クリスマスローズ_Lアグラヴェインの部屋を訪ねると彼はおらず、小ぶりなブーケだけが書き物机の
上にぽんと置かれていた。
幾重か重なった白い花びらの、縁の辺りだけほの紅く色づいたクリスマスローズのブーケ。
普段部屋に花など置かない男が珍しいなと近づいてみると、青いカードが添えられている。
そこに綴られていたのは、見慣れたガウェインの文字だった。
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愛する我が弟へ
誕生日おめでとう。
サーヴァントになってまで誕生日を祝うなどナンセンスだと笑われるかな?
けれど、貴方が生まれた日の喜びは今も忘れがたくこの胸にあります。
前日まで降り続いていた雪が止み、久しぶりに雲の間から陽光が降り注いだ
きららかな日でした。庭の雪遊びから帰った私に、メイドが
「坊ちゃまは今日、兄君になられたのですよ」と告げ、生れたばかりの貴方の
もとへ連れて行ってくれました。
ベビーベットの中に、守りの宝刀と共に寝かされていた小さな小さな貴方は
本当に愛らしかった。
貴方が誇れる兄になることを、その日私は胸に誓ったのです。
共に王に仕える騎士となり、またサーヴァントとして再会出来たこと、
心から嬉しく思っています。
ガウェイン
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「……突き返すのも大人げなかろう」
いつのまにか私の隣にやってきていたこの部屋の主が、ため息交じりという態で言う。
「誕生日だったのか」
「ああ、……まあ」
「おめでとう。
生まれてきてくれて嬉しいよ」
彼の腰を抱き寄せながらそう告げた。
ふ、と鼻で笑ったアグラヴェインが、
「サーヴァントに意味のあるものとも思えんが……。
まさか貴様に祝われる日が来ようとはな」
その言葉に、ただ笑って返す。
王と道を違えたこと、
彼の兄弟と相争うことになったこと、
人であった彼の命を絶ったこと、
生前の経緯そのすべてについて、私がアグラヴェインに詫びることを、彼は許さなかった。
「貴様が王を裏切ることがあれば、私は再びこの首をかけて貴様を倒す」
「…承知している」
私と彼とでは譲れぬものが決定的に違う。
それは意志や説得で変えられるものではなかった。
この現界においても、承服しかねることがあるならば私は我が魂の叫びに従って王の下を去るだろう。
彼が立ちはだかれば、……私に再び彼が斬れるだろうか。
彼と、つまりは王と袂を分かつ。
そんな日が来なければいい、とただ願う。
黙りこくってしまった私をどう思ってか、アグラヴェインが私の後ろ頭に手をかけた。
少々乱暴に掴み寄せられながら合せた唇の間から薄い舌が滑り込んでくる。
それは情事へと繋がる、甘く滑らかな口づけだった。