【家族認定】「はい風見、好きな時に来てくれ」
例の組織が片付いて、降谷さんも僕も昇進して少し接点が薄れてきた頃。
偶然会った降谷さんにそう言って渡されたのは、どこかの家の鍵。降谷さんから受け取ったその鍵を、僕は頭にハテナを浮かべながら見つめる。
なぜ鍵を渡された? というかどこの鍵だ? 最近の捜査で、そういった物件はなかったはず……。
「すみません、どこの鍵でしょうか……」
怒られる事を覚悟してそう聞けば、しかし降谷さんは眉間に皺を寄せて説教モードに入る訳でも無く、あっけらかんと答えた。
「僕の家の鍵だ」
……降谷さんの家の鍵?? あ、新しいセーフハウスか? そういった話は聞いていなかったが、どこか借りたのかもしれない。でもなぜ僕に……。
「都内のマンションを買ったんだ。場所は後でメールするから」
「え、買った? という事は、もしかして降谷さんのご自宅の……?」
「? そう言っただろ?」
いや言ってない。言ってないはずだ。……いやでもこの自信満々な降谷さんの態度……僕が聴き逃したのか? あ、でも確かに『僕の家の鍵だ』と言って渡されたような。
という事は本当に降谷さんの家の鍵!? え、なんで渡されたんだ!?
「え、あの何故僕に……」
「何故? 君はうちの犬にとって家族みたいなものだろう? 僕も君が来てくれると嬉しいからな」
爽やかな笑顔でサラッと凄いこと言われた気が……。
「という訳で、何時でもうちの犬に会いに来てくれ。時間が合えば食事を一緒にしような」
『楽しみ!』と言いたげな顔でぽんと僕の肩を叩いて降谷さんは僕に背を向けた。
えっ、どういう事??
僕は自室で一人悩んでいた。原因は今日降谷さんに渡された鍵である。鍵を机に置いて、腕を組んでうんうん唸る。
スマホには、降谷さんからご自宅の場所と、ワンちゃんの名前が記されたメールが届いて居てる。
え、本気で? ちょっと意味がわからない。確かに僕と降谷さんは例の組織の件で上司と部活としていいコンビだったと思う。最近会う機会が減って寂しいとは思っていた。
だから、仲間として、友人……として、自宅に招かれるならまだわかる。でも、何故鍵を渡された?? セーフハウスでは無い、プライベートの家の鍵を。
合鍵って、親しい相手に渡すものだよな。
「……まさか、降谷さんはそこまで僕のことを気に入ってくれている?」
そう思うとカッと顔が赤くなった。だって、親しい相手と言っても、友人相手にすら鍵なんてホイホイ渡さないだろう。渡すとしても一般的には家族や恋人などの、本当に限られた間柄のはずだ。
え、……え? 降谷さん??
「と、遠回しの告白だったりするのかな……」
ははは、まさかそんなはずは! ……無いよな?
で、でも、降谷さんが使って良いと言うなら本当にいいのだろう。
ドキドキと心臓が高鳴る。
許されている。あの降谷零に、ここまで許されている。
そう思うと口が波打って顔がにやけるのを抑えられない。だって僕は、降谷さんが好きなんだから。あの強くてカッコイイ降谷さんに憧れて、恋焦がれて、その背中を追ってきた身としては、この上なく名誉なことに思えた。
「こ、今度の休みに、早速行ってみようかな……」
行くならやっぱり連絡してからだよな。僕は高鳴る胸を抑えつつ、勢いよくベッドに乗ると枕に顔を埋めて足をバタバタとされた。
そしてついにやってきた休みの日。許可を貰ってから降谷さんの家に行き、降谷さんが不在の中お邪魔して名前を教えてもらったハロさんと遊んでいると、帰ってきた降谷さんに「ただいま」ととろけるような顔で言われて僕の心臓が危うく口から出かけたのは、誰にも内緒だ。