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    yun0427

    @yun0427

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    yun0427

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    まおゆうアブシンのいい夫婦の日。
    アンケートまだ終わってないけど早漏なので書きました←
    もし逆転したらそれも書きます😂

    いいふうふの日「アブト」


     柔らかい声がする。
     額にかかる前髪を避ける指先も、くすくすと笑う声も、起こす気があるのか疑わしいくらいの優しさを含んでいた。
     その優しい指先は赤子を寝かしつけるかのように柔らかに触れてきた。指先が額を通って眉間を撫でる。珍しい触れ合いに起きるのがもったいなく感じて、柔らかな声と同じくらい柔らかく微笑んでるであろうシンを見るために開こうとする瞼を気合いで閉じた。
    「アブト。なぁ起きろよ」
    「ん~……」
     言葉では起こそうとしているのに、その声はやっぱり優しい。このまま起きられないふりを続けて甘く起こして貰うのも捨て難い。だけど、人より数倍優れた嗅覚が、寝室にまで漂ってきている甘い香りを逃さない。
    「起きろって。朝ごはん、作ったから食べよ」
     悔しいけれど、耳元で囁かれた言葉に目を開けざるを得なかった。
     夜の情事で体力を使い尽くすらしく、シンは朝寝坊だ。オレは朝食は取らなくても気にならないし、シンが起きてくるタイミングに合わせてブランチを摂るのが定番になっている。
     だがたまに。頻度としては月に一~二度、シンの方が先に目覚めることがある。そんな時は決まって、シンが朝食を作ってくれるのだ。
     分厚く切ったバケットを卵と砂糖とミルクを合わせた液に漬けて、たっぷりのバターで焼き上げるそれに、初めて食べた時は衝撃を受けた。こんなに甘くて幸せな食べ物があるのかと。
     蕩けそうな甘さやバターの芳醇な香りもそうだが、向かい合わせに座ったシンが、オレが美味しそうに食べるのを嬉しそうに微笑んでるから。シンと一緒に食べるそれが、オレの幸せの形の一つだ。
    「美味しい?」
    「うん、美味い」
    「アブトはいつもいっぱい食べてくれるから作りがいがあるなあ」
     今日はいつものフレンチトーストに、丁寧にカットされた柑橘類や、ベリーも添えてある。甘酸っぱいベリーを甘いフレンチトーストに乗せて食べるとまた違って味わいがあってうまい。柑橘類も、普段あまり食べないが、わざわざ切ってくれてると食べやすくてつい食べてしまう。
    「今日はさ、なにかしてあげたかったんだ。起きれて良かったよ」
    「? 今日何かあったか?」
    「ううん、こっちの話。食べたらちょっと街に行こ。買い物したいんだ」
     彩り豊かな食卓とオレの顔を交互に見てはにかむ姿が可愛い。
     もぐもぐ咀嚼しながらシンの言葉にカレンダーを思い出してみるが、特に今日が何かの記念日ではなかったはずだ。以前は時の流れなんて数えたこともなかったけれど、シンと共に過ごすようになってからは移り変わる季節なんかを気にするようになった。だけどやっぱり記憶に引っかかるものはない。
     後で聞けばいいかと考えるのを諦めて、せっせと幸せを口の中に詰め込んだ。
     
     ◇

    「ごめん、おれちょっとあっちのケーキ屋さんに行ってくる」
    「オレも」
    「アブトはここで待ってて!」
     野菜や果物、魚や肉など、日々消費するものを買い込んで、もうオレの両腕は塞がっている。そろそろ切り上げようかというタイミングで、シンは耐えきれないように走り出してしまった。慌てて追いかけようとするが強めに制されてしまったので、仕方が無いので近くのベンチで休むことにした。
     買い出しも、荷物持ちも、ヤマカサが見たら目を剥きそうだ。「顎で使われる魔王なんて実に滑稽だな」なんて。いや、むしろ最近のあいつなら「荷物持ちさせられている魔王なんて実に愉快だ」と笑うかもしれない。どっちにしても悪い気はしない。だってもうオレは世間を震え上がらせる魔王じゃない。番が愛しくて仕方ない幸せな一魔族でしかないんだ。愛してやまない番に使われているのは、やっぱり幸せでしかないだろ。
    「ちょっとお兄さん」
     ベンチに腰かけぼーっとしていたら、いつの間にか目の前に少年が立っていた。手には一輪の赤い花。
     魔族が人との共存を始めて存在が馴染み始めたとはいえ、全身黒ずくめで頭に角がある、見るからに高位の魔族なオレに声を掛けてきたことに驚いた。
     何も言わずに黙っていると、少年は屈託の無い笑顔を浮かべてずいっと腕を伸ばしてきた。手に握られている花はたぶん薔薇だろう。
    「これ、買わない? 奥さんに渡したら喜ぶよ」
     奥さん。それは人の世界でいう番の呼び名の一つだ。さっきまでシンといたのを見ていたのだろうか。並んで歩く様子を見て番だとわかったのだろうか。
     他人からもそう見えるのかと思うと、ヤマカサに自ら知らしめた時とは違う、なんだか擽ったい気持ちになった。
    「せっかくのいい夫婦の日なんだし、ね?」
    「いい夫婦の日?」
    「あれお兄さん知らない? 今日はいい夫婦の日って言ってね、愛と感謝を伝える日なんだよ」
     少年の説明によると、人間は番とは言わずに夫婦と称することが多いのだそうだ。今日、十一月二十二日の語呂合わせでいい夫婦と読み、それに因んで番……配偶者へ贈り物をしたりするのだそうだ。
    「一本の薔薇の意味は一目惚れ、あなたしかいない。いかが?」
    「貰おう」
     オレのための言葉かと思って即答してしまった。売るための体のいい売り文句だとしてもいい。だって、花の意味だけじゃない。今日の日の意味を教えて貰ったことが何より有難かったんだ。
     礼の意味も込めて、相場よりかなり多いが金貨を渡してやる。少年は「毎度ありー」金貨を握ると眩しいばかりの笑顔を浮かべて去っていった。
     肉厚な花弁が幾重にも重なり、たった一輪ながら咲き誇る真紅の薔薇は見事の一言だ。
     くるくると回したり掲げたりして、隅々まで観察してみる。何かに集中していないと頬が緩んでしまいそうになるからだ。
     昨晩も激しく睦みあったというのに、朝が弱いのに、わざわざ起き出して朝食を用意してくれたのは。
     いつもの朝食だけでなく、面倒くさがって食べないし言ったこともないけれど、実は好きな柑橘類を剥いてまで用意してくれたのは。
     ケーキ屋から出てきたシンがそこの曲がり角から出てくるまであと数分。きっと、自分の為じゃなくてオレのためのケーキを買ってくるんだろう。
     照れながらケーキを用意するシンがありありと浮かんできて、二人で笑いながら食べるのが今から楽しみで仕方ない。
     待ってる間も幸せになれるなんて、今日はなんていい日だ。
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