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    るい(と)とうふ

    @rui_and_tofu

    rui(字)ととうふ(絵)の合同らくがき置場。二次のみ。ジャンル雑多。

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    るい(と)とうふ

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    ウォチド:レギオン(/WD2)よりレンチの独り言。DLCレンチのネタバレあり。即興二次で練習なので30分一発書き(お題:1000の春雨 必須要素:頭痛)

    ##WD2

    千回の春雨スープ「何で私が怒ってるかわかる?」
     背後から聞こえてきた会話に、スタンドで注文した春雨スープを受け取る手が止まる。背後を通りすぎていく二人のあいだに流れる雲ゆきが芳しくないことくらい、振り返らなくてもわかった。身に覚えのある空気だ。レンチ自身、離婚の数ヶ月前になんども味わった。あの独特の胃がしめつけられる感覚は、積極的に思い出したいものではなかった。
     ──それさえわかれば、そもそも怒ってないんだろ?
     もっとも言ってはいけないであろう答えをぐっと飲みこんだときの苦い味と、ついでに口論のお供と化した頭痛までもよみがえるにいたって、レンチはとうとう汗だくのマスクの下でイーッと顔をゆがめた。マスクは卒業したつもりだったが、やはりこういうときは便利だ。
     ──何で私が怒ってるかわかる?
    「この世で一番関係を破壊しやすい質問だってTwitterで読んだ」「ストレートに伝えてくれりゃ解決だって早い」「怒り方が合理的じゃない」
     いまさら反芻しても何にもならない言葉がぐるぐると胸中を行き来しだす。こうなると、しばらくは過去につかまってしまう。結論のない愚痴を聞かされたって迷惑だろうとは思いつつ、マーカスにだけ愚痴った言葉の数々だ。何度も。なんども。そのたびに見せた複雑な親友の表情は今でもありありと思い描けるのに、唇を震わせていた妻の表情はなんだかぼやけてしまっていて、それが罪悪感に拍車を掛ける。
     妻が言いたいのはそんなことじゃないって、本当はわかっていた。
    「なんか食いたくねえ?」
     レンチがさんざん気の済むまでわめき散らしたあと、マーカスは決まってそう言い出した。なんでもないふうを装う、いつもの気安い口調で。レンチに理はないけれどレンチのことを傷つけたくもない親友の優しささえ、当時のレンチには針の筵に似た鋭さで刺さった。あの頃サンフランシスコのチャイナタウンにしてはめずらしく安価で美味い(つまり観光客向けでない)チャイニーズを供するフードトラックが常駐していた。関係が最悪を通りこして絶対に顔を合わせたくないレベルのギャングどもの根城を避けるルートを選びつつ、昼夜問わず連れだって買いに行った。車で、徒歩で、時にはちょろまかしたスクーターで。マーカスは決まって春雨スープを注文していた。実際は腹なんか空いていなかったのだ。
     あのトラックも、今は撤退してしまったらしい。レンチ自身は目にしていないが、マーカスがインスタで嘆いていたのを読んだ。いいねはつけなかった。インスタを見ていることを知られたくなかった。
     ここカムデンタウンの飯は、オシャレで凝っていて、ウマい。だが手軽さに欠けるとレンチはいつも思う。そして高い。
     マスクをずらし、緑色の麺(ナントカいうヘルシー麺らしいが、要するに春雨だ)をひと口啜る。薄味の上湯スープが今風だ。
     ──大して美味くもねえな。
     評価を胸中で訂正する。飯がマズいのは、隣にマーカスがいないせいだとは思いたくなかった。マスクの改良は飲み物までが限界だったな、などと思考をそらしてみて、俺なんて結局その程度のモンだったんだとまた別の自虐に行き着く。最近はそんなことばかりだ。
     カムデンのマーケットは平日の昼間でもにぎやかだ。さっきのカップルの姿はもう見えない。通りにひしめく古着やアンティーク道具の数々は、来たばかりの頃は目にも新奇に映ったが、慣れた今となっては品ぞろえが代わりばえしないのがバレバレで退屈だ。ここも観光客向けの場所になりつつあると、例のパブに集うデッドセック・ロンドン支部のメンバーがこぼしていた。レンチの妙ちきりんなファッションはロンドンの街中で意外に浮かない。むしろ馴染んでいる。パンク発祥の地だから当然といえば当然だが、それでもイギリスは、どこにいても違和感がつきまとった。見た目とは裏腹に。
     本当はわかっていた。
     レンチの事業がうまくいっていないのだと、ただ素直に話せば良かったのだ。それはマーカスだってそう思っていたはずだ。でも、彼はそうは言わなかった。ただ黙って、飯を一緒に食いに行ってくれた。何度だって。
     通りのむこうから、見るからにパンクスといった風情のティーンズ二人組が歩いてくる。ヴィヴィアン・ウェストウッドのサロンから抜け出して来たような“いかにも”な服装はファッションというよりコスプレにしか見えない。
    「ごめん、そういう意味じゃなかったんだって」
    「別にいいよ。それがお前だから」
    「言えてる」
     すれ違いざまにそんな会話が聞こえた。カラフルでトゲトゲしい髪型の二人は笑いあい、小突きあいながら楽しげに通りすぎていく。
     レンチはヌードルの入ったプラ容器を片手に、かれらの後ろ姿をぼんやり見送った。冷めたスープをもうひと口啜る。
     ──着たまま飯が食えるマスクの開発、再チャレンジしてみるかね。
     不意に降って湧いたアイディアを検討するように頭上をふり仰ぐ。見上げたロンドンの空は、あいかわらず冴えない曇り模様でレンチは苦笑する。
     マスクを直し、ふたたび歩き出す。
     ついでに、半分以上残った春雨スープを通りの屑カゴに放り込むのも忘れなかった。

    end.
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    るい(と)とうふ

    TRAININGひとごろしと、月島。と、ちょっとだけ尾形【即興二次(21/06/16分)/お題:汚れたクリスマス/執筆制限時間:30分】(※色々と捏造含みます)
     人は罪深く、けれど神はすべてを赦したもう。と、目の前に転がる男は言った。清廉な瞳をした、ハキハキと歯切れよく喋る、気持ちの良い青年だった。
     裏表なく人に優しい。義に篤い。教養も深い。それでいて、文化的知識人インテリゲンチヤにありがちな偉ぶったところがひとつもない。知らぬ者には惜しみなく知識を与え、侮ることもなかった。
     トルストイという露西亜の大作家が戦争に向かう祖国を批判し、暴力断固反対の声明を発したという話は、彼から教えられた。
     元々は神戸で貿易業を営む裕福な商家に生まれた長男だったらしい。偶然おとずれた函館で宣教師と出会い、強く感銘をうけた。自身もまた神に仕えたいと言い出した彼に、当然ながら両親は激怒した。溝は埋まることなく、ほどなく彼は勘当された。しかし彼の真摯な信仰は誰の目にも明らかで、遊びや気の迷いと一蹴されるようなものではなかった。結局、折れたのは両親だった。そして両親もまた、いつしか神の御前に帰依するようになったのだと彼は語った。
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