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    じれったいお題ったーより
    『こんなにも、触れたい』

    わざわざてきすとらいぶに年齢制限かけたのに
    えっちなとこまで辿り着けなかった。無念。
    そのうち続きかきたいですね~。

    #ジョーチェリ
    giocelli

     ――ずっと、会っていない。

     店に来ない日がこんなに続くのは久しぶりのことだ。元々、取り立ててお互い連絡を取りあうようなことはしないから、皮肉げな声もしばらく聴いてない。
     常連、と言っていい頻度で店へ通い詰める薫が、数日顔を見せないことはよくある。けれど、もう一カ月だ。こんなに長い間足を運ばないことはほとんどなかった。例えば内地で個展を開くとか、そういった何か特別な時でもなければ考えられない。その程度には、胃袋を掴んでいると自負している。
     そういった事柄があれば、しばらく会えないことを告げる代わりにさりげなく会話に織り交ぜられるはずで、それさえないことが気になった。

     ――もし、今日も来なければ。
     
     ちらりと、スマホに目を向ける。一応、連絡先を全く知らないというわけじゃない。
     学生時代から変わらない電話番号くらいしか、当てがないだけで。
     電話をするのは、思いのほかハードルが高い。メールだって最近はしない、SNSでIDを伝え合う希薄な関係だけで充分人付き合いは賄えた。仕事用にもプライベートでもSNSを使っていることは知っているんだから、こんなことなら薫が眠っている間に、AIに自分のIDを伝えておけばよかった。主人に必要だと判断すれば、つながりを勝手に断つことはないはずだ。
     カーラは賢いし優しいんだ、と嘯く姿が思い浮かぶ。
     起きてから眠るまでの間ずっと管理されているような生活の何が楽しいのか、いつだって嬉しそうに機械の指示を受けているところだけはさっぱり理解できない。なんなら眠った後だって管理されている節がある。眠る間の室内における室温や湿度の調節はもとより、普段と少しでもバイタルサインが変わるだけで翌朝メディカルチェックを余儀なくされるような生活、俺なら絶対にごめんだ。
     とはいえ、スケジュールのチェックにも余念がないAIだから、あれとつなぎを取っておけばこういう時にわざわざ電話なんていう手段をとらなくていい。まあ、今となってはあまり意味のない話だ。

     ――そして、閉店時間が訪れた。

     レジ締め作業を終えて、ついでに帳簿をつけた。レジとPCは連動しているから、大して手間のかかる作業じゃない。それでも事務作業はどちらかと言えば苦手な方で、終わると少しほっとした。軽く首や肩をほぐすように回すと、思ったより身体が凝り固まっていることに気付く。
     ジムに行くほどの時間はないな、とぼんやり考えながらゆるくできるストレッチを上半身だけ簡単にこなして軽く筋肉に刺激を与えた。後は、家に戻ってからだ。
    「……やっぱり、今日も来なかったか」
     口にしてしまえば、誰も居ない店内にどこか情けない声が響いた。その声音に舌打ちしたいような気分で、代わりに溜息を零す。
     たった一月、会えないだけでこれか。
     互いに長く知っていて、友人……というより、悪友か……として過ごした時間は人生の半分以上を占めている。そんな俺たちの間で、明確な言葉を持たないまま始まった関係があった。
     口付けて、抱きしめて、触れ合うことが許された日から、割と浮かれている自分には気付いていた。けれど、あまり意識しないようにしていたから、余計にきついのかもしれない。
     声を聴くより、会いたい。こんなにも、触れたい。
    「……薫」



     ――ああ、面倒なことになった。

     マネジメントを任せてる会社が受けてしまった、まさかのトリプルブッキング。
     頭をさげればいいと思ってる担当者を相手に皮肉も出ないほど多忙を極めている。
     案件としてはどちらにも優劣が付けられず、そもそも一度引き受けた仕事を放り出すのは矜持が許さなかった。
     自由がきく仕事を選んだのは、こういう時間の縛られ方をしないためだったのに、その辺のサラリーマンよりよほど忙しく立ち回ることに不平しかない。
     それでもカーラのサポートがあり、どうにか仕事はどちらも恙なくといっていい形で終わりを迎えそうなのだけれど。

     ――今日も、無理だな。

     マネジメントは他に切り替えることにした。
     カーラの提案を受けて、いくつかのアポイントを取り担当と話しては持ち帰って吟味する。
     カーラに任せてもいいんだろうが、彼女にこんな些末なことまでさせてしまうのは申し訳ない気がしたし、凡百で必要を満たせるような事柄は、ヒトがすればいい。
     削られる時間を気にしないわけじゃないが、今だけのことだ。
     カーラの采配で様々に打ち合わせを重ねて、ようやくある程度は実績とプランに満足できる相手と巡り合えた。
     契約を締結したところで、人心地つく。

     ――やっぱり、無理か。

     時計を見れば、短針が指し示している時間はとっくに虎次郎の店の閉店時間を過ぎている。
     能天気なゴリラの顔が頭を掠めて、その事実に苛立ちが募った。
     ……なんであいつを思い出さなきゃならないんだ。
     まるで依存してでもいるような自分自身の反応を苦々しく思うけれど、掠めた影はこびりついたように離れない。
     もう誰もいやしない。そうわかっていたのに足を向けたのは、どうしてなのか自分でもわからなかった。
     たどり着いた場所に、あかりが灯っていることに戸惑いながらそっとドアを押す。少し傾いだ音を立てて、自分を招き入れるように扉は開いた、その時――。
    「薫」
     自分の名前を呼ぶ熱を帯びた声が耳に届いて、身体の芯に熱が灯った。
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