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    海かぃ

    呪にはまった

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    海かぃ

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    人様からネタを奪って半ば強引に書いた五夏

    #五夏
    GoGe

    喫煙してるので注意
     辛うじて見える消え入りそうなくらい細い月は、夜空を照らすほどの光を放つことはなく、その変わりのようにいつもは見えないような六等星以上の星まで細々と輝いている冬の真夜中。ひんやりとした空気が体にも喉にもしみてくるけれど、それがなんだか心地よくも感じる。
     五条悟は、こっそりと寮の窓から抜け出し高専の屋上にやってきた。

    「さっむっ……」

     自分一人しかいないのに思わず声が出てしまうほど冷え込んでいて、見通しが甘かったかなと思いながらも、どうせ長居はしないとそのままここに居座っている。
     部屋着のスウェットパンツにTシャツ。その上に一枚薄手のコートを羽織ったラフな格好は、気温一桁の夜中には少々心もとないのは確かだ。吐き出す息は白くて、それが寒さを視覚的に表していて、余計に寒く感じもした。
     体を縮こめながら屋上の手すりに両腕を置いて体を預ける。高専関係の建物や明かり以外ほぼないここは、森に囲まれているため大地はどこまでも真っ暗で、その分、夜空が果てしなく遠くまで良く見える気がする。
     五条は漆黒のサングラスを外して、星空を見つめていた。吐き出す白い息に夜景が霞んでは、空気に息が溶けると視界が拓けていくのを数度繰り返し、それからコートのポケットに手を突っ込み、サングラスを無造作にいれた。ポケットの中で、ガサッと紙が擦れる音と、固いプラスチックの直方体がぶつかる感触がする。その2つを握り締め、少し柔らかな紙に包まれた塊は、手の中でぐしゃりと形を変えたのがすぐにわかる。握り締めたまま、空を見つめる五条の目線の先は遥か遠いけれど、頭の中で想いを馳せたのはアイツのこと。それから、アイツをかき消すように頭をふって、ポケットの中の塊を取り出した。
     焦らすようにゆっくりと広げた手のひらの上には、箱の形だったとは分からないくらいには変形した、開封済みのタバコの柔らかな紙でできた箱が1つと、紫色の安物のライター。
     何本か吸われて減っているタバコの箱から無理矢理取り出した一本も少し変形していて、五条は握り締めたことを少しだけ後悔しながらも、まっすぐになるように指で伸ばした。
     箱をポケットに戻して、タバコを口に咥える。タバコの吸い方なんて分からなくて、これが合ってるかなんて知るはずもない。アイツと硝子の見様見真似。
     ライターを操作すればすぐに小さな炎が現れた。その赤いともしびをタバコの先端へと近づけると、空気の流れに揺られて光がゆらゆらと蠢いていた。
     タバコに火をあてる。音なんてしないのに、じりじりとタバコの先端が焼けているような気もするけれど、きちんとついているのかは、いまいち分からない。
    「息をね、吸い込みながらつけるんだ」
     アイツがそう言ってたのはいつのことだったっけか。どれだけ吸い込むのかなんて分からなくて、胸いっぱいになるように深く吸い込みながら火をつけた。タバコの先端がチリチリと赤くなって、香りが一気に、鼻からも口からも入ってくる。

    「ぅえっ、げほっ、……っ、ごほっ、」
     強すぎる刺激に、案の定、途端にむせって咳き込んだ。咥えていたタバコを思わず口から外して、涙目になる。
    「ははっ、下手だな、悟は」
     居るはずのないアイツの声が真横から聞こえた気がして、思わず「うっせえ」と、悪態をつきそうになった。

     未成年がうまく吸える方ががおかしいんだよ。だから、お前から取り上げたんじゃん。

     指先ではさんだままのタバコの先端からは、ゆらゆらと白い煙が天に向かって伸びていて、ふわりと懐かしい匂いを漂わせている。少し距離をおいて嗅ぐ香りは、直接吸うそれよりも、遥かに頭にも体にも馴染んでいて思わずホッとしてしまう。
     だって、ずっと嗅いでいたのはこれなのだから。

     直接肺に入れたタバコの匂いも味も強すぎて、それは今まで知らなかったものだし、知るつもりもなかった。隣で感じていたアイツにまとわりついてる香り、唇と唇を重ねて移されたわずかな苦味を覚えていただけだ。
    「未成年が吸ってんじゃねえよ」「つか、体にわりいんだから、禁煙しろ」「俺がやなんだよ」
     夏油傑はよく五条に隠れて吸っていた。それでも夏油が屋上なんかで五条に隠れてこっそり吸ってきては、体や髪に染み込んでいる匂いで、五条にはすぐバレていた。
     このタバコとライターも、夏油が五条の前からいなくなった10日程前に夏油から取りあげたもので、五条の机の中に今まで律儀にしまってあったのだ。
    「18才になったら返してやるよ」
     ニヤリと笑ってそう伝えたのは克明に覚えている。

     五条はもう一度タバコを咥えて息を吸い込む。「肺にいれて暫く貯めておくんだよ」なんて言われたって、できるはずもない。すぐに、はぁぁぁーと吐き出した。自分から出てきた白い息が、タバコ臭いなのが変な感じで、むず痒くなる。

