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    310to

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    書きかけの蜘蛛32AUです。「幸福の王子」パロ。この後に「白鳥の湖」編と「雪の女王」編が続く予定……。

    【WIP】僕らがお伽噺だったころ【蜘蛛32AU】 眠りから覚めるときの、あの曖昧な感覚。瞼を透ける日の光がまどろみを穏やかに連れ去って、僕はベッドの中で目を醒ました。こんなによく眠ったのは久しぶりだ。誰かが僕の腰に腕を回していて、年若い僕の分身が一緒に眠っていたことを思い出した。僕が身じろぐと、ピートも目を醒ましたようだった。
    「ごめん、起こしたね」
    「ううん、起きてた」
     口ではそう言いながらも、ピートが眠そうに目を擦る。栗色の髪が、寝癖でひどい有様になっていた。彼は身ぎれいにしていれば相当に美男子だと思うのだけれど、こういうところこそをたまらなく可愛いと思ってしまうのは、彼がもう一人の僕だからか、それとも恋人のひいき目だろうか。僕らが互いの宇宙を行き来できるようになって、しばらく経った。それがどういう仕組みで起こるのか、なぜ他の宇宙ではなくこの宇宙とだけ繋がっているのか、全ては謎だ。僕らが宇宙間を移動するときには、それはただ「起こる」としか言えない。
    「何か夢を見た?」
     僕が尋ねると、ピートは考えるような仕草をしてから、首を横に振った。
    「今、夢のかけらがもみがらみたいに頭の周りを漂っていたんだけど——、捕まえ損ねて消えちゃったよ」
     僕らが互いの夢を報告するようになったのは、マルチバースについての刺激的な事実を知ったからだった。マルチバースを行き来できる少女によると、眠るときに見る夢は、別の宇宙の自分だというのだ。もしかしたら、そこにマルチバースの秘密を知る鍵があるのかもしれない。だから、僕らは夢を語って聞かせる。とはいっても、夢を覚えていることは難しかった。ヒーロー業でヘトヘトになって倒れ込んだ後にはそんな余裕はないし、起きてからよそ事を考えているとすぐに忘れてしまう。
     今日みたいに、ベッドでぐっすり眠れる日は貴重だ。まだベッドでごろごろしていたくて、僕はぼうっとピートを見つめた。ピートが僕を見てにっこり笑う。下まぶたを持ち上げる表情がキュートだ。
    「君の目、宝石みたいだ」
     まっすぐに僕を覗き込んで、大真面目にピートが言う。目をキラキラさせているのは君の方じゃないか。よくもこんなセリフを言えるものだと、感心してしまった。
    「ときどき、君って本当に僕と同じ人間なんだろうかと思うよ」
    「どういう意味?」
    「そのままの意味」
     きょとんとしているピートは、きっと分かっていないだろう。ピートに言われた言葉が頭の隅にひっかかって気持ち悪い。何かを思い出しそうな気がした。必死に記憶を手繰り寄せて、ようやく夢を思い出した。
    「君は覚えていないだろうね。僕の目が本当に宝石だったときのこと」
     ピートはを目をぱちくりさせた後、栗色の瞳をいっそう輝かせた。
    「それって、君の夢の話?」
    「うん」


