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    fujiyuki_mui

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    かぜっぴき☁️

    はるかぜとともに「ごめんね雨さん」
     目が覚めた時から身体が重い気がして喉に違和感があった。昼前には頭痛と腹痛もやってきて、額に当てられた五月雨江の手のひらがひんやりして気持ち良くて。
     薬研曰く風邪とのこと。今日は揃って非番だから一緒に山に季語を探しに行こうと話していたのによりにもよって何故このタイミングなのか。熱でままならぬ身体を布団からようよう起こした村雲江は約束を反故にした申し訳なさで傍らの五月雨江に頭を下げた。
    「あったかくなって来たのに風邪ひくなんて……ほんとごめん」
     寒い時期ならまだしももう季節は春だ。晴れて暖かい日が続き先週は桜も咲いたというのに。寒さが緩んで油断をしていたのだろうかと村雲江は萎れた気持ちを隠す事も出来ずに俯いた。
    「雲さんの身体は冬を越えるために頑張ったんですね」
    「冬を越えるため?」
     予想もしなかった反応に顔を上げると粥を吹き冷ましている五月雨江と目が合った。口元に寄せられた匙に素直に口を開けると、広がるのは程良い温度の優しい味。はいと答えた五月雨江が寄せた匙でもう一度粥を食む。美味しい。
    「冬は寒い。加えて空気が乾燥しています。乾燥していると、ういるすが活発化するんだそうですよ。そして冷えた身体はそれに抵抗する力が弱くなるそうです。寒くて病気になりやすく心身に負担が大きい季節を乗り切ろうと頑張って頑張って、暖かくなってようやく強張りが解けたところに、これまでの疲れが一気に来たんじゃないでしょうか」
    「そっか。……そっかぁ」
     食事を終えて布団に戻ると顔にかかった髪が払われ手の甲が頬に触れた。まだ熱いですねと言って五月雨江が冷やした手拭いを額に乗せてくれる。その指先もひんやりしていてほうと息を吐くと藤色の瞳が僅かに笑んだ。
    「今日はゆっくり休んでください。元気になったら一緒に散歩に行きましょう。山桜はこれからですから楽しみですね」
    「うん。早く元気になるから、だからちょっとだけ待ってて」
    「はい」
     粥は半分ほどで食べ疲れてしまったが、沈んでいた気持ちはふわりと浮いてじんわり温かい。首元まで引き上げてくれた布団がふわふわで気持ち良くてまぶたが重くなっていく。閉じゆく視界の端に五月雨江がいる事に安堵して、村雲江は眠気に身を任せたのだった。
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