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    はるみ

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    はるみ

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    たしさんのお誕生日に押し付けた侑北です。
    モブ女が可愛いイッヌに背中を押される侑北を見守る話です🐶

    天使のあしあと すんのかい、せんのかーい!
     関西の血が入っていない私ですら、心の中でそう叫んでしまうほど焦れったい。
     公園を見下ろす場所にある小洒落たカフェ『AT KiTsune』の窓越しに眼下のベンチへ視線を注ぐ私の拳は、小一時間ほど前からずっとギッチギチに握りしめられている。
     燦々と太陽が照っていた日中とは異なり、夕方の気配がし始めたこの時刻。公園の遊歩道から少し離れ、花壇と生垣に囲まれた池のほとりに置かれたベンチは、高校生の放課後デートのロケーションとしては中々いい雰囲気のはず。
     部活帰りなのか、大きなエナメルバッグをベンチの端側に置き、中央に並んで座る制服姿の高校生。先ほどから、金髪の子が隣の銀髪の子の肩に手を伸ばそうとしては引っ込め、というのを百回は見た気がする。きっと、まだ付き合いたての二人なのだろう。座る距離は友人にしては随分と近いのに、どちらも動きがやけにぎこちない。その独特の空気感に恋人同士の蕩けるような甘さは無く、もどかしい程の甘酸っぱさが漂っている。どのくらい甘酸っぱいのかと言えば、のど飴を溶かしたほっとレモンに蜂蜜梅干しを入れたくらいの甘酸っぱさ。ちょっと風邪引いたかも、ってタイミングで渡されたら「惚れてまうやろ!」って感じの。しかし、そんな様子も小一時間ずっと肩に手が回るかどうか、と見守り続ければ「アオハルかよ」という微笑ましさよりも「すんのかい、せんのかい!」が勝つ。
     特にここ数十分の進展の無さは逆に目を見張るほどだったので、ついに私の視線は公園の別の場所へ向いた。少し息継ぎしないと見ていられない。いや、高校生カップルのプライベートな現場を見なければいいだけの話なのだけど、ここまで来たら金髪シャイボーイの頑張りの結果を見届けたい気持ちもあるのだ。
     ベンチ付近の人通りはまばらだが、視野を広げると遠くにランニング中の人影や、犬の散歩をしている人も見受けられた。そんな中、私の視界に白っぽい小さなふわふわの塊が飛び込んできた。ベージュのリードを持った女性をグイグイ引くのは、この距離でも分かるほどご機嫌な様子の小さきいのち。ふさふさのしっぽをブンブン振って、時折後ろの飼い主さんを確認しては、くるくる回る尊きいのち。高校生カップルのモダモダを見守り続けてソワついていた心が、アニマルセラピー効果でほっこり癒される。
     すると、くるくる回り続けてリードが絡まったのか、飼い主さんが道の脇に屈んで紐を直し始めた。その最中、どうやら飼い主さんが一瞬だけリードを外したようで、その隙を逃さなかった賢きいのちは一目散に、シュバっと駆け出した。屈んでいた飼い主さんの伸ばした手は一歩及ばず、テンションの上がった素早きいのちは、ハードル走さながらに花壇や生垣をピョンピョン飛び越える。そうして次々と飛び越えていった先にあったのは、件の金髪の高校生の背中だった。
     軽やかなジャンプの後、金髪の子のカッターシャツの背に、たしっ! と音がしそうなほどの見事な着地を見せた素晴らしきいのち。そのまま銀髪の子の丸い頭を飛び越えた愛らしきいのちは、何事もなかったかのように、てってこてってこ、と走り去る。そこへ駆けつけた瞬足の飼い主さんが腕を伸ばして確保するところまでを見届けた私が視線をベンチに戻すと、そこには、それぞれの口元を自分の手で覆った二人が居た。
     いやこれ、やってんな! さっきの着地がナイスアシストした結果、肩に手回しどころか『キスすんのかい せんのかい』で事故チューしちゃってんな!
     ワァワァと可哀想なほど狼狽える金髪の子と、一見冷静な様子ながらも遠目に分かるほど赤くなった銀髪の子。しばらく何かを話し込んだ二人は、互いに周りをキョロキョロと見渡してから、再び向かい合って相手の頬に伸ばし──。

     流石にその先を盗み見るのは忍びなく、私はすっかり冷えたカップの中身を飲み干すと、荷物をまとめて伝票を片手に席を立った。しかし、最後にどうしても気になって窓の方を振り返ると、仲睦まじく手を繋いで歩き出す二人の背中が見えた。金髪の子のカッターシャツの背中で勲章のように煌めく四つの点々は、きっと、初心な恋人達を祝福する天使の足跡だ。
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    はるみ

    DONEたしさんのお誕生日に押し付けた侑北です。
    モブ女が可愛いイッヌに背中を押される侑北を見守る話です🐶
    天使のあしあと すんのかい、せんのかーい!
     関西の血が入っていない私ですら、心の中でそう叫んでしまうほど焦れったい。
     公園を見下ろす場所にある小洒落たカフェ『AT KiTsune』の窓越しに眼下のベンチへ視線を注ぐ私の拳は、小一時間ほど前からずっとギッチギチに握りしめられている。
     燦々と太陽が照っていた日中とは異なり、夕方の気配がし始めたこの時刻。公園の遊歩道から少し離れ、花壇と生垣に囲まれた池のほとりに置かれたベンチは、高校生の放課後デートのロケーションとしては中々いい雰囲気のはず。
     部活帰りなのか、大きなエナメルバッグをベンチの端側に置き、中央に並んで座る制服姿の高校生。先ほどから、金髪の子が隣の銀髪の子の肩に手を伸ばそうとしては引っ込め、というのを百回は見た気がする。きっと、まだ付き合いたての二人なのだろう。座る距離は友人にしては随分と近いのに、どちらも動きがやけにぎこちない。その独特の空気感に恋人同士の蕩けるような甘さは無く、もどかしい程の甘酸っぱさが漂っている。どのくらい甘酸っぱいのかと言えば、のど飴を溶かしたほっとレモンに蜂蜜梅干しを入れたくらいの甘酸っぱさ。ちょっと風邪引いたかも、ってタイミングで渡されたら「惚れてまうやろ!」って感じの。しかし、そんな様子も小一時間ずっと肩に手が回るかどうか、と見守り続ければ「アオハルかよ」という微笑ましさよりも「すんのかい、せんのかい!」が勝つ。
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