味に付き合ってあげるんだから初心者に優しい場所で待ち合わせして欲しかったよ。そうしたら彼らのやりとりを横目にもっとみていられたのに。
　いつまでも見ているとまたあの金の瞳に射抜かれそうなので、後ろ髪を引かれつつ改札内に逆戻りしていった。