アロルクワンライ 居場所 久しぶりに帰ってきた自宅に足を踏み入れた瞬間、ひどい違和感が纏わりついた。
この家に戻るのは、確かに久しぶりだけれど、クリスマスのあの日から何一つ変わっていない筈だ。けれど、何もかもが色褪せて見える。
古びた写真立ての中に家族二人映る姿なんて、わるいゆめでも見ているみたいに頭がぐらりと揺れる。
父さんが死んだと知らされた日だって、この家はいつだって暖かく僕を迎えてくれた。
たくさん泣いた。どうしようもなく辛かった。この場所に父さんが帰ってくることがないと、信じたくなかった。
でも、この家に来てから、父さんと過ごすようになってから、たくさんのあまいしあわせで象られた思い出のひとつひとつが僕を支えてくれたんだ。この場所が、僕の「居場所」だと、信じられた。
だけど、今は何もかもがひどく冷たい空虚さにあふれて見えて、そこから一歩も動けなくなる。乾いた空気の中に、どろりとした汚泥が沈み込んで固まったような感覚に吐き気がした。
この場所は、僕の「居場所」じゃなかった。
足を踏み入れた瞬間、強く覚えた違和感の正体に、口の中が変に酸っぱくなって、ごくり、と喉を鳴らした瞬間。
「おい、どうした」
怪訝そうな声が耳に届いて、ふっと緊張がほどけていく。低いけれど聞き取りやすい、耳に馴染む相棒の声は、容易く『僕』を呼び戻した。じわりと目の奥が熱くなる。
大丈夫、大丈夫だ。
「……ごめん、何でもないんだ。入ってくれ。自分の家だと思ってくつろいでくれていいから」
殊更明るい声で、僕のすぐ後ろにいたアーロンを促した。
僕はきちんと笑えたと思うし、何の問題もなかったはずなのに。
「うわっ」
突然首根っこを引っ掴んで、入ろうとした家から引きずり出される。たたらを踏んで事なきを得たけど、転ぶかと思った!
「ちょっと待てアーロン、いったい何のつもりだ!」
「何のつもりだ? そりゃこっちのセリフだ」
「いやいや、何の話だ?」
突然、怒気をあらわにした相棒を前に首をかしげる。宿を取るというアーロンを半ば無理やり引きずるように連れてきたけど、別に嫌がる様子はなかった。ついさっきまでの彼は、うちに来ることに関して乗り気ではなかったのは確かだ。でも、こんな風に怒りを見せるほどじゃない。さすがにそれなら、僕だって無理やり引きずってきたりしない。
「どうしたのか聞いてんだ。シカトしてんじゃねえよ」
「え……」
「なんかあんだろ。さっさと吐けや」
脅しをかけるような声音の奥に、滲んだ感情を見つけてしまった。
「あ、はは……参ったなあ」
「それもこっちのセリフだわ……んな、似合わねえツラしてんな、クソが」