    「まっず……」

     こんなの平気で吸ってる傑の気がしれないなと、五条は思う。けれど、この副流煙いっぱいの香りも味も、どこか懐かしくて泣きそうになるのだ。
     任務で行った街中のすれ違う人の群れの中で、たまに感じる香りに振り向いては、見慣れた体格の長髪を探す。傑の呪力がここにはないと分かりきっているのに、もしかしたらと思わずにはいられない自分が女々しすぎて、その度に、うけるなと、人混みに紛れて独りで吐き出すように笑っている。
     コンビニでも売っているメジャーな銘柄だ。吸っている人なんてごまんといるのに、その香りだと思うだけで、傑が脳裏によぎる。
     灰をぽんぽんと揺らして落とす。少しだけ短くなったタバコを、もう一度口に咥えて深く吸い上げた。体の奥に届いたであろう煙を胸に貯めるのはやっぱりうまくできなくて、また咳き込んで涙目になった。多分絶対一生、こんなの美味いと思えないしうまく吸える気がしない。それなら甘くて美味しいケーキを食べるのに。
     五条は吸うのは諦めて、手指の隙間から紫煙がゆらゆらと上りゆくのをじっと眺めていた。

     俺のが先に18になるから、傑のタバコ、俺が吸いきってやる! と決めたのは、つい最近のことだ。
     今年も当然のように、五条は自分の誕生日を夏油と過ごす気でいた。明日は土曜日で休みだし、任務がなければ朝まで完徹だってできたはず。甘ったるいホールケーキを買って食べて、傑の部屋で騒ぎしてたんだろうなと思いながら。
     まさか自分が、夏油から無理矢理奪ったタバコと独り寂しく過ごすことになるとはこれっぽっちも思っていなかった。
     傑が18才になる前に残りのタバコも吸いきって、傑に返してなんかやらないし、もうこの匂いで傑を思い出すのもやめる。
     そう決めて、今日、自分の誕生日に机の引き出しから、忘れもせずにご丁寧にしまっていた傑のタバコとライターを取り出して吸ったのだ。
     全部吸いきってもきっと忘れられるはずがないと分かっていても、決めずにはいられなかった。勝手にバカやっていなくなったやつに振り回されるのはもう沢山。と言わんばかりに。
     たまってきた灰を、また揺すり落とす。どこまで燃やしてタバコの火を消すのが正解なのか分からなくて、もう寒いしいいやと、しゃがんで地面に先端を押し付けてグリグリと消した。
     空を見上げて立ち上がり、ポケットに手を突っ込んで、ぐじゃぐじゃになるのが分かっているのに、タバコの箱を握り締めた。

    「傑のばぁぁぁかっ!!」

     夜空に向かって叫んだ声は懐かしい匂いと共に空のなかに消えていった。


     時を同じくして、夏油傑は古びたアパートの小さなベランダの柵に寄りかかり、紫煙を吐き出していた。

    「夏油様がたばこを吸っているのはいや」
    「悪いものがいっぱい入ってるって、言ってました」
     夏油は二人の小さな少女の前では吸ってはいなかったけれど、隠れて吸う度に見つかり泣きつかれては困り果てていた。どうしたものかと考えた挙げ句、二人が寝たあとにベランダで吸って、それからシャワーを浴びるのが日課になった。今夜もそうだ。だから、今は多分、吸っていることは二人にバレていない。
     タバコの匂いに敏いのは、悟と同じだなとタバコをくわえながら、悟のことを思い出していた。
     最後に悟に取られたタバコとライターは、18才になったら返してくれると言っていたけれど、もう叶わないことだ。そもそも返してもらえたとして、多分あのタバコ湿気ってしまって美味しくないから吸いたくないなと、街中の明かりにかきけされて、星がひとつも見えない真っ黒な空を見上げ、紫煙がのぼり行く様を目で追いながら、クスリと笑った。
     18才になったら返してくれると言ったのは、きっとタバコが20歳になってから解禁だと知らなかったから。硝子も夏油も誰も訂正しなかったし。
     いつかそのことに気づいたら、悟はあの日のやり取りを思い出すんだろうか。
    「バカだなー、悟は」
     夏油はいつかのその日を思い描いて、ふふっと笑みを浮かべた。自ら悟のもとを去ったのに、忘れないでいてほしいと願うのは、むしのいい話だとは分かっているけれど、願わずにはいられなかった。

    「誕生日おめでとう」
     と、もう本人に直接言うことはない言葉を吐き出す。その声はすぐに漆黒の空の中に紫煙と共に消えていった。
     今日がなんの日がなんて、きっとずっと忘れないだろうなと、夏油には確信めいた自信があった。
     高専なら、こんなに晴れていたら満天の星が見えただろうに、ここにはない。それが少し寂しくもあるし、清々しくもあるのだけれど。

     タバコの火を消し、携帯用灰皿に押し入れる。もう一度見上げた空の彼方に、細くて消え入りそうな月を見つけた。悟も同じ月を見上げていたらいいのに。なんて、バカみたいに恥ずかしいことを考えて、空から目を離して、静かに室内へと戻っていった。

    【了】
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