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    amarinimocawaii

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    amarinimocawaii

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    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16167180の続きのつもりで書いてたんですが、結構な量書いてやっぱりなんか違うとなりましたのでここに供養します。悪霊ネタだし正しく供養だよね!(?)
    本当に途中で諦めてます。ユルシテ


    注意
    🦈が一番の被害者。
    なにもかんがえないでほしい。
    誤字脱字の確認を怠っております。

    めぐりのしゅうねん「おい新人! 二番テーブルのオーダー取ってきてくれ!」
    「ランチセットB、メインがオムライス、ドリンク、デザートともに食後提供でアイスティーとモンブランです」
    「お、おう、サンキュ」
    「ジェイド、手が空いたらでいいから八番テーブル片してきてくれないか」
    「オーダーついでに下げてきました。次のお客様をお通ししても問題はないと思いますが、確認をお願いします」
    「マジか、助かる」
    「ジェイドさん、その、支配人に用があるという方が……」
    「あちらの方ですか? …………わかりました。僕がご案内します」
    「なあフロイド、あれホントに兄弟じゃないの?」
    「ちげーーーっつってんだろ! んなこと言ってる暇あんならパスタ持ってって! 三番テーブル茶髪のポニテ!」
     
     週末昼時のランチメニューを提供するカフェはもはや戦争だ。厨房内で多少怒号が響いたところで防音が完璧な調理室とホールのガヤつきで相殺されてしまう。そこに現れたやけに聞き分けがよくて、やけに気が利いて、やけに背が高くて、やけに綺麗な顔で、やけに厨房担当のフロイドに似ていて、やけにアズールに信頼されていて、やけに、やけに、やけに……そんなやけにがよく纏わりついてくる期待の新人・ジェイドはこれまたやけによく働いた。オーナーたるアズールとその幼馴染のフロイド、その他バイトの学生たちと変わらない見た目をしているにも関わらず昼も夜も平日も週末も祝日も……労働基準に抵触しない程度に、しかし一介の学生には出来ないであろうシフトの入り方をしている。それとなく聞いてみれば本当か嘘かわからない言葉ではぐらかされ、ただのフリーターだと言い張られ、しかし、これまでフロイド含め数名の人間にしか任せられることのなかった、売上集計や「お話」のある客を奥に通すなどの重要な仕事も任せられている。お前のようなフリーターがいるかと詰めてみれば「オーナーには逆らえないので」となんともしおらしく言うもんだから皆一様に「あー、そっかぁ……お前も大変だなぁ」と憐憫の眼差し。こうしてジェイドは「素性は一切不明だがとても苦労している謎の新人」という位置を確立し、その後の追及を逃れることに成功した。
     

     
     
     
     オートロック完備の高層マンション、アズールの借りている部屋に遊びにきたフロイドは(強引に借り受けた)サブのカードキーでロックを解除し、入室するとソファに仰向けに寝転ぶアズールに、自分によく似た期待の謎の新人・ジェイドが跨ってアズールの口をべっちょべちょに吸い回している。あまりの恐怖映像に「ひぃっ」と引き攣った悲鳴が出る。その瞬間、自分と鏡合わせのヘテロクロミアと目が合う。もうダメだ、終わりだ、オレは殺される。
     
    「おや……こんばんは」
    「ハイ、コンバンハ」
    「アズール、ほら、お友達ですよ、ねえ」
    「ア、エット、カエリマス」
    「そんなお気になさらず、せっかくいらっしゃったのですから」
    「イエ、オカマイナク」
     
     人生で一度も使ったことないような他人の家に訪問した人間然とした態度のフロイドにもどこ吹く風で「お茶を用意しますので掛けてお待ちください」と、口周りのテラつく唾液に目を瞑れば完璧な所作で急な来訪者を迎えるジェイドはその横を通り過ぎキッチンへ引っ込む。逃げるタイミングを見失ったフロイドは仕方なく寝そべるアズールの対面側のソファに座り居心地悪そうにそわそわしてしまう。アズールは本当によく眠っていて、別に眠らされているわけでも乱暴をされているわけでもないようで安心するが、その次にフロイドを襲った不安は「こいつ自分と同じ顔の男を囲ってんだな」という複雑極まりない感情で、出会って十と数年のけして短くはない友情にヒビが入る音が聞こえた。
     