    ***幸福の王子***

     その街には、ヒーローを讃える像があった。柔和な顔をした青年の像で、台座には「親愛なる隣人」と刻まれている。像は薄い金箔で覆われ、両の目はサファイアでできていた。胸にはシンボルマークのように、赤いルビーが埋め込まれている。彼が誰だったのか、何故彼の像が作られたのか、もう誰も覚えていない。けれども彼は小高い丘の広場の高い円柱の上から、ずっと街を見守っていた。
     一羽のツバメがその街にやってきたのは、もう秋だった。というのも、彼は困っているものを見ると放っておけない性格だったので、あっちで枝の絡まった柳の木を助けたり、こっちでひっくり返った亀を起こしたりしているうちに、ほかのツバメたちに置いて行かれてしまったのだ。早く南の地へ行かなければ、ツバメの肌は冬に耐えられない。一日中飛び続けて、街へやってきたのはもう夜中だった。一夜の宿にしようと、ツバメは隣人の像の足元に降り立った。
    「ひどいな。蜘蛛の巣だらけだ」
     翼が蜘蛛の巣をひっかけないように気を付けながら、ツバメは羽を休めようとした。
    「心配には及ばないよ。蜘蛛たちは僕の友達だから」
     上から降ってきたのは、穏やかな男の声だった。いったい誰だろうと、ツバメは声のしたほうを見上げた。しかし、命のあるものは何も見えない。ツバメがあたりを見回していると、もう一度声がした。
    「この街にようこそ。ツバメさん」
     それが自分がとまっている像の声だと気が付いて、ツバメは驚きのあまり落っこちそうになった。(もちろん、彼は飛び方を心得ているのでそんなことにはならなかった)
    「ピート。ええと、ピートです。僕の名前」
     どきどきしながら、ツバメは自分の名前を告げた。しゃべる像に会ったのは初めてだった。
    「いい名前だ」
     像の表情は変わらなかったが、目を細めたように思えた。
    「きみの名前は?」
     ピートが尋ねると、ややあって像が答えた。
    「もう忘れてしまったよ。名前があったのは、ずいぶん前のことだから」
     ピートは賢いツバメだったので、像の台座の文字を読むことができた。「親愛なる隣人」と書いてある。
    「僕、エジプトへ行く途中なんだ。きみの足元で休ませてもらえると助かるんだけど」
     そのときピートは、雨も降っていないのに、隣人のサファイアの目が濡れているのに気が付いた。
    「君は、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんだい」
     青い目から零れる涙を見て、ピートの小さな胸が痛んだ。隣人の像は小さくため息を吐いた。
    「高いところからは、街の様子がよく見える。僕は街の人の貧しさや悲しみを、ずっと見てきた」
     隣人の像は、ずっと遠くを見つめていた。
    「広場からずっと向こうの粗末な家に、老婦人が住んでいる。彼女の夫は通りすがりの犯罪者に殺されて、わずかな年金で貧しい生活をしているんだ。養わなければならない甥っ子もいるのに、もうすぐ彼女は家を手放さなければならない。彼女の夫との思い出が詰まった家を」
     隣人の像は声を詰まらせた。
    「ピート、どうか僕の胸のルビーを取って、彼女のところへ運んでくれないか。僕の足はこの台座に縫い付けられて、動くことができないから」
     ピートはぜひともそうしたかった。怯える老婦人のことを思うと胸が痛んだ。しかし彼は、既に仲間たちから遠く離れてしまっているのだ。
    「僕の友人たちは、エジプトで僕を待っているんだ。きっと今ごろ、ナイル川の上を飛び回っているに違いない」
     ピートは顔を伏せた。
    「頼むよ、ピート。これは僕の、心からの願いなんだ」
     そう言われては、ピートは断れなかった。ピートは一晩中かけて、隣人の胸にはめ込まれたルビーをくちばしでつついて外した。若いツバメは金持ちの男が開いた舞踏会と、庭に並べられた豪勢な食事を飛び越え、街のずっと向こう、老婦人の家の窓にたどり着いた。針仕事に疲れて眠ってしまった彼女の手に、ピートはそっとルビーを握らせた。それから熱を出して眠っている彼女の甥っ子を、翼で仰いでやった。
     
