お題:くしゃみ くしゅっ、と小さな音がした。
誰かのくしゃみの音か、とその場にいた全員が目を一点に向ける。
視線を受けた佐藤は、きょとんとしてから手をパタパタと横に振った。
「違う違う。違います。私じゃないわよ、今のくしゃみ」
「佐藤さんじゃないんですか?」
白鳥が意外そうに目を見張る。今、この場には佐藤しか女性がいないのに、と。
「じゃあ、今の可愛らしいくしゃみ、誰だったんですか?」
高木が不思議に思いながら周囲を見回した時、鼻をぐすっと鳴らす音がした。
今度はその音を立てた人物に目が集まる。
「………失礼」
鼻を押さえながら言った風見を見て、全員が意外な結果に茫然としたのだった。
*
車に乗り込みながら、風見は憮然として今日の捜査会議のことを思い返す。
「風見さん。このまま家に帰りますか?」
「いや、本庁に戻る」
「大丈夫ですか? 風邪気味っぽいし、無理しない方がいいでしょ」
運転席の馬場の言葉に、阿部も助手席で頷く。
「………わかった。後は任せる」
確かに、捜査会議中のくしゃみ以降、いつものようには上手く進められなかった。
見た目とくしゃみが一致してないのね、と言った佐藤に、高木が気まずそうに、笑っちゃだめですよ!と注意していたのが居たたまれない。
くしゃみひとつで、公安としての顔を維持し切れなかったのは不覚。
日頃から降谷に言われていた通り、自己管理がなっていなかった。ここは大人しく帰宅して、明日までに治そう。
馬場に送ってもらい、そのまま帰宅してすぐ、スマートフォンが鳴った。
『風見か』
「降谷さん。お疲れさ……くしゅっ」
挨拶し終えないうちに、またくしゃみが出た。
しまった、と風見は青ざめたが、降谷は特にくしゃみには触れずに今日の捜査会議について確認する。
『わかった。今日はゆっくり休めよ』
だが、そう最後に付け足したのを見るに、こちらの体調はバレバレらしい。
風見が降谷の気遣いに礼を言い終えないうちに、電話は一方的に切られてしまった。
いつものことなのに少しさびしいと思うのは、風邪気味で弱気になっているのだろうか。
「……寝よう」
スマートフォンを充電器に差すと、風見はネクタイを緩め、着替えることにした。
*
スマートフォンをしまい、降谷は肩をすくめる。
「あいつの家、まともに調理道具なかったよな……」
となると、自分の家で作ったものを持っていくか、調理道具を持ち込むかの二択。
「……鍋、取りに帰るか」
やはり、出来立てを食べさせる方がいい。
そう決めると、降谷は風見の可愛いくしゃみを思い出して苦笑しながら、お粥作りの道具と材料を取りに、まず帰宅することにした。