ラフメイカー 音もなく泣いていた。
ただはらはらと、涙が次から次へとこぼれ落ちて行く。
秒針の進む音だけが響く静かな部屋がまた、涙を誘う。
突然、コンコンと音が割って入った。
誰にも会えない顔なのに。なんなんだ。
「誰だ」
鋭い自分の声と裏腹にノックの主は明るく返してきた。
「ラフメイカーだ。お前に笑顔を持ってきたんだ。寒いから入れてよ」
名乗るほど大した名じゃないが、とは言うものの、その声はとても嬉しそうだった。
ラフメイカー? 冗談じゃない。そんなもの呼んだ覚えはない。
「オレになんて構わず消えてくれ!」
酷い言葉だが涙と同じように口から零れるのを止められなかった。だって仕方ない。そこにいられたら泣けないんだ。
会話をしたことで更に溢れた涙は、今度はぼたぼたと溢れている。止めようのない涙に嗚咽まで漏れてきた。
そこに再度、今度は少し遠慮がちなノック。
あの野郎まだいたのか。消えてくれって言ったのに。
さっきの陽気な声と同じとは思えない、悲しそうな声がしてきた。そんなの初めて言われた、悲しいって。泣きたくなってきたって。
ふざけてるのかラフメイカー。それこそ冗談じゃない。お前が泣いてどうするんだ。泣きたいのはオレなんだ。こんな奴呼んだ覚えもないのに。
ドアに背中を預けて座り込んだ。向こうもそうしているのか冷たいドア越しに泣き声が聞こえてくる。泣きすぎて嗚咽を超えて、もう二人ともしゃっくり混じりだ。
「なあ。今でも笑わせてくれるつもりか」
「お前を笑顔にするのが生き甲斐なんだ」
笑わせないと帰れない。ずびずび鼻水をすする音がする。
そこまで、オレなんかのために泣いてくれるなんて。一人で泣いてるよりなぜだか心が軽くなった気がする。
今ではお前を部屋に入れてもいいと思ったのに、ドアが開けられないんだ。溜まった涙の水圧だ。
そっちでドアを押してくれ。鍵なら既に開けたから。
おいどうした。なぜ何も言わない。返事をしてくれ。
「おい、まさか……」
ラフメイカー……冗談だよな……今更オレ一人おいて行っちまったのか。信じた瞬間裏切るなんて。こんなことなら泣いてくれたからって信じるんじゃなかった。
唇を噛み締めたとき、後ろでド派手な音が響いた。驚いて音の元へ走ると、鉄パイプを持ったそいつがいた。
おい嘘だろ冗談だって言ってくれ。でも冗談じゃない。室内に飛び散るガラスを踏む土足のそいつが、小さな鏡を差し出してきた。
泣き濡れた顔をして、それでも顔をくしゃくしゃにして笑って言ってきた。
「ほら。お前の泣き顔笑えるぞ」
やることなすことむちゃくちゃで呆れたけれど、鏡の中の自分の泣き顔もあまりにもぐちゃぐちゃで、確かに笑えたよ。
ありがとうなシン。