巨人の肉④いつも廃教会の周りは静かな方だが、夜になると一層雰囲気がある。そこに住む住人ヘカテは長い黒髪にシスターの装いをしているが、何より目立つのはその身長の高さだ。
アリアを見た後で言うのもなんだが、ヘカテ自身も204センチという大きさだ。
ディーゼルは自分の言葉を聞いて難しい顔を浮かべるヘカテを見上げる様に見た。
「...エルツ様は私に人殺しの加担をさせる為武器を頂いているわけではありません。武器商人でもありませんし。」
「悪いな。」
そう言いながら教会を今後にしようとしたディーゼルは思い出した様にボロボロの皮財布から札束を取り出す。
その様子を腕組みしながら見ていたヘカテの眉がピクリと動く。
「武器商人ではないと言っているのですが?」
「いや、お小遣い。可愛い娘を守ってくれるパパのとこでも行ったら〜?」
「エルツ様はそんなでは...」
「実際、教会から動けないんじゃ困るでしょ?」
そう重い口調で言い放ちつつさらにヘカテによれた札束を差し出した。それを渋々受け取るヘカテに背中を向ける。ひらひらと手を振りながら教会を後にした。
そして日が上がる前、セリカがアリアの元へ行くと、子供じみたあの歌が聞こえた。
「あ、あれ、セリカちゃんだけ?」
「ディーゼルなら、外で待ってる。」
そう言いながらセリカはコードをガシャガシャと乱暴に外していく、コンピュータからブツっと音がしたりエラー音が鳴り響く中、小さな爆弾などを使い研究所の扉をこじ開け無理矢理押しでる。アリアは外の空気と共に少し赤らんだ空を見つめる。
「う、嬉しい、な。こんなに、外広かった、んだね」
涙を流しながら、小鳥の様な声を弾ませ赤らんだ空に手を伸ばして、歩き始めようと足を一歩前に出した。
赤いレーザーポインターはアリアの頭一点に伸びていた。頭を撃ち抜かれ、そのまま倒れる。頭から血が流れている。訳がわからないと言う様な顔で呆然と血を拭い、アリアは血に濡れた手を空に伸ばす。
「わ、わたし、そとに、そとに...」
期待を胸に抱いたまま、アリアは笑みを浮かべ、そのまま深い眠りについた。
その日の昼間。タイプライターの音が鳴り響く部屋の中にディーゼルと、テーブルの上にセリカに差し出されたオレンジジュースを訝しげに見つめているセリカがいた。
「酸っぱい、これ酸っぱい。」
「酸っぱいの飲んだら立派だぞ。」
「うえー、立派じゃなくていい。おいチリチリ、リンゴジュースにしろ。」
「チリチリだってよ。キール」
くつくつ笑うディーゼルにキールと呼ばれたチリチリ髪の男は軽く舌打ちをした。タイプライターから手を離し打った紙をディーゼルに差し出す。
「ほら追加ダヨ。」
「一生仕事終わらないんだけど。」
そしてキールは横に置いてある。厚切りステーキに手を伸ばす。鉄板からはまだ肉の焼ける音にブラックペッパーなどのスパイスの匂いが香るステーキにナイフを入れていく。
「で?研究者も殺せたノカ?」
「ええ、必死そうにアリアの元へ走って行って行ったよ。惨めったらしく泣いてね。」
追加資料に目を通しながら、ディーゼルは笑ってみせた。傍のセリカのオレンジジュースがなくなり、氷だけになりカランと音を立てる。
「珍しく気にしてる様ダネ。ディーゼル。」
「気にしてる?俺が?」
「子供が相手だったからカナ?」
「...まさか。」
ナイフを入れたステーキにフォークを刺す。レアステーキの赤身がよく見えた。
「...そういえば、なんの肉だ?それ?」
キールは肉を口に入れる。肉を咀嚼し終えると並びのいい白い歯で笑った。
「これ?巨人の肉さ。」