鋼青ss「日常の温もり」たいてい賭けをしたときに限って負けるのは俺の方だ。とはいえブルースは俺に対して無茶な要求をしてこないことも分かりきっていた。
「そうだな…今日は…」
ブルースは少し長く考えている。どうせしょうもないことを思いつこうとしているのだ。
しょうもないことではあっても大したことではない。俺は気楽に構えていた。
…ちなみに俺はブルースが負けたら歌を歌わせるつもりだった。ブルースは口笛は吹いても歌は歌わない。ぜひ歌声を聞いてみたかったのに…。
「…俺の椅子になってもらおうか」
は?
俺は耳を疑った。実際に耳をぴくりと動かした。
「どういうことだ?」
「椅子は椅子だ。手始めにそこのベッドに横になれ」
仕方なく俺は言われるままに仰向けになった。
「うつぶせがいい」
「わかった」
ごろんと体を反転させる。
「よし」
声と共に背中に重量感。ずっしり…とまではいかない、それなりの重さ。案外軽い。そして柔らかさと温もりが伝わる。
けれど俺はただ背中でそれを感じるだけで、何もできない。妙な感じだ。
口笛が聞こえてきた。どうやらブルースは機嫌が良いらしい。音頭をとっているつもりなのか背中を一定のリズムで優しく叩いてくる。
そのせいか俺はだんだん眠くなってきた。
まどろみの中、おかしな歌を聴いた。
「メタルのメ~は目薬のメ~♪」
「メタルのタ~はタマネギのタ~♪」
「メタルのル~は涙腺のル~♪」
優しく呟くような低い歌声が心地よくて
俺はいつのまにか眠ってしまった。