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    kemuri

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    メデューサの瞳に乾杯/フロリド

    騒々しい店内。オレ達はパーテーションもろくに無い飲み屋のテーブル席にいる。自身の手にはビール、目の前には肉を焼いて薬味を山盛りにした大雑把なツマミが大皿で置かれていた。一切れ取って口に運びつつちらと正面を見ると、いつも以上にニコニコして顔を赤らめている金魚ちゃんが小さな口にグラスをちびちびと運びながらこちらを見ていた。
    卒業後も案外交流が続いていて、たまにこうして食事にも行けるようになっていた。成長したのか態度も柔らかくなっていてオレが構ってもいちいち声を荒げるようにはならなくなっていた。いや、そもそも自分が構うときに怒らない程度のところまでで加減するようになったからというのもある。オレだって成長したのだから。まあ真っ赤になるほど怒ったほうが面白いのだけれども。
    今日は金魚ちゃんの行きつけだ、というので連れてきてもらった店だった。こんな賑やかなところにいつの間に一人で行けてしまうようになったのか、それとも誰かと来ていたのだろうか、とモヤモヤしながらビールを煽り肉をつまみ新しくカクテルを注文していた。目の前の肉の大皿は金魚ちゃんが頼んだというのに自分は一切口をつけず、別で頼んだ小さなサラダとチーズの小盛り合わせで一杯のワインをゆっくりと飲んでいる。
    「……もっと食べたら?」
    「ボクはこれでじゅうぶんだよ」
    「十分なわけ無いでしょ、ホラひと切れ食べな」
    「……キミがそう言うのなら」
    取皿にひと切れ、おまけにもうひと切れ乗せて渡す。口を尖らせて何か言いたげではあったが素知らぬ顔で自分のグラスを傾けた。
    彼と酒を飲むのもこれが初めてというわけではない。最初に誘ったのはオレの方で、それから数回交互に店を決めて飲みに行った。
    何回か一緒に飲んで気付いたことは、金魚ちゃんはお酒に弱くはないけれど強いという程でもないということだった。顔もすぐ赤くなるし、寝るほどでもないがとろんとした目つきになって言葉も少し辿々しい。出来ることなら他人にこんな状態の金魚ちゃんを見せたくないな、と思うが現状はただの元同級生なだけでしかない。
    そんなもやもやをこちらは抱えているというのに、さらにトドメでお酒を飲んだ金魚ちゃんは暇さえあればオレをジッと見つめてくるようになるのだった。
    「……何かついてる?」
    「ううん、なんにも」
    ひと切れだけ口に入れて咀嚼して飲み込んで、そしたらまたこちらを見る。
    そんなに見つめられたらモヤモヤどころかドキドキしてしまう。こうなると下手に緊張して喋る言葉も思いつかないし、金魚ちゃんも喋らないまま見ているしで静かなテーブルになっている。
    オレをこんなに動けなくさせるのは酒飲んでる時の金魚ちゃんくらいだよ。
    そんなことを思い、見つめ返しながらカクテルで唇を湿らせる。
    脈があると勘違いしていいのだろうか。次に飲みに誘う時はオレの家にしよう、そう決めたのだった。
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