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    watersky_q

    スライム。

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    watersky_q

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    狂聡もどき。書きたいとこだけ書いた。
    モブ視点。治安悪い。闇落ち聡実くん。

    #狂聡
    madGenius

    あれから何時間経っただろう。
    血と鉄とコンクリートの匂いで、頭がぐわんぐわんと揺れる。転がされた床に体温を奪われていく。
    もう全て何もかも洗いざらい、喋ってしまおうかという気にさせる痛みが続いていた。

    「強情やな、あんた」

    それまで部下に手を出させて自分は座っているだけだった真っ黒な男が、煙草に火をつけた。小さな火に、黒々とした目が照らされるのが見える。
    闇の中に溶けているようで、闇を纏っているようで、闇を付き従えているような、黒い男。
    何時間も、俺が弄られるのをただただ見ていただけだった男が、今初めて口を開き、煙草に火をつけるという動作をした。ふっと吐き出した煙が無機質な天井へ昇っていく。
    男は静かに立ち上がり、革靴をカツカツと鳴らして俺の傍までやってきて、そしてそのどろりとした目で俺を見下ろした。
    怖い。
    どんな暴力よりも、どんな罵声よりも、どんな脅しよりも、この男の目が怖い。この男が傍に立っていることに耐えられない恐怖を感じる。
    ごぼ、と内臓から逆流するように口から血が溢れ出す。それを見ても、男は何の感慨も沸かないという顔をしていた。

    「かわいそうに」

    思ってもいない声だ。

    「あんたがあかんのやったら、次当たるまでや」

    ぞくりとした。この男が、俺の弟分を、俺の女を見る。この目で。
    この恐怖が、連続して、広がっていく。そんな恐ろしいことはないと思った。全てを平伏させるような、ただそこにいるだけという暴力で徹底的に殴りつけられる。
    こんな化け物、俺らの狭いシマなんかあっという間に制圧してしまう。ヤクザはメンツより親よりなにより街を守れ、なんて言われてきたけど。この化け物相手にどんな抵抗も通じる気がしない。
    それならいっそ、と血の味がする唾を飲み込んだ。
    いっそ全て吐いてしまえ。
    弟分と女の安全を守るためだ。血で血を洗う抗争になるより、ひと息に食われたほうがマシなこともある。
    この化け物の毒を塗り広げるぐらいなら、いっそ。いっそ。
    ガチン、と撃鉄を起こす音がした。チャカだ。それで脳天を貫いてくれるならまだいい。だけど、そうはいかないだろう。じわじわと、最も苦しむ方法で痛めつけられるはずだ。

    「い、言う・・・」

    血の味を噛みしめながら、何とかそう告げた。
    男はほぉん、と嘲笑うような吐息のような声を発して、俺の目の前にしゃがみ込んだ。

    「お喋りする気になったん?」
    「わかった、しゃべる」

    この男の恐怖という毒を広げるより、街ごと飲み込んでしまってくれ。まだマシだ。ほんの小指の爪の先程度でも、マシなものはマシだ。
    男は新しい煙草に火をつけ、コツコツと革靴でコンクリートを鳴らしながら俺の自白を聞いた。拳銃のルート、クスリのシノギ、最近手を組んだ半グレ、組の内部事情。
    要求されていないことまで喋ったのは、俺自身が最近の組に疑問を抱いていたからだった。飲み込まれてしまえ、と喋るうちに本気でそう思い始めていた。
    俺が洗いざらい話すと、男はまたほぉん、と曖昧な声を出して、新しい煙草に火をつけた。
    すると、ガラガラとシャッターが開く音がする。痛む首を何とか持ち上げると、古倉庫のシャッターが開いて、外の光が飛び込んできていた。もう明け方だ。
    その光の中に、細身のシルエットが立っているのが見えた。逆光で顔はわからないが、恐らく男だろう。

    「きょうじ」

    鈴を転がしたような声、とよく言うだろう。女の美しい声の表現だ。あんなもの、嘘だと思っていた。だけど俺はこの時、本当に鈴を転がしたような声があるのだと知った。
    ただしそれは男の声だ。標準より少し高い、凛として芯のある美しい声だった。

    「遊んどらんと、はよし」

    細身の男がそう告げると、目の前の黒い男は火をつけたばかりの煙草を惜しげもなく投げ捨てて、革靴で踏み潰した。そして、はぁい、と甘いお菓子のような声で返事をする。
    後光を纏ったような姿から目が離せなくなる。段々と日が昇り、光が強くなって、その影はますます深くなった。

    「あと任すわ」
    「はい」

    黒い男は俺を散々痛めつけた部下にそう指示し、これやるわ、とあっさり銃を渡した。
    革靴の音が遠ざかっていく。ふたつの影が重なって、朝の光の中へ消えていく。そしてシャッターが閉じられ、再び暗闇が訪れると共に、俺の意識は途切れた。
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