カカオ70%以上その微笑みには意味など無かった。
いや、あって欲しくないっと、初期刀の加州清光は審神者の書斎での光景に顔を覆う。本日は2月14日のヴァレンタインデェー。
「まったく、本当に困った刀ね。そんなに、私を困らせて楽しいのかしら?」
ふふふっと光悦に微笑む自分の審神者。本業は大学。ロングのワンピースとデニムのホットパンツ、すらりと伸びた足を引き立てる黒いストッキング姿。
審神者-彼女の前には、白のペリースと白いジャケットを脱ぎ、白のベストに黒のシャツ姿に正座、両手首と目元を手拭いが巻かれている。同じ刀剣男士の亀甲貞宗だ。
息荒く、口元は緩やかに笑みを作る。
自分の主は斜め上なのは理解しているが、目の前の光景に脳が拒絶していた。
「それで、何が欲しいの?」
「何って?わかってて聞いてるのかな?」
「自分から焦らすのんて、本当に物好きな刀ねぇ。そういう残念な所、大好きよ」
「あぁ!御主人様!」
まてまて、そんな愛情表現はどうなんだ。ここでツッコんだら何かに負けた気がする加州清光だった。
審神者は、亀甲の顎に手を添えて少し顎をあげる。顔を近づけて口元を耳にとささやく。
「……チョコ、欲しいの?」
「御主人様から頂けるなら!!」
「喜んで?」
「もちろん、喜んで!」
主が手に持つチョコは少し黒い。そういえば、主は甘いものを好まなかった気がする。どちらかというと、短刀たちが食べ物じゃないと言ったカカオ70%以上のチョコをボリボリと無心で食べてる所を思い出す。
「はい、あーん」
顎を持つ手に力を入れ、口をあける。
羨ましいがその対応のあーんは自分には無理だと加州はさとる。
チョコはすとんと口の中におちた。咬筋が動き、喉仏が上下する。ごくりと飲む込む音が響く。
「うん。やっぱり、御主人様が好んで食べる苦いチョコだね。僕が御主人様のチョコを食べてもよかったのかな?」
「嫌ならあげないなし、みんな食べないしね。でも平気なの?」
「苦いけど、これも御主人様からと思うと、不思議と甘く感じてしまうね」
主は「ブレないわね、私のささやかな心配返してよ」と呆れまじりの顔で、目元の手拭いを外し、手櫛で髪を整えてメガネをかける。
「おや、心配してくれたのかい?」
「………わるい?」
「いや。悪くなー」
言い終わる前に、主は顔を少し赤くさせて亀甲の頬をむにむにと摘み、何かもごもごと言っている。
気が済むと手を離して「あーんとか、やることないし、慣れてないから、恥ずかしいの!!」といい、正座をして顔を背ける。意外な一面に加州はポカンとしてた。
普段から、強気でちょっとワガママで斜め上だったり攻撃的な態度をすることもあるが意外な一面に驚く。
「僕のためにしてくれたのは嬉しいけど、御主人様が無理をしてまでするのは良くないよ。」
「無理じゃないですぅー。来年はしっかりやりますぅー」
「期待してもいいのかな?」
「や、やるわよ。来年はしっかりやります!」
「あぁ、でも無理は良くないからね。」
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「難しい。」
「そう?初めは調子よかったじゃん。」
両手首の手拭いを外れた亀甲は「お茶にでもしようか。ちょっと準備するから、それまで御主人様は休んでいてほしい」と返事を返す前に書斎から出ていっている。
終始見ていた加州にぽろりと言葉をこぼす。
「慣れないことはするもんじゃないわね。」
書斎のローテーブルに突っ伏す審神者。
少し離れた、いつもの定位置に加州は座る。
「時たま、安定並みにオラオラするのに、最後は違かったね」
「こういう行事はいつもと違うのよ。羞恥心があるのよー」
「え?羞恥心って言葉をあったの?なに、まさか、乙女心とか?うそ?ほんとに?」
「やだ、やめて、心にグサグサくる。私だって、そんな乙女心似合わないって自覚してるもの」
「へぇー、鈍いのにそういう、持ってたんだ!」
主の意外な一面に加州は驚きながらもニヤニヤ、彼女の顔をみる。
「言わないでよー」
慌てて耳を塞ぎ、また赤みが残る顔で加州を睨む。その見慣れてない表情に「かわいいとこあるじゃん、あるじー」と続ける。
書斎にお茶請けを持って帰ってきた亀甲の背中をバシバシと叩いた。それを穏やかに微笑みながら受け止めていた。
審神者は心の中で少し泣いた。
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女子大生審神者の本丸は、お得用やチロルチョコの積み合わせを配布。
加州にはちょっとお高めのチョコを。たぶん。