    「お待たせしました。……アズールがなかなか起きなくて申し訳ございません」
    「いや、なんでアンタが謝るんだよ」
    「一応飼い主なので」
     
     飼い主。またもや幼馴染のディープな性癖を覗いてしまった気がする。もしかして自分があんまりにも奔放すぎて、そのフラストレーションをよく似た他人にぶつけているのではないのだろうか。人生で一度もしてこなかった己の身の振り方を思わず顧みてしまう。騒ぎはしないがあまりの出来事に追い詰められて、気を落ち着かせようと出された紅茶を一口含む。ベルガモットとフルーツの香りが口いっぱいに広がる。店で提供しているもののどれにも当てはまらない、しかし初めて飲んだとは思えないほど飲み慣れた、好みの味。
     バチリと弾く音が脳内に響く。
     
    「……ジェイド」
    「はい、ジェイドです。フロイド先輩……いえ、フロイド」
    「は、え……ジェイド……」
     
     全てを思い出した。楽しかった思い出も、辛くて痛くて憎い記憶も、置いてきてしまった片割れのことも。
     
    「…………いやまてよ、お前なんでオレと兄弟じゃないの!?」
    「え、そこですか?」
     
     二人は、とても仲の良い双子のウツボの人魚であった。幼馴染のタコの人魚と一緒にイタズラをしながら楽しく海を生きていたが、ジェイドが密猟者に捕らえられたことが双子の悲劇の始まりだった。目の前で網に囚われたジェイドを助けようとしたフロイドも纏めて捕まり、その後は抵抗する二人に暴力と、そして、幼くも美しい顔立ちに魅了された男達に辱めらた。その果てに衰弱し死んでしまったフロイド、生き残ったは良いものの生物を取り扱う違法オークションにかけられ、美しく神秘的で魔に満ちた身体を余すことなく、生きたまま細かくわけられ売られてしまったジェイド。十を迎えるか迎えないかの子供が味わうには凄惨過ぎる最期がこの二人の、いや、フロイドの前世であった。とても仲のいい兄弟だから、当然のようにまた兄弟として生まれるものと思ったが現実は違った。ジェイドは大切な片割れを死なせた人間たちと、そしてその原因をつくった自分がどうしたって許せなくて、殴られても、犯されても、死んでも憎み続けて、その果てとして悪霊の道を辿ってしまっていた。生まれ変わることのできたフロイドと、死にきれなかったジェイド、仲のよかったはずの兄弟はあまりにも遠くなってしまっていた。
     
    「……じゃあジェイドは、まだ復讐を」
    「や、それははじめの一年ぐらいで終わったのでいいんですけど」
    「そうだこいつ仕事が早いんだった」
     
     沈む心にアホほど浮き袋を投げつけてくるジェイドにイマイチ感傷にすら浸れないフロイドはため息を吐く。じゃあなんだ、こいつ、復讐は終わったからその後は娯楽で悪霊やってたのか。最悪がすぎる。さすがジェイド。
     
    「復讐が終わったことに気づくまでなんというか……ヤンチャというか……暴走してたので……我に帰ったときには自分の十周忌を三回ほど迎えていた頃でして、今からあなたを追いかけても間に合わないと思ったので……ならこのままつまみ食いしながら待ってましょうと」
    「可愛く言うなよこのドスケベ変態悪霊人魚」
    「ああっ、ひどい」
     
     嘘はない、本当に憎き心だけで三十年、関係も無関係もなく人間を殺し続けて、気づいた頃には感慨もなくすべてが終わっていて、後に残ったのは戻れなくなるほど汚れた魂と、未だ己を許せそうにない気持ち。「次」を諦めるには十分だった。あるのはただ存在をどうにかこの世に繋ぎ止めるだけの食欲に似た本能で、それを満たすには散々自分が苦しめられたあの下劣極まりない行為しかない。そうしていつしか呪いの動画として人々に移りわたり一方的な恐怖と死を与える存在から、死なない程度に搾取し、細々と存在を固定するだけのつまらない復讐の残り香になっていた。
     
    「ま、いいんじゃない? アズールにまた会えたんだし」
    「……なんですか、その言い方」
    「だってジェイド、アズールのこと大好きだったじゃん。そもそも捕まったのだって……」
    「フロイド、滅多なことを言わないでください」
    「……別にアズールのせいって言いたいわけじゃないし」
    「僕がなんだって」
     
     寝入ったまま起きないアズールに油断して、余計なことを話し込んだとジェイドは息を呑んだ。反応に遅れたジェイドを逃さないとでも言うように冷たい腕を握りしめる寝起きの手のひらが熱い。
     
    「フロイド、待たせてすみません。……ですが今日は帰ってくれ」
    「…………んっふふ、わかったわかった。この際だからぜーんぶゲロッちまえよジェイド。もう逃げらんないって。じゃーねぇ」
    「あっ、まってくださいフロイド!」
     
     笑いながら心底愉快そうに立ち上がったフロイドは、理不尽に追い出された者とは思えないほど軽やかに部屋を出ていく。ピッと軽い機械音とその後のガチャリという施錠音で、この部屋にアズールと二人っきりになってしまったことにもうあるはずもない心臓が激しく脈打つ心地だ。
     
    「……まず、どこから聞いてましたか」
    「はじめからです」
    「はじめとは……」
    「お前が僕の口を舐め回しているあたりですね」
    「本当にはじめだ……」
     
     なんとも見事な狸寝入りに拍手を送りたいが腕が掴まれている今それもままならない。己の浅慮により捕まり殺され、復讐心から理性もなく彷徨う話も聞かれて、もう死に絶えていたと思っていたプライドが蘇ってズタズタにされる幻聴が耳に響く。
     
    「お前はなぜ、捕まったのですか」
    「……浅瀬に、貝を獲りに」
    「何故その貝が欲しかったのですか」
    「とても、美味しいそうなので」
    「……レトログラード」
    「アズール、あなたまさか」
    「ええ、思い出しましたよ。まったく、その貝を探しに行って捕まるなんて……本当にバカだ」
     
     レトログラード、逆行を意味する貝はその名の通り物質を逆行させる力を持つ。魔法薬、魔法道具を作成する際に劣化の早い素材の品質を保つために混ぜ込まれたり、そういった素材を輸送する際の保護魔法の触媒にもなる貝で、深海ではなく浅瀬に生息するので深海では時折やってくる行商人か自力で危険を冒して獲りにいくしかない。ジェイドはアズールの誕生日プレゼントにぴったりだと、フロイドとともに採りに出かけ、そうして戻ってこなかった。
     
    「僕が、魔法の研究のために欲しいと言ったからでしょう」
    「いえ、そんなことは、ただの僕の、好奇心で……」
    「はぐらかすな。お前達がいなくなった後僕が……」
    「…………そういえば、なぜ、アズールが今この時代にフロイドと同い年なんですか? 人魚なら寿命にはまだ……」
    「間も無く僕も死んだからですよ」
    「え……」
    「情けない話ですよ、魔法に失敗してオーバーブロットするまでもなく魔力が尽きて死にました」
    「そんな……それは……僕のせい」
    「いいえ、それはない。僕が使いたかった魔法は触媒が揃っていようがいまいが僕に扱えるものではなかった」
     
     自嘲するアズールにジェイドはもともと青白い顔が更に色を失う。アズールは詳細こそ話さないがジェイドがプレゼントしたかったレトログラードが原因だという確証があった。そんな絶望に染まる顔に消えるのではないかという錯覚に、アズールはつかんでいた手の力を更に込めた。
     
    「バカですよね、僕たち。すれ違いあって死んで、そうしてまたこうして出会ってるんですから」

     衰弱死して魔力を失い、海に捨てられたフロイドの遺体が深海に辿り着いた時、アズールは悔やみ、そして未だ見つからぬジェイドを諦めた。そしてせめてフロイドだけでも、と研究途中の逆行の魔法を使った。物質逆行は緩やかに、物の劣化を遅らせるからこそ弊害なく使えるが、死んだものを生きていた頃に逆行させることは禁忌であり、成功例もない。自らの命を投げ打つ無謀な行為を行い、そうして例に漏れずアズールも絶命してしまった。なんともあっけなく、愚かしい最期に頭を痛めたがそれ以上に、今目の前にある虚ろな存在を手離すわけにはいかないと己を叱咤する。
     
    「バカです、あなた、ほんとうに……」
    「ええ、僕たちみんなバカです」
    「……ほんとうに……ほんとうに……」
    「それで、危険だと分かっていながら貝を獲りに行った理由を教えていただいても?」
    「へ!? は、だ、から……プレゼントにって……」
    「ほんとうにそれだけですか?」
    「……」
    「たかだか誕生日のプレゼントにしては、命を懸けすぎだと思いますが」
    「……気づいて、いるのでしょう」
    「でも、こういうのは本人の口から聞きたいものですよ」
    「う、あ……」
     
     恥じらいに口が重くなる。しかし三十年と少し、そしてもう巡ることのないと思っていた心に終わりを与えるために、青白い命の宿らない唇を動かした。
     
     
     
     
     
    「おはよ〜、昨日はお楽しみってやつ?」
    「ばか」
    「お」
    「あほ」
    「おお」
    「みずくらげ」
    「ジェイドの語彙力が死んでる……」
     
     開店準備のために嫌な早起きもして、欠伸混じりに出勤すると、自分とよく似た後ろ姿をみつけやっぱりいたと飛びついてやると、なんてことない普段の笑顔で頭が起動していないような罵倒の羅列を頂戴する。
     
    「いやいや、なんでオレこんな恨みがましい目を向けられてんの?」
    「ばぁか」
    「ア、今のそれすげぇオレっぽくてすっげ〜ムカついた」
    「朝から暴れないでくださいよ」
     
    「同伴出勤〜」と揶揄うとアズールがやれやれと眼鏡を押し上げジェイドがフロイドの無防備な脇腹を小突く。痛くもないが様式美として「いてぇな」と言ってやると多少は溜飲が下がったのか、ちょっと得意げにするジェイドと目が合う。
     
    「んで、昨日はどうだったの」
    「死ぬかと思いました」
    「死ぬも何も死んでんじゃん」
    「悪霊ジョークです」
    「洒落にならねぇんだわ」
    「おかげさまで、あの手この手で洗いざらい聞き出してやりました」
    「あの手この手……うわ、なんか……アズールやらしい」
    「なんでだよ」
    「実際いやらしいことをされました」
    「お楽しみじゃん」

     面倒臭い二人がなんだか収まるべきところに収まってくれた気がする。あんまりにも遠回りで、ひどい茶番も入ってきたが、概ね自分が望んだ形になってくれたことにフロイドは安堵する。
     
    「フロイド」
    「なに?」

     耳元でごめんなさいと少し辿々しく告げられる。迷子の稚魚のような目でやっと出た謝罪の言葉に大きいため息が転がり落ちてしまう。びくりと震えるジェイドの肩を一瞥してからその小さく見える頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
     
    「うっ、わ!」
    「そーいうときはぁー、ありがとうなの!」
    「ア、アリガトウ?」
    「そうそう」
    「いつまでジャレついてるんですか」
     
       
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