鶴宇佐の宇佐美くんと月鯉の月島が転生して現代だらだら話すだけの話「鶴見さんにどうしたら手をだしてもらえると思います?」
「鶴見先生だろう」
「“鶴見先生”。いいですよね、この背徳な響き」
ふふ、と意味ありげに笑う。
「そもそもどうしておれに言う」
適切な助言ができると思うか、と言外に含め言うと宇佐美はきょとんと目を丸くし首を傾げた。
「? そこにいるから」
「はああ…」
ため息がでた。
ここは私立高等学校。柔道部の部室の裏手である。稽古の合間の小休止。木陰で一息つく三年生で部長である月島の隣に二年生の宇佐美が腰掛け声をかけたが一声目からおかしかった。
「そもそも先生が生徒に手をだしたら犯罪だ。中尉殿を犯罪者にするおつもりか」
「わかっていますけど。せめて、デートくらい……」
「どう考えても駄目だろう」
宇佐美にしてはだいぶの妥協点だとは月島にも理解できたが社会的にはやはりアウトであった。
「大体先日だって、僕のおかげで中等部のボンボンと仲良くなれたんでしょう」
それを言われるとぐうの音も出ない。「見つけましたよ。会いたいでしょう」と高等部と棟の違う中等部に入学した鯉登音之進を見つけ月島と引き合わせるように仕向けたのが宇佐美であった。当初は運良くないし運悪く前世という血腥い記憶を持ち合わせた月島と宇佐美が出会ったのはともかく、その記憶を持ち合わせているかわからない鯉登と出会うことを月島は躊躇った。しかし宇佐美は「僕だったら鶴見中尉を見つけて出会わないなんて、考えもしませんでしたけど。月島軍曹にとって鯉登少尉は大事な人じゃありませんでした?」と問われ。とりあえず出会うだけでもと機会をつくったら、どういうわけだか月島は鯉登に懐かれ、月島が目を白黒させる間に宇佐美は吹き出した。
「だが宇佐美。常々お前は、鶴見先生のことは自分が一番知っていると言っていなかったか」
「っそりゃあ!」
「ならいいだろう。おれに聞くこともない」
一見冷たく放すようだが、宇佐美には問題なかった。両手で口許を覆い「鶴見さんの一番は僕、」と呟き目許を染めていた。
今世には憚らなくなったのか、またはこの軍人もいない世でそう簡単に殺せず別の手法に切り替えたのか、鶴見に好意があるのだと逆に鶴見に好かれているのだと宇佐美は人目を気にせずあからさまに主張するようになった。そうは言っても鶴見に黄色い声を上げる生徒に妬き何かするわけではない。いや、実際には妬いているのかもしれないが、自身より好意を得ようとしていなければ、取るに足りないらしく「さすが、鶴見さん」と人望ある姿に頬を染めていた。
むしろ宇佐美にとっては鶴見に反抗的だったり困らせようとする者の方が勘にさわるようで、そういう者を見つけると様子を見たり話をしたりするらしい。
おそらく、宇佐美が鯉登を見つけたのもその過程で小耳に挟んだ何かに違いない。
ちなみに「素晴らしい先生」だと敬愛する程度に鶴見を慕う鯉登も宇佐美はその情報を得る手段としたらしい。「少尉殿を使うな」と流石に月島も知ったときに咎めたが、「少尉殿が入学する前に校内行事で撮られたお写真などを使った正当な取引ですよ」と言われると、深くは言えないのであった。身に覚えがあるとはこのことだ。
「ねえ、月島軍曹」
「なんだ、」
「僕が死んだあとの鶴見中尉、どうでした?」
「一度、聞いてみたかったんです。月島軍曹ならご存知だと思っていたので」
「いえ、」
一区切りし、鋭く月島を見尋ねる。
「月島軍曹がご存知でなかったら。ーーー、許せないなと思います。…あ!でも!もちろん。月島軍曹の方がお先でしたら仕方ないと思いますよ」
“お先”、お先に逝っていたら。
一転にこり。まるで自分は無害だとわざわざ顔に描いたかのように宇佐美は笑った。
それは例えば、鶴見が宇佐美を看取ったあとその亡き骸をどう扱ったのか、だとか。そういったことは聞いていないのだ。
鶴見の最期はどうであったのか。
〉柔道部先輩後輩している月島先輩と宇佐美くんがだらだら平和にお話する話
だったはずでした。
おかしい不穏だ……
と思ったのでおしまい。
▪️高等部
三年生 月島/柔道部
二年生 宇佐美/柔道部
▪️中等部
一年生 鯉登/剣道部
私立高等学校中等部が同敷地内にあるタイプの学校。
宇佐美くんは鶴見先生がいると知って中等部一年から在籍。月島は特待枠とかで高等部からの入学。
鶴と宇と月の新潟組の関係性が好きなんですが、うまいものが浮かびません。