空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:08 シングルサイズの二段ベッド下段、それがこの学校で汐見へと与えられた寝床である。一応プライベートを保つという名目なのだろう、上段に打ち付けられたカーテンレールには重そうな布地で作られたカーテンがぶら下げられていた。そのカーテンは幾度かその役目を果たしていたが、すぐに使われることはなくなっていた。
汐見がこの学校に入学してから一年以上を経た今日も、ベッドの周囲を覆うカーテンは使われていない。
「……暑苦しい」
不服そうに漏らされた汐見の声に、彼を背後から抱きすくめる空閑は小さく笑い声を漏らす。
「でも、アマネ俺とくっついてるの好きじゃん」
汐見の首筋に鼻先を埋めながらそう口にする空閑は、彼の項へ唇を落とし小さく吸い付いて。しかしその行為はどこか性の予感とは別の所にあって、汐見は空閑の好きなようにさせていた。
互いの欲を発散するという名目だった筈の同衾は、いつしか欲の発散を伴わない日でも行われるようになっていて。汐見に与えられた寝床であった筈の場所に、空閑は毎日のように潜り込んできていたのだ。そして汐見もいつしかこの状態に慣れきってしまっていた。
「……嫌ではないんだが、単純に狭い。一九〇超えの男と一八五ある男がシングルベッドで一緒に寝るなんて想定してないだろ」
――結局のところ何だかんだ言っても自分はすっかりこの状態に慣れてしまっているし、不思議とこの男の腕の中に収められるのは心地がいいのだが――いかんせんベッド自体が狭いのだ。
細身ながらも長身である汐見が一人で寝ていても多少手狭に感じるベッドに、汐見よりも体格のいい空閑が潜り込んでくるとなると満員どころの話ではない。二人でピッタリくっついてようやくその身体が収まるようなサイズのベッドで、今夜も汐見は空閑の抱き枕にされている。
「二段ベッドじゃなくて、大きなサイズのベッド一台置いてくれるだけでいいのにねぇ」
「こんな使い方してるなんて、学校も思ってないだろ」
言うに事欠いてベッドサイズへの不満を口にした空閑に、汐見は呆れ混じりに言葉を返して体を捩る。薄暗がりの中、汐見の視界には人好きのする笑みを浮かべた空閑が映されていた。
ふむ、と一呼吸分思案した汐見は空閑の唇へ自分のそれを軽く押し当ててみる。驚いたように瞳を見開いた空閑の表情が可笑しくて、何度か同じように触れるだけの口付けを空閑へと与えていく。
――やっぱり、嫌ではないんだよな。
その感情の根源がわからないままに空閑の瞳へと視線を向けた汐見は、自身の行為が軽率なものだったと気付く。先程までは驚いたように見開かれた瞳には、情欲の火が揺らぎ始めていたのだ。
「誘ってるなら、言ってくれればいいのに」
「待てちが……っ、ふ……ぅん、」
先程の戯れるように触れただけのそれとは根本的に異なる、喰らいつくような深い接吻を受けた汐見はゆっくりと瞼を下ろす。
この口付けが――そしてその後に行われるのだろう行為が汐見にとっても心地よく、気持ちのいいものだという事を既に知ってしまっているのだから。