【何でもない日のプレゼント】 人間、暇が極まると何をするか分からない。
「いっぱい作っちゃったな……」
目の前に広がるのは、二十を超える数の白い塊。
百円ショップで買ったシリコン製の方で作られたそれらは、可愛らしくも星の形をしている。
暇人の閃。暇人の遊び。
僕はたった今まで、夢中で手作り入浴剤を作っていたのである。
非番というのは、日々怒涛のように働いている僕には少し持て余すものである。
ヨーコさんの円盤を見るのも良いが、たまには別の趣味でも探してみようかと検索してみた結果、手頃な材料で簡単に出来るという入浴剤を作ってみたのだ。材料はシリコン型以外は全てドラッグストアで買えた。
手作り入浴剤は重曹、クエン酸、片栗粉を霧吹きの水を吹きかけながら混ぜて型に入れて固めれば完成だ。乾燥に一日ほどかかるから、さっき作ったこれらはまだ完成と言えないかもしれないが、あとは放置すれば完成なので完成ということにしておこう。
「沢山できちゃったな。でも思ったより簡単に出来たな」
手作り入浴剤にはいくつかの注意事項がある。それは、入浴剤を使った湯を目に入れないようにすること。追い炊きには注意が必要ということ。洗濯に残り湯を使う時は色移りに注意しないといけないこと。使いすぎると肌が乾燥してしまうということ。
しかし、それらを注意しさえすれば、重曹には肌の角質や皮脂を落とす働きがあるので、温泉に入ったような効果が得られるらしい。具体的にはお肌がすべすべになる、くすみを取る、体臭予防など。
三十路の男でも肌のことは気になるし、体臭も気になるし、たまに作るくらいならいい趣味になるかもしれない。
で、だ。
「降谷さんにプレゼントしてもいいだろうか」
降谷さんのお肌のコンディションは完璧だろうし、降谷さんに気になる体臭なんて無いかもしれないが、日頃の感謝というか。こう、何でもない日のプレゼントというか。
いつもお弁当を貰ってるし、お世話になってるし。本当に大したものでは無いけど、感謝を伝えるのは大事だよな、と思うのだ。
体に悪い成分は入っていないし、お風呂にポイと入れれば使えるんだから、そこまで負担にもならないだろう。
「でもなぁ、こんな物より、もっと市販のいいものをプレゼントした方が……でもそれだと気を使わせてしまうし」
僕も降谷さんみたいに『作りすぎたので』なんて言って渡したら受け取ってもらえるだろうか。
悶々。悶々。
「ら、ラッピングしてしまった」
降谷さんのお宅にお邪魔することになった日。僕はすっかり乾燥して固まった入浴剤を持って降谷さんの家の前に来ていた。
プレゼントって緊張するな。
でも、喜んで貰えたら嬉しいし、その姿を想像するだけでも僕も嬉しくなるから、ここは勇気の出しどころだ。
「よし!」
僕はそう気合を入れると、降谷さんの家のインターホンを押した。