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    はるしき

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    はるしき

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    10/9『つきにむらくも』にて発刊(もしくは展示)予定のフウモク尻叩き進捗
    お酒にまつわるフウモク2本目(原作頃年齢のIF主従)

    ##フウモク

     しゅるり、するり、しゅ。
     布同士が擦れる音で、フウガは重く閉じていた目を開ける。
     ぼんやりとひらいた霞んだ視線の先。
     白い毛が交じった黒髪の男の背が見える。
     細いくるぶしがゆらゆら揺れ、身体を揺らしている。着替えているのか。フウガは眉を寄せる。
     障子の白が明るい。もう朝だった。こんなにも寝こけてしまうのは珍しい。昨夜、目の前で着替えをしている男と酒盛りをした後、体を重ねたからか。
     僅かな頭痛と程よい倦怠感がフウガの覚醒を遅らせた。
    「よし、と」
     ぱん、と何か張りのあるものを叩く音が聞こえた。
     くるぶしが遠ざかる。
     私に無断で、どこへ行く。
     浮かんだ思考は口には出さず、フウガはようやく気怠い身体を起こす。
    「どこへ行く」
     思考の半分を飲み込み、後半だけを吐き出す。
     ん、と男がフウガの掠れた声に振り返る。
     男……モクマは、ほんの少し首を傾げフウガを見下ろす。
     平素と変わらぬ菊をあしらった黄色い羽織に袖を通したモクマは、きょとりと垂れた目を丸めフウガを見下ろしていた。
     フウガは問いを投げかけたまま、形の良い柳眉の眉根を顰めたままモクマを見上げる。
     少しの間を空け、問いの意味を理解したのか、フウガの機嫌を窺っていたのか、モクマはへらりと相貌を崩し口を開いた。
    「外からの観光客だ。今日は俺が案内をする日でな」
     外からの観光客。その言葉に、眠気を引きずっていたフウガの思考が徐々に晴れていく。



     マイカの里は、海外から来た実業家の男……アッカルドと、フウガの妹であるイズミの手により大きく開かれた。
     ミカグラの友好と融合。閉ざされた里であったマイカの反発は当初激しいものであったが、音頭を取ったイズミの言葉と、当時の里長であったタンバの鶴の一声により、マイカの門扉は恐る恐るながら開かれた。
     マイカの里の魅力を知ってもらいたい。
     イズミは願い、アッカルドは提案し、二人は動いた。
     ブロッサムの市街に建てられたマイカの里のアンテナショップには、マイカの文化を伝える展示物が揃っている。
     アマフリ石の採掘を終えた採掘場跡地に建てられた海中ミュージアムは、マイカとブロッサムの文化を体感し学ぶことができるアミューズメント施設として、子供から大人まで幅広い世代が楽しむことができると海外からも注目を集めていた。
     様々な事業を打ち立ててきたアッカルドとイズミであったが、それだけでは足りないと二人でマイカの里を訪れ、タンバとコズエ、フウガに直談判をした。
     マイカの里の観光事業。
     外部の人間をマイカの里に入れる。
     当初、コズエは酷く反対したが、アッカルドとイズミは案を提示した。
     毎月抽選で選ばれた極少人数の観光客のみがマイカの里へ実際に足を踏み入れることができること、それは王族であるタンバ、コズエ、フウガが選ぶこと。
     夜毎繰り返されてきた議論。交わることが無い意見。フウガは次第に議論の場に出向くと頭痛がするようになっていた。
    「イズミ様も、随分大胆なことをお考えなさったなぁ」
     大樹の太い枝に腰掛け幹に背を預けたモクマが笑っていた。
    フラフラと揺れるモクマの足を、木の下で同じように幹に背を預けたフウガは腕を組み見上げていた。
     風が音を運ぶ。木の葉同士が擦れ合う音が耳を擽る。
     束の間の休息。
     フウガの心が凪ぐ瞬間。
     心地いいモクマの低い声。
    「俺は良いと思うけど」
     モクマは視線だけをフウガに向け、笑い、そう答えた。
     穏やかに緩んだモクマの視線は、口ほどに物を言った。
     この天衣無縫で聡い己の右腕がそう言うのならば、このような表情を浮かべるならば、己が異を唱える必要もない。
     モクマの言葉を頭に置き、フウガは自らの意向をイズミに伝えた。
     協議の場では賛も否も口にせず、ただイズミとコズエの議論を聞いていたフウガのその言葉に、母と妹はひどく驚いていたが、在りし日のタンバの鶴の一声のように、フウガのその言葉から全てが始まった。

     ありがとうございます、ありがとうございます、兄上。

     アマフリ石のように美しいイズミの瞳に浮かんだ涙と、深々と下げた頭と共に波打った髪に、フウガは思わず見惚れていた。
     コズエはそれ以上異を唱えず、タンバは腕を組んだままゆっくりと頷いていた。

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