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    55Catwalk

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    55Catwalk

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    うたわれるもの
    オシュハク




    とある昼下がり。

    「………」

    ルルティエは1冊の書物を手にヤマトの大通りを歩いていた。
    事の発端は、贔屓にしている女性専門の書店からだった。アンジュに持ち帰られてしまった限定書籍を再び手に入れるため、大慌てて書店へ飛び込んだのである。しかし、さすが限定品というべきか…山と積まれていたはずの空間には完売御礼の札がちょこんと鎮座しているのみ。あまりの現実に、燃え尽き固まるルルティエに書店の店主は申し訳なさそうに声をかけてきた。

    『せっかく来てくれたのに品を切らしちまって悪かったね。代わりと言っちゃなんだが、コレをあげよう』

    ぺらりと冊子の表紙をめくってみる。1枚、2枚、そして最後まで。それは何も書かれていない真っ白でなんの変哲もない冊子だった。
    白楼閣に戻ってきたルルティエは早速寄合に使っている部屋に顔を出してみたが、あいにくと誰もいない。ソファに体を沈め、改めて白い冊子をめくってみた。そして、ふと目に止まった筆をとるとサラサラと青年の立ち姿を描いてみる。どことなくハクに似た、というかハクその人な絵を描いてしまったことに1人恥ずかしく頬を染めていると、

    「それはハクじゃな!」
    「ひゃう!?」

    突然の声に悲鳴をあげるが、声をかけてきたアンジュは特に気にした風でもなく、しげしげと描かれたハクを見ては瞳を輝かせている。

    「そなたは絵がうまいの!もっとみたいのじゃ!」
    「え、え…いえ、で、でも…っ」


    (省略)クオン、アトゥイ、キウル、ネコネも帰ってきてワイワイしてたところにムネチカ登場。


    「むむむむムネチカ!?何しに来たのじゃ!?」
    「まずは小生の質問にお答えいただきたい。姫殿下、また遊びに出ておられるのは何故か」
    「なななな何を言うかぁ!余はここで勉強しておるのじゃ!ほれ、見よ!」

    慌てて筆を取るや、アンジュは【歩く】とやや震える文字を書いた。

    「あの…このハクさん、動いてるんですけど…これも、ルルティエさんの絵がお上手だからですか?」

    キウルの指摘に皆が冊子を覗き込む。絵であるはずのハクがトコトコと紙の中を歩いている。絵であるはずのハクが、である。

    白昼夢か?

    皆が無言で互いに視線を交わした。

    「ま、まずは、その…あれかな、無難なことを書いて、本当に動くのか様子を見るのがいいかな」

    動揺しながらもそう言うと、クオンはサラサラと筆を走らせる。

    【石につまずいて転ぶ】

    「つまらん!本当に無難なことを書いてどうするのじゃ!」
    「あ、姉様!見てくださいです!」

    ネコネの声に皆が視線を寄せる。
    紙の中のハクは突然出現した石につまずき、顔から地面に突っ込んでいった。

    「「「「「…………………」」」」」

    「おもしろいぇ!私も書きたいんよ!」
    「待ってくださいです!次は私なのです!」
    「何を言うか、まずは余にやらせるのじゃ!」
    「ちょっ、まずは私が書くべきかな!」

    白い冊子はあっという間に真っ黒になっていく。

    「なんだか、このハクさん疲れてるみたいですよ…」

    さんざんおもちゃにされた紙の中のハクは、どこかゼイゼイと肩で息をしているように見えて、思わずキウルは同情した。

    「…歩いているのです」
    「どこへ…行くつもりなんでしょう…」
    「えーっと、最後に書いてあるのは」

    パラパラとクオンが紙をめくる。

    【好きな男に会いに行く】

    「えっ…ええっ…!!?」
    「な、何かなこれ!?」
    「フッ、書いたのは余じゃ!褒めよ!」
    「あやや…なんで"男"に限定しちゃうん…」
    「そんなのは決まっておる!男の友情、努力、勝利…そして熱い情熱を見たかったのじゃ!」
    「そういうのはこっそりやってほしいのですよ」

    「あ、どこかに着きましたよ」

    キウルの指摘に皆の熱い視線が集まる。

    紙の中のハクはトコトコとどこかの屋敷を歩いていく。ごくりと皆が生唾を飲んだとき、ついに紙面上に新たな男の姿が増えた。

    しかも、2人。

    「兄上と、オウギさん…ですかね」

    会話までは聞こえてこないが、ハクは2人に近寄ると座り込んだ。

    「なんえ、どっちなん!?」
    「ドロドロの展開かもしれぬのじゃ!」

    女性陣の悶々とした空気も知らず、紙の中の男3人は先程から微動だにしない。

    「ええい、待つのは嫌いじゃ!」

    【好きな男に抱きつく】

    「え、え、ええーっ!?」
    「んなぁ!?な、なにを書いているですか!」
    「しかしこうすれば1発でわかるのじゃ。しかも、知人同士のそのような姿を目の前で見たら、気まずくて邪魔者は立ち去るに違いないのじゃ!」
    「うぐっ…ひ、ひどい…」
    「どうじゃムネチカ!どちらだと思う?余はオシュトルに賭ける!」
    「小生は…っ、小生もオシュトル殿で…」
    「賭けなら混ぜてぇな、穴狙いでオウギはんや」
    「なっ!兄様が負けるはず無いのです!」
    「わたし…わたしは、オウギさんで…」
    「みんな落ち着くかな。2人とも選ぶかもしれないよ」
    「そなた!それは汚いのじゃ!」
    「うう…ハクさん、兄上…止められずにすみません」

    果たして。

    紙の中のハクはスクッと立ち上がると、迷うことなくオシュトルに抱きついたではないか。賭けをしていた一同は阿鼻叫喚である。

    それからしばらく。新たな問題が一同を襲う。

    「なかなかこやつが帰らんな…」

    そう、オウギがなかなか退室しない。

    「この先のお兄さん達の愛が見たいんぇ。オウギはんには申し訳ないけど」

    【オウギは退室する】

    「…なかなか退室しませんね」
    「うむ」

    ようやく退室。やりきった感にあふれ、どこか互いに笑顔が浮かぶ中でクオンが悲鳴をあげた。

    「ちょっと待って!」

    ひょいっとオシュトルがハクを抱えあげると、そのままスタスタと歩き出した。そしてとある部屋に着くや、ハクをそっと降ろしたのだ。布団に。

    「え…え…っ!?」
    「はわわわわ、お兄さん…!」
    「きたきたきたきた!きたのじゃー!」

    穴が開くかと思うほど視線を向けていたからか、



    「おやおや、なんだかおもしろそうなことをしていますね」



    オウギが戻っていたのに気づかなかった。
    一同は油が切れたゼンマイのように、ギギギと背後を振り返り、普段は見せない冷たい瞳を向けられて逃げ惑ったとか。








    「…うむ、体が動くな」
    「勘弁してくれ、一体なんだったんだ?」
    「しかし、ここで終わる気にはなれぬのだが…ハク殿、続きをしても良いだろうか?」
    「否やは、受け付けてないだろ…どうせ」
    「すまぬな、確かに愚問であった」

    後日。不思議な冊子は何故かオシュトルが管理することになり、ハクにしばらく奇行が続いたという。
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    オシュハク



    とある昼下がり。

    「………」

    ルルティエは1冊の書物を手にヤマトの大通りを歩いていた。
    事の発端は、贔屓にしている女性専門の書店からだった。アンジュに持ち帰られてしまった限定書籍を再び手に入れるため、大慌てて書店へ飛び込んだのである。しかし、さすが限定品というべきか…山と積まれていたはずの空間には完売御礼の札がちょこんと鎮座しているのみ。あまりの現実に、燃え尽き固まるルルティエに書店の店主は申し訳なさそうに声をかけてきた。

    『せっかく来てくれたのに品を切らしちまって悪かったね。代わりと言っちゃなんだが、コレをあげよう』

    ぺらりと冊子の表紙をめくってみる。1枚、2枚、そして最後まで。それは何も書かれていない真っ白でなんの変哲もない冊子だった。
    白楼閣に戻ってきたルルティエは早速寄合に使っている部屋に顔を出してみたが、あいにくと誰もいない。ソファに体を沈め、改めて白い冊子をめくってみた。そして、ふと目に止まった筆をとるとサラサラと青年の立ち姿を描いてみる。どことなくハクに似た、というかハクその人な絵を描いてしまったことに1人恥ずかしく頬を染めていると、

    「それはハクじゃな 2757

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