空閑汐♂デイリー【Memories】02 冬入学と呼ばれる秋口から始められた授業も、ようやく一年目の折り返しと共に春が訪れる。二十人しか居ない同期達の中にも連帯感が生まれ始めた頃、学生達の端末に配信された順位表に声を上げたのはリュカ・シャルパンティエで。
「うわ、シオお前また実技一位かよ」
げぇ、というわざとらしい声と共に投げられた言葉に「上位にならないと課外の飛行訓練参加できないだろ」と汐見は眉を寄せる。
「課外飛行したいってだけで上位掻っ攫ってくのヤバいだろ」
「アマネだからねぇ」
汐見とシャルパンティエのやりとりにのんびりと口を挟むのは空閑、そんな空閑に続くようにフォスターも頷いた。
「大胆かつ繊細な操縦はいつ見ても惚れ惚れするぞ、そろそろジェット練習機に移行するんじゃないか? 教官が扱き甲斐があると言っていたな」
航宙士学院の授業は基本的に内部進学者が自家用航空機ライセンスを取得している前提で進められ、若干名の外部入学者がその第一段階となるライセンスの取得に奮戦する横で課外で行われる飛行訓練で曲芸飛行をしているのが汐見である。
「座学はクガが強いよな、日本校からの進学ってお前らだけだけど、一体どんな訓練受けてきたんだよ」
「カリキュラムは全校共通だろ」
ため息混じりにシャルパンティエから溢された言葉には、汐見も肩を竦めるしかない。
「ていうか、シオってゼロファイターの末裔とかな訳? そっちの方がまだ納得できるわ」
「何世紀前の話だよ、特にそんな話を聞いたことはない」
「まぁ、侍っぽい所はあるよね。剣道部だったし」
面白がる調子で溢す空閑の言葉に、シャルパンティエが色めき立つ。フォスターも驚いたように汐見へと視線を向けた。
「空飛ぶサムライとか最強じゃねぇか!」
「侍だった事は一度もないが!?」
両手の拳を天へと突き上げるシャルパンティエに思わず声を荒げる汐見の姿を面白くて仕方がないと言うように、空閑は自身の端末画面をフォスターへと見せる。
「という事で、これがアマネが出てる試合の映像。赤いの付けてる方がアマネなんだ」
「……これはサムライそのものじゃないか?」
フォスターのしみじみとした言葉に、汐見は遂に降参とでも言うように両手を上げた。
「もう好きにしてくれ」