【降谷さんのすけべ】 降谷さんはすごい人だ。随分前からそう思っているし、これからもその「凄い」は留まるところを知らないのだろうな、と思う。
僕の考えを読むことなんて、降谷さんにとっては赤子の手をひねるように簡単なことなんだろう。
そう、思うのだが……。
「明らかにおかしい」
朝の車の中、そう独りごちる。妙に降谷さんの勘が当たるのだ。主に僕の欲しいものやしたい事、食べたい物に関して。
この前なんて、家で『ポアロのプリンって固いのかな。食べてみたいな』と呟いたら、その翌日に降谷さんがお弁当と一緒に『ポアロのと同じものだよ』とプリンを持ってきてくれたし、その前はどうしても手に入らなかったヨーコさんの限定グッズに涙を流していたら降谷さんから荷物が届いた。中身は言わずもがなだ。
偶然にしてはピンポイントすぎるしタイミングもよすぎる。
そんな事が十回も続けば、いくら降谷さん相手といえどこれはいよいよおかしい。
という事で、まずは降谷さんに聞いてみる事にした。疑うのは悪いが、怪しいのだから仕方がない。
「降谷さん、もしかして僕の家に盗聴器を仕掛けてません?」
サラッと聞いてみた。今日の夕食は何ですか? のノリでサラッと。すると降谷さんは
「そんなもの、仕掛けるわけがないだろう」
と僕の目を見て真剣に答えた。
……その真剣さが妙に怪しい。
という事で、帰宅後家探しをすることにした。と言っても僕だって警察官で公安部だ。ああいうものはリラックスして独り言が多くなる寝室に仕掛けられていることが多いので、まずは寝室を探すことに。
するとやはりコンセントに見慣れぬ物が増えており、これが盗聴器だろう、とアタリをつける。事を荒立てないためか、盗聴器にはご丁寧に「F」と書いてある。これはどう考えても降谷さんの仕業だろう。
「…………降谷さんのすけベ」
こんなものをしかけて僕の独り言をこっそり聞いていたなんて。
とは言っても、別に聞かれてまずいことは言わないし、一人でしてるのを聞かれるのは少し恥ずかしいが、それを知っていれば逆に燃えるというか……。
これも恋人である降谷さんの重い愛なのだと思うと少し可愛く思えてくるから不思議だ。僕も相当な癖の持ち主なのだろう。
それに欲しいものが手に入ったりと何かと便利な面もある。僕が外してもまた仕掛けられるかもしれないし、降谷さんが自分で外す気になるまではそっとしておいてあげよう。
「あれ、良いな」
盗聴器を発見してから一週間。定期連絡の場に突然仕事とは関係の無い降谷さんの声が落ちて僕の頭にはてなマークが浮かぶ。あれ、とは?
「なんの事ですか?」
「一週間前に君が言ってたじゃないか、『降谷さんのすけべ』って。あれ良いなと思って。凄くグッときたよ」
「はぁ……」
この人、なんで開き直ってるんだろう。もう少し悪びれるとかしないのだろうか。……まあ、良いけど。
「今度最中に言ってみてくれないか?」
「…………やっぱりすけベだ」
後日ちょっとマニアックなことをした時に本当に言ってしまったかどうかは、ご想像におまかせする事にする。