     隣人の像のところへ飛んで戻ったピートは、燃えるような喜びに羽を震わせて言った。
    「とても素敵な気分だ。ルビーを見たときの、老婦人の嬉しそうな顔といったら! 僕はもう、寒さなんて忘れてしまったよ」
    「君は優しいね」
     隣人は嬉しそうにピートを見た。そのサファイアの瞳の輝きに、ピートはうっとりと見惚れてしまった。
    「ピート、君の優しさを見込んで、もう一つ僕の頼みを聞いてくれないか。ここから見えるある家で、一人の少女が眠っている。あの娘は病気なのに、父親には彼女を治してやるための金がない。彼女の治療費を稼ごうとして、父親はつまらない犯罪に走ってしまった。今、彼は冷たい路地裏で、自分の罪を悔いているところだ」
     ピートはためらった。彼はもうエジプトに出発するべきだった。彼の友人は今ごろ、スフィンクスの上で日光浴をしているに違いなかった。寒さはこの街を覆いつつあり、ピートの薄い羽は、それに耐えられそうにない。
    「ピート、僕からサファイアを外して、彼のところへ持って行ってほしい」
     隣人の言葉にあんまり驚いて、ピートは自分の事情など忘れてしまった。
    「しかし、それは君の目じゃないか」
     隣人の美しい目をくり抜くなんて、ピートにはできそうもない。けれども隣人は引き下がらなかった。
    「頼む、そうしてほしいんだ」
     ピートは泣きそうになりながら、やっぱり一晩かけてサファイアの目を取り出した。その宝石に傷を付けないよう、大事に大事に運び、路地裏ですすり泣く男の、筋ばった手に乗せてやった。ピートは隣人の足元に戻ってくると、疲れ果ててそのまま眠った。風は冷たかったが、あの男の瞳の奥に希望が灯った光景を思い出すと、心は温かかった。

     次の日、目覚めたピートは像の台座に霜が降りているのに気がついた。もう本当に潮時だった。見上げると、片方の目を無くした痛々しい隣人の姿が目に入った。ピートは冷え切った翼を羽ばたかせ、隣人の肩にとまった。
    「もうお別れだ。僕はエジプトへ行くよ」
     隣人は、片方になった目を悲しそうに曇らせた。
    「ピート。小さなピート。最後にもうひとつだけ、僕の頼みを聞いて欲しい」
     隣人はピートに、街の北にある粗末な屋根裏部屋のことを聞かせた。
    「身寄りを無くして、友達にも忘れ去られたひとりぼっちの若者がいるんだ。暖炉にくべる薪すらない寒い部屋で、必死に勉強している。彼にはお金がなくて、いつもお腹を空かせている。あの子がどんなに高潔な魂を持っているか、僕は知っている」
     ピートは、この心優しい像が何を頼もうとしているのかよく分かった。そうして、自分がそれを断らないだろうことも。それでも、どうしようもなくピートの胸は痛むのだった。
    「僕のもう一つの目をくりぬいて、その少年にあげてくれ」
     ピートは、もう一日出発を遅らせることに決めた。しかし、たった一つになった隣人の像の目を抜き取るのは、思った以上に辛いことだった。サファイアを咥えて街を横切りながら、ピートは自分の翼に、もう力がなくなってきていることに気がついた。彼はもう空高く飛ぶことができず、通りを切るように低く飛んだ。ようやくたどり着いた屋根裏の若者は、まだ頬に少年のような幼さが残っていた。ピートには、その若者はどことなく隣人の像に似ているように見えた。ピートは疲れ果てて眠る若者の枕元に、そっとサファイアを置いてやった。
     その夜、ピートは両目を無くした隣人の像に、街の様子を語ってやった。
    「あの老婦人は、まだあの家に住んでいるよ。家を手放さずに済んだんだね。甥っ子の病気もよくなって、二人とも幸せそうだ。それから、あの少女はお医者さんにかかれたみたいだ。ベッドの上で楽しそうに父親と話している。それにほら、あの若者の暖炉に火が灯っている。食卓にはパンと、湯気のたったスープも見える」
     今や隣人の目は空洞でしかなかったが、それでも彼の顔は満足げに見えた。
    「ありがとう、ピート。それを聞いて安心したよ。今まで引き止めて悪かったね。もうエジプトに向かって出発してくれ」
     ピートは、小さく頭を振った。彼の心はもう決まっていた。
    「いいや。君はもう何も見えない。だから、僕が君の側にずっといるよ」
    「何を言うんだ。君は南に行かなくては。もう冬はすぐそこだ」
     隣人の声には動揺があらわれていた。
    「君の側にいたいんだ」
     ピートは小さな体を、隣人の像に押しつけた。銅でできた彼の体は冷たかったが、ピートは気にならなかった。隣人は何も言わなかった。ピートは人助けを続けたかった。隣人はそれならと、彼の体に貼られた金箔を、貧しい人たちに分け与えてほしいと言った。ピートは金箔を一枚一枚はがしては、街の西へ東へ、それを届けに行った。人を助けていないときには、ピートは隣人の話し相手になり、自分がこれまで旅した街の光景を語ってやった。風に踊る葦の川辺、一面真っ白な壁の家が並ぶ海辺の街、風が吹きすさぶ荒涼とした丘。ナイルの泥の中で寝そべるワニたち。刺すような太陽の下で、列を組む駱駝たち。そのどれにも、隣人はじっと耳を傾けた。

     ある朝目覚めたピートは、それが自分の最後の日であることを悟った。彼にはもう、街の向こう側まで行くほどの体力も残ってはいなかった。最後の力を振り絞ると、彼は隣人の肩にとまり、耳元で囁いた。
    「もうお別れだ、愛しい隣人さん。最後に君の手に、お別れのキスをしてもいいかな」
     隣人は心底安堵した様子で、彼の旅立ちを喜んだ。
    「やっと南へ行く気になってくれたんだね。でも、お別れのキスをするなら、手ではなく唇にしてくれないか。僕も君のことが大好きだから」
    「いいや、これは南への旅じゃない。僕は死の国へ旅立つんだ」
     ピートは隣人の唇に口づけると、そのままパタリと彼の足元に落ちた。そしてそれっきり、もう動かなかった。そのとき、すさまじい音が広場に響いた。それは隣人の鉛の心臓が割れた音だった。それほど、それは寒い日だった。

     街の遙か上空で、神様は一人の天使に命じた。「あの街で、もっとも尊いものを持ってきなさい」と。天使は街へ降り、二つに割れた像の心臓と、一羽のツバメの死骸を天の国へ連れて帰った。神様はそれを見て、「あなたは正しい選択をした」と告げた。神様は隣人とそのツバメを、永遠に彼の国に住まわせた。
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    310to

    PROGRESS蜘蛛32の日おめでとう~ ということで書きかけの32です。さわマルに完成品をアップできるといいな…
    Letters From (Another) New York(書きかけ)「あなたは私のヒーロー」
     金色で書かれた文字は、そこだけわずかに膨らんでいる。年季の入ったグリーティング・カードは、未使用だというのに少しくたびれて見えた。穏やかなペール・ブルーの背景に、手描き風の字が光っている。筆豆とは言えない僕がこんなものを手にしているのは、強盗を捕まえたお礼にと文具店の店主に押し付けられたからだ。流行遅れのペン、手紙を送るには大きすぎる封筒、黄色くなりかけているセロハンテープなどと一緒に。カードを手にした彼女はこう言った。「ヒーローへのお礼にはピッタリ」とかなんとか。たぶん、父の日か何かの売れ残りだったのだろう。売り場でずっと埃をかぶっていたことがうかがえる。
     メイおばさんに送るクリスマス・カードを除けば、カードを送る習慣は僕にはほとんどなかった。それでなくとも、ほとんどを電子メールで済ませてしまう時代だ。今思えば、ベンおじさんに父の日のカードを贈れば良かった。でも小さい頃の僕は、おじさんを父親と呼ぶのが怖かった。そうしたら、父さんが死んだことを本当に認めなければならない気がしたから。
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