「このことは他言無用だからな」
フウガはいつもそう言ってから、俺に噛み付く。
修行場から離れた、雑木林の中。俺と、フウガだけ。口を噛まれたり、舌を絡められたり、痛くて擽ったくて、奇妙な気持ちになる。
俺はいつもされるがまま。ただ、この時間が早く終わればいいと思いながら目を閉じ続ける。
たまに苦しくなって、抗議でフウガの肩や腕を叩くこともある。フウガはその行為に対しては、文句も言わない。笑うだけ。
分からない。
フウガが何を考えているか、俺には分からない。
虐げたいのだろうか。
辱めたいのだろうか。
それにしては、やり方が変だ。
他言無用だ、と指をたてるフウガの目はいつも煌々と輝いてて、空の星より綺麗で。
俺の口に噛み付くフウガはいつも必死で。
俺の手を掴むフウガの手はいつも熱くて。
俺も何か応えなきゃいけない。けれど、フウガがどうすれば喜ぶのか、分からない。
「何を考えている、モクマ」
フウガが離れる。
憮然とした顔でフウガが俺に聞く。
何を、考えてるかって。
俺はずっと。
「フウガの、こと」
そう、フウガのことを考えてた。
この行為の意味は。何を考えてるのか。フウガにとって俺は何なのか。
フウガのことを考えて、考えて、目の前のフウガを見つめてた。
そう答えたら、フウガは一瞬目を丸くして。
そう思ったら、いつもと違う笑顔で俺を見た。
フウガの白い肌が赤くなって。
泣きそうな顔をして、笑ってた。
フウガが、喜んでる。
「フウガのこと、見てた」
また俺は答えた。
フウガの顔はもっと赤くなって、笑顔が歪んだ。
あれ、間違えた?
「んっ、ぅ」
噛みつかれた。
良かった、間違えてなかった。
「んぅう……っ」
ねばねばした音が、俺とフウガの間からする。これ、恥ずかしい。すごく恥ずかしい。
「ふぁ……」
フウガが離れる。唾液の線が、俺とフウガを繋げてる。途中でぷつっと切れ、俺の口の端にくっついた。
なに、これ。
全速で里を走ったってこんな息は切れない。うまく息ができない。顔が熱い。フウガから、目が離せない。
「ずっと、これからも、私のことだけを考えていろ、モクマ」
フウガの目が、また光った。
俺は知らない間に、いつの間にか頷いていた。