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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2016-04-11/志純氏もういっちょ

    ##笹野周辺

    狭い世間の容赦なさ シズのノロケを聞かされまくってから数ヶ月。そろそろだろうなとは思っていたが、遂にシズからの呼び出しを食らって再び仕事帰りの居酒屋の一席に私は座っている。呼び出した張本人は遅れているようで、私は暇を持て余しビール片手に文庫本を広げていた。この後の展開を考えれば上滑りする文字情報。仕方がないから本を読んでいる振りをして周りの喧噪に耳を傾け知らない人間の愉快な日常の話を盗み聞きしていたその時だった。
    「待ったか?」
     ひょろりと長い正統派イケメンとその隣に彼よりも少しだけ背の低いがっしりとした何となく見覚えのある男性の姿。その姿を確認すれば、イケメンに「待ったよ」とだけ言葉を投げかけ文庫本を閉じる。
    「じゃぁ紹介しよう、彼が靖海さん。こっちはリツ」
     シズは向かいの席に座りながら同じようにシズの隣に座ろうとしている隣の男性の名を言い放ち、彼には私の名を教える。その名とその姿は、見覚えのある、どころではない知り合いで。
    「……ヤスミちゃん?」
     思わず普段呼びなれているその呼び方で彼を呼べば、彼もまた驚いた様子で「え、さっちゃん?」と彼の呼びなれた呼び方で私を呼ぶ。
    「えっ、靖海さんとリツって知り合い?」
     この状況を理解していないシズだけが珍しく表情に疑問を浮かべ、私とヤスミちゃん二人に問いかける。
    「とりあえず、シズは黙ってろ。ヤスミちゃん、もしかして前に話してた猛アタックしてきたサイコ野郎ってこいつの事?」
     ヤスミちゃんも混乱しているのか、首を縦に振るだけの肯定。私もそれに頷き、ヤスミちゃんの混乱を解こうと説明する。「シズ、あー志純は物心つく前からの幼馴染み。公園デビューが同日同所だった腐れ縁で何故かシズに彼氏が出来る度紹介される程度の仲で……ヤスミちゃん、大丈夫?」
     理解を確認すれば、「ああ、幼馴染みに紹介するとは言われたから。まさかさっちゃんだったとはな」との返事。シズはやっと事前報告を学習したようだ。
    「世間って狭いな。昔何度も世界を救った仲のリツと靖海さんが知り合いだったとか」
    「シズお前言い方。ヒーローごっこの話だから! で、私とヤスミちゃんはよく行く飲み屋の常連仲間。何度か介抱されてて……いやコレはまぁ置いといて」
    「そこ置くな!戻せ戻せ、靖海さんに介抱されるとか俺もされたことないのに!!」
     口を滑らせた所でシズの指摘。

    「いやだってヤスミちゃんワクなんだよ、いやぁ、話が弾むと酒も進む進む」
     そう弁解しておけば、ヤスミちゃんはヤスミちゃんで「割と禄でもない男の話だけどな」と相槌を打ってくる。
    「禄でもない男の話!? 何それ靖海さんの「いや、さっちゃんの」
     この空気に慣れてきたのか、ヤスミちゃんも割と口を滑らせてくれる。やめろ。なんだこの私が針のムシロ状態は。
     いつの間にか届き目の前に並んでいる各々のグラスに三者三様口を付ければそりゃぁもう私そんな話した?しましたねそう言えば。な私の黒歴史が通り過ぎていく。
    「靖海さんにはあんな事もそんなことも話すのに俺には話してくれねーんだ。へー」
     一通りの話を聞いたシズがわざとらしくイジケて見せる横で、靖海さんはそもそもシズにも話していたと思っていたらしく、まずかったか?みたいな視線で私を見てくる。そら、まずいかまずくないかで言えば完全にまずかったわ。
    「いや、シズお前会う度に自分のノロケ話延々と話続けるべや」
     そう指摘してやれば、「よしわかった。今度リツの話を聞く日を作ろう」なんて斜め上の返答。
    「作るな」
    「いやーだってリツがあんな男やそんな男はたまたびっくり女と付き合ってたなんて思っても見なかったしな。リツの事だから面白オカシく話してくれるんだろ?」
    「オガとかヤギちゃんにも話してねぇっつーのに」
    「あ、あそこ等辺とまだ付き合いあったんだ。懐かしいな、元気?」
    「割と、あ、ヤスミちゃん置いてけぼりごめん。オガとヤギちゃんってのもシズと共通の知り合いで、シズはそいつらと小学までは一緒だったんだよ。こいつ中高一貫の男子校行ったから。私らは学区の公立中進学で」
     人名が増えた所で、ヤスミちゃんに注釈を入れれば「いや、俺も何かすまん」と決まり悪そうにヤスミちゃんは頭を掻く。
    「最初に口滑らした私の自業自得だからヤスミちゃんは気にしなくていいよ。こいつ自分が面白そうと認定したら食いついて離さねーんだ。スッポン並」
     そう言えば、数ヶ月でそれを解ったのだろうヤスミちゃんもなるほど。と頷く。
    「スッポンだなんてヒドいな。雷が鳴っても離さないよ!」
    「余計タチ悪いわ」
     そう言ってやれば、「っていうか、靖海さんとリツが知り合いなら、もう今日はリツの話を聞く日って事でまずはヤリチン君の話から聞こうか」と返される。
     きっと今夜も長くなるのだろう。
     私はグラスの中身を一気に呷り、次の酒を注文すれば、タバコに火をつけ何年も前の春の記憶を掘り起こした。


    ——————————————————


    志純くんには勝てない系笹野。
    (2016-04-11)
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