目隠し_A夕刻にランスロットの部屋を訪い寝室へと通されて、もはや逆に趣味の悪いとも思えるほどに豪奢な寝台を示される。
その端に浅く腰かけた私の傍らに膝をついたランスロットが、遠慮がちに目隠しをさせてもらえないか、と切り出してきた。
なるほど、いかな彼とて快くは思っておらぬ私のご面相などが目前にあってはその気にもなり辛かろう。
無論、と頷いた私にほっとした様子で、傍らのサイドテーブルから黒いものを取り上げる。
シルクだろうか、濡れたようなひんやりとした重みのある長い布を目のあたりに二・三周まわされ、後頭部で結ばれた。
私を引き寄せた男が顎を捉えて顔をあげさせ、触れるだけの口づけを落とす。
「シャワーを浴びてくる。
……戻ってきた男を私だとは思わなくていい」
そう耳元で言いおいて彼の気配が私から離れた。
視界もないまま、ひとりぽつねんと座っているとやがてかすかな水音が聞こえてくる。
それは存外すぐに止み、ドアの開く軽い音とともに嗅ぎ慣れぬ香りが漂ってきた。
静かに歩み入って来たらしい男が口は利かぬまま私の肩に手をかけ、膝裏を抱え上げて私を寝台へと引き上げる。
それから、いきなり手足を絡みつかせるようにして口づけてきた。
肌にのせられたばかりなのだろう、華やかで鮮烈な香りに気を取られている間に首筋へ、鎖骨へと生暖かい感触が下りてゆく。
そしてその、知らない香りのむこうに、それでも苛烈な彼の気配があった。
つまりは恨み深いランスロットに肌を許す私への、彼なりの気遣いではあるのだろうが。
ゆっくりと一つ、その香りと共に息を吸い込んで、目隠しを取り去った。
この香りは、おそらく今宵の記憶と深く結びついて、私の中に長くとどまるだろう、と思う。
……罪なことをするものだと思った。
「どこの誰かも分からぬものに身を任せるなど、貴様に凌辱されるより悪い。
……来るがいい、サー・ランスロット。
我が命運を繋いでみせろ」
「これは失礼した」
意外そうに眼を見開いた男が私の片手を掬い上げて指先に口づける。
取られた手はすぐに引き、…それから私の上にのしかかる男の肩を掴んで引き寄